ケンドリック・ラマーの名曲ベスト10

ケンドリック・ラマーは1987年6月17日、カリフォルニア州コンプトンで生まれ、テンプテーションズのメンバーなどとして活躍したエディ・ケンドリックスにちなんで命名された。8歳の頃に2パック「カリフォルニア・ラヴ」のミュージックビデオ撮影現場を見て感銘を受けるなどした後、16歳の頃にK-Dot名義で初のミックステープをリリースして話題になり、2011年にはケンドリック・ラマーとしてデビュー・アルバム「セクション80」を発表した。

メジャー・レーベルと契約後のアルバム「Good Kid, M.A.A.D City」は高評価を得るだけではなく、全米シングル・チャートで最高2位とコマーシャル的にもヒットし、続く「トゥ・ピンプ・ア・バタフライ」は全米アルバム・チャートで1位、グラミー賞ではマイケル・ジャクソンに次ぐ史上2番目となる11部門にもノミネートされ、各メディアのオールタイムベストアルバム的なリストにも選ばれがちな高評価を得る。その次のアルバム「HUMBLE.」も当然のように全米アルバム・チャートで初登場1位に輝くと、ラッパーとしては初となるピューリッツァー賞まで受賞してしまう。2022年のアルバム「ミスター・モラル・アンド・ザ・ビッグ・ステッパーズ」がリリースされた時にもかなり話題になったように、現在のポップ・ミュージック界における最重要アーティストといっても過言ではないケンドリック・ラマーの楽曲の中から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲を挙げていきたい。

10. Wesley’s Theory (2015)

「トゥ・ピンプ・ア・バタフライ」という素晴らしいアルバムの1曲目に相応しい、ジャジーでとてもカッコいい曲である。サンダーキャットやジョージ・クリントンのゲスト参加がこれでもかというぐらいに効いているのだが、主役であるケンドリック・ラマーのラップも勢いよくご機嫌にはじまったかと思いきや、物質文明についての疑念のようなものに変わっていくなど奥が深くてとても良い。

9. m.A.A.d city (2012)

「Good, Kid, M.A.A.D City」収録曲で、ケンドリック・ラマーと同じくコンプトン出身のMCエイトをフィーチャーしている。地元での生い立ちなどを語るストーリーテリングから、衝撃的な展開にも驚かされる。

8. Money Trees (2012)

「Good Kid, m.A.A.d city」に収録された、これもまたストーリーテリングが素晴らしい楽曲である。インディー・ロック・バンド、ビーチ・ハウスの楽曲をサンプリングし、エレクトロニカ・デュオ、ソニームーンのアンナ・ワイズがバッキング・ボーカルで参加しているのも特徴である。家族や地元、モチベーションのルーツなどについてヴィヴィッドに語られるラップがまたとても良い。

7. Swimming Pools (Drank) (2012)

「Good Kid, M.A.A.D City」からの先行シングルで、全米シングル・チャートで最高17位を記録した。よくあるパーティー・ソングのようにも聴こえるのだが、アルコール依存症への深い考察を含むなど、もちろん一筋縄ではいっていない。この曲のヒットによって、ケンドリック・ラマーの存在が一般大衆的にも認知されていったようなところもある。全英シングル・チャートにもこの曲で初登場して、最高57位を記録している。

6. Bitch, Don’t Kill My Vibe (2012)

「Good Kid, m.A.A.d city」の収録曲で、後にジェイ・Zをフィーチャーしたリオミックス・バージョンがシングルとしてリリースされ、全米シングル・チャートで最高32位を記録した。当初はレディー・ガガとのコラボレーション曲になる予定だったが、いろいろあってそうはならなかった。ケンドリック・ラマーの楽曲の中でも、特に上機嫌なポップ感覚に溢れている。

5. Backseat Freestyle (2012)

「Good Kid, m.A.A.d city」収録曲で、シングルとしてもリリースされた。ケンドリック・ラマーが影響を受けたラッパーの1人としてエミネムが挙げられているのだが、様々なタイプのラップスタイルや緩急のつけ方など、この曲には特にそれが感じられるような気もする。

4. The Blacker the Berry (2015)

「トゥ・ピンプ・ア・バタフライ」がリリースされたのは2015年で、エリック・ガーナー窒息死事件の翌年である。アメリカの警察官による人種差別的な暴力行為が殺人事件にまで発展するケースはずっと以前から問題視されているが、一向に根絶される気配がなく、2010年代には「#BlackLivesMatter」のハッシュタグが拡散され、BLMという略称でも呼ばれる抗議行動が活発化する。アルバムのハイライトの1つでもあるこの曲はPファンク的なサウンドに乗せて、レイシズムを激しく糾弾するものである。

3. Sing About Me, I’m Dying Of Thirst (2012)

「Good Kid, m.A.A.d city」に収録された約12分にもおよぶ楽曲であり、それぞれ異なった視点から語られる2部構成になっている。ストーリーテリングの見事さとエモーショナルなラップパフォーマンスが印象的であり、こういったタイプの楽曲における1つの到達点なのではないかともいえるクオリティーとなっている。

2. HUMBLE. (2017)

ケンドリック・ラマーの4作目のアルバム「DAMN.」からの先行シングルで、全米シングル・チャートで1位に輝いた。コラボレーション曲ではテイラー・スウィフトとの「バッド・ブラッド」ですでに1位を記録していたのだが、ソロ・アーティストとしてはこれが初である。「DAMN.」からは他の曲もいろいろ入れたいところだったのだが、「Good Kid, m.A.A.d city」「トゥ・ピンプ・ア・バタフライ」が素晴らしすぎて、結局のところこの1曲になってしまった。2022年のアルバム「ミスター・モラル・アンド・ザ・ビッグ・ステッパーズ」はもちろんとても良いのだが、情報量もクオリティーも驚異的であるがゆえに、まったくじゅうぶんに掌握したとすら言い切れず、ここではどの辺りに入るのか皆目見当がつきそうもなかったので、今回は入れていないわけである。

それで、この「HUMBLE.」なのだが、個人的には女性への視点などに思うところがなくもないのだが、最新型のポップ・ミュージックとして完璧ともいえるプロダクションに加え、ラップにも貫禄が感じられとにかく素晴らしい。しかも、全米NO.1ヒットである。

1. Alright (2015)

「トゥ・ピンプ・ア・バタフライ」収録曲で、全米シングル・チャートでの最高位は81位である。とはいえ、チャートでの順位が必ずしも楽曲のポピュラリティとは比例しないことのサンプルとでもいえるぐらいに、「#BlackLiveMatters」のアンセムとして、この曲は路上で歌われたという。ファレル・ウィリアムスが共同プロデュースをしたサウンド・プロダクションも素晴らしく、混迷の時代におけるポジティヴなメッセージ・ソングとして、21世紀のポップ・ミュージックを代表する1曲にもなりそうな気がする(すでになっているかもしれない)。