ビーチ・ボーイズの名曲ベスト10
ビーチ・ボーイズは1942年6月20日生まれのブライアン・ウィルソンと兄弟のデニス・ウィルソン、カール・ウィルソン、いとこのマイク・ラヴ、友人のアル・ジャーディンによって1961年に結成されたアメリカのロックバンドで、初期にはサーフィンやホットロッドといった若者の流行をテーマにしか楽曲を数多くヒットさせた。60年代半ば以降はブライアン・ウィルソンがスタジオワークにこだわった、より深い音楽性に変化していき、そのうちのいくつかはポップ・ミュージック史に残る不朽の名作といわれている。今回はそんなビーチ・ボーイズの数ある楽曲の中から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲を挙げていきたい。
10. In My Room (1963)
ブライアン・ウィルソンとゲイリー・アッシャーによって共作され、アルバム「サーファー・ガール」とシングル「ビー・トゥルー・トゥ・ユア・スクール」のB面に収録された。サーフィン、ホットロッドといったアウトドアで陽気なイメージの音楽をやっていたビーチ・ボーイズだが、後に広く知られていくように、主要メンバーのブライアン・ウィルソンはきわめて内向的であり、部屋の中こそが完璧な世界であり宮殿であった。そういった意味で「イン・マイ・ルーム」と題されたこの曲はお似合いでもあるのだが、それ以外にもブライアン・ウィルソンには兄弟のデニス、カールと自宅の同じ部屋でコーラスを合わせた幸せな思い出があり、この曲でも3兄弟の素晴らしいハーモニーを聴くことができる。
9. Don’t Worry, Baby (1964)
アルバム「シャット・ダウン・ボリューム2」とシングル「アイ・ゲット・アラウンド」もB面に収録され、全米シングル・チャートで最高24位を記録した。ドライブ中にカーラジオでザ・ロネッツ「ビー・マイ・ベイビー」を初めて聴いたブライアン・ウィルソンは、衝撃のあまり思わず車を停めてしまったという。この曲はブライアン・ウィルソンが「ビー・マイ・ベイビー」にインスパイアされ、ザ・ロネッツに提供する目的でつくられたのだが、プロデューサーのフィル・スペクターに却下されたという。それで、ビーチ・ボーイズでレコーディングすることになったのだが、ブライアン・ウィルソンのボーカル・パフォーマンスは、特に高く評価されている。
8. Sail On, Sailor (1972)
ビーチ・ボーイズの1973年のアルバム「オランダ」は気分転換の意味もあって、タイトルがあらわしているようにオランダでレコーディングされたのだが、レーベルとしてはシングル・カットできそうな曲が無く、このままでは発売できないという判断をくだした。ちなみにブライアン・ウィルソンは精神状態が悪化し、曲もあまりつくれなくなっていたのだが、友人でもあるヴァン・ダイク・パークスと共作していたこの曲が採用されることになった。「オランダ」に収録されたブライアン・ウィルソンの曲はシングル・カットされたこの曲を含め、2曲だけであった。ブライアン・ウィルソンはこの曲のレコーディングにも参加していなく、リード・ボーカルはデニス・ウィルソンのはずだったのだが、新しいサーフボードが届いたのでサーフィンに出かけてしまった。それでギタリストのブロンディ・チャップリンが歌うことになったのだが、このソウルフルなボーカルが楽曲に深みをあたえた。全米シングル・チャートでの最高位は79位であった。
7. Caroline, No (1966)
ブライアン・ウィルソンのソロ・シングルとしてリリースされ、全米シングル・チャートで最高32位を記録した後、ポップ・ミュージックの金字塔的アルバム「ペット・サウンズ」にも収録された。ブライアン・ウィルソンとトニー・アッシャーの共作となるこの曲は、イノセンスの喪失というテーマをかつての美しい少女を題材として表現した、とても悲しいがゆえに美しくもあるバラードである。メロディーにジャズ的なコード進行が用いられていることも特徴である。
6. The Warmth of the Sun (1964)
ブライアン・ウィルソンとマイク・ラヴによって1963年11月22日、つまりジョン・F・ケネディ大統領がダラスで暗殺されたその日に書きはじめられ、アルバム「シャット・ダウン・ヴォリューム2」やシングル「ダンス・ダンス・ダンス」のB面に収録された。永遠に失われ、再び戻ってはこないものについての、取り返しのつかない深い悲しみがテーマになっているが、それでも思い出はまるで太陽の暖かさのように心に残り続けるということが、美しいメロディーとハーモニーによってあらわされている。
5. ‘Til I Die (1971)
ビーチ・ボーイズのアルバム「サーフズ・アップ」やシングル・カットされた「ロング・プロミスト・ロード」のB面に収録された。ある夜にブライアン・ウィルソンが海を見ながら感じた精神の不安定さや生と死についての思いをすべてあらわした、最も個人的な曲とも説明されているようだ。ブルース・ジョンストンはこの曲について、ブライアン・ウィルソンがつくった曲の中で最も素晴らしくヘヴィーだと評している。
4. Surf’s Up (1971)
ブライアン・ウィルソンとヴァン・ダイク・パークスによってビーチ・ボーイズのアルバム「スマイル」のためにつくられていた曲だが、アルバムそのものの制作が頓挫してしまったため、この曲も未完のままであった。それをブライアン・ウィルソンがカール・ウィルソンと共に完成させた。アルバム「サーフズ・アップ」のタイトル曲で、最後に収録されているのだが、タイトルに反してサーフィンのことはまったく歌っていない。というか、初期のサーフィン的なイメージとの訣別をあらわしているようでもある。音楽による神との邂逅とでもいうようなものについて歌われていて、楽曲の構成もひじょうに複雑なのだが、強靭なポップ感覚は保たれているように感じられる。
3. Wouldn’t It Be Nice (1966)
各メディアなどが発表するオールタイムベストアルバム的なリストでは上位に選ばれがちで、ポップスの金字塔とでもいうべきアルバム「ペット・サウンズ」の1曲目に収録され、先行シングルとして全米シングル・チャートで最高8位を記録している。「素敵じゃないか」の邦題でも知られるこの曲は恋人同士の未来や結婚についてのキラキラした希望が、めくるめくポップサウンドに乗せて歌われたものである。
2. Good Vibrations (1966)
「ペット・サウンズ」がリリースされた年の秋にはこのシングルが発売されて、全米シングル・チャートで1位に輝いている。様々な音楽的な実験精神に満ちあふれた、とてもユニークなサウンドが魅力的だが、その驚異的な情報量が約3分35秒のポップソングに凝縮されているのがまたとても良い。かといって必要以上に仰々しいわけでもなく、あくまでポップでキャッチーなところがすごいともいえる。
1 God Only Knows (1966)
「素敵じゃないか」のB面や「ペット・サウンズ」にも収録された、とても美しいラヴソングで、「神のみぞ知る」の邦題やフリッパーズ・ギター「ヘッド博士と世界塔」関連曲の1つとしても知られる。いつも愛しているとは言い切れないかもしれないが、もしもあなたがいなくなってしまうならば、一体どうやって生きていけばいいのだろう、というような脆弱が美しいものとして描かれているところがとても良く、長く愛されている理由のように思える。