The 20 essential Ariana Grande songs(アリアナ・グランデの20曲): Part.1
アリアナ・グランデは1993年6月26日にアメリカのフロリダ州で生まれ、15歳の頃にブロードウェイミュージカルの舞台に立った後、テレビドラマに出演するなどの芸能活動を行っていたのだが、本当にやりたかったのは音楽アーティストとしてR&Bのアルバムを出すことであった。
やがてその夢も実現するのだが、そのスケールの度合いがとてつもなく、数々の記録を塗り替えたり音楽賞を受賞しまくったりもした。一方で化粧品ブランドを立ち上げて成功したり、社会貢献活動に力を入れたり、LGBTQやBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動に賛同の意志を表明したり、アクティビストとしての一面もあるところが今日的なポップアイコンという感じでとても良い。
今回はそんなアリアナ・グランデの楽曲からこれは特に重要なのではないかと思われる20曲を厳選し、ほぼリリース順に並べると共に簡単な説明も加えていきたい。
‘The Way (featuring Mac Miller)’ (2013)
アリアナ・グランデのデビューシングルは2011年の暮れにリリースした「Put Your Hearts Out」だが、ティーン向けのバブルガムポップという感じの楽曲であり、本人はまったく気に入っていなかったという。その後、プロデューサーのハーモニー・サミュエルズと出会い、共作者のジョーダン・スパークスが歌っているデモテープを聴かせてもらったところかなり良かったので、それを提供してもらうことにした。
仲の良いラッパーのマック・ミラーに手伝ってほしいことを伝えると快諾してもらえたのでレコーディングを行い、レーベルもやがて決まったのであった。アリアナ・グランデはYouTubeチャンネルなどを使ってリリースする前から告知を効果的に行い、プロモーションのためにいろいろなラジオ局を回ったりもした。
その甲斐あってかこの曲はいきなり全米シングルチャートで最高9位を記録するヒットとなった。その後、この曲を収録したデビューアルバム「ユアーズ・トゥルーリー」をリリースするのだが、これは全米アルバムチャートでもちろん最初の1位に輝いたのであった。
ポップでキャッチーでとても聴きやすいR&Bトラックでありながら、ボーカルはすでにとても力強く、かなりのポテンシャルを感じさせもした。その音域の広さからマライア・キャリーを思わせる、などと言われがちではあった。
歌がとてもうまいことには間違いがないのだが、けしてこれ見よがしではなく、あくまでポップでフレッシュである。ミュージックビデオではマック・ミラーとの仲の良さそうな感じがとても微笑ましいのだが、後に語ったところによるとこの頃はまだ真剣に交際はしていなかったとのことである。
‘Problem (featuring Iggy Azalea)’ (2014)
アリアナ・グランデの2作目のアルバム「マイ・エヴリシング」から先行シングルとしてリリースされ、全米シングルチャートの3位に初登場、最高2位を記録し、全英シングルチャートでは初の1位に輝いた。
オーストラリアのラッパー、イギー・アゼリアをフィーチャーし、クレジットはされていないのだが、ビッグ・ショーンも囁きのようなボーカルで参加している。
繰り返されるサックスのリフがとてもカッコよく印象的で、ジェイ・Z「99プロブレムズ」からの引用も含まれている。
‘Bang Bang (with Jessie J and Nicki Minaj’ (2014)
ジェシー・J、アリアナ・グランデ、ニッキー・ミナージュのコラボレート曲で全米シングルチャートで最高3位、全英シングルチャートでは初登場1位に輝いた。
ジェシー・Jのアルバム「スウィート・トーカー」とアリアナ・グランデのアルバム「マイ・エヴリシング」のデラックス盤にボーナストラックとして収録されている。
アリアナ・グランデがソロアーティストとしてレコーディングしていたのだが出来に満足していなく、リリースしないことにしようと思っていたところ、ジェシー・Jがこの曲を取り上げ、ニッキー・ミナージュもラップで参加した。そして、その音源を聴いたアリアナ・グランデもやはり歌うことにしたという経緯のようである。
ジェシー・J、アリアナ・グランデのボーカルとニッキー・ミナージュのラップというそれぞれの個性がじゅうぶんに発揮され、相乗効果も生むことによって、最高のガールズアンセムとして仕上がっている。
‘Love Me Harder (with the Weeknd)’ (2014)
アリアナ・グランデのアルバム「ユア・エヴリシング」からシングルカットされたザ・ウィークエンドとのコラボレーション曲で、全米シングルチャートで最高7位を記録した。
後に世界的に大ブレイクを果たすザ・ウィークエンドだが、この曲が最初の全米トップ10ヒットであった。
ポップでありながらダークなムードも感じられるサウンドと、セクシャルな内容が特に印象的であり、アリアナ・グランデにとってはよりアダルトなイメージを印象づける楽曲となった。
‘One Last Time’ (2014)
アリアナ・グランデのアルバム「ユア・エヴリシング」からプロモーション用のシングルとしてカットされ、全米シングルチャートで最高13位を記録した。
デヴィッド・ゲッタなどもソングライターの1人として名を連ねたEDM的でアップテンポな楽曲で、すでに別れた恋人の対して最後にもう一度だけ一緒に過ごしてほしいと懇願するような内容になっている。
2017年にイギリスはマンチェスターのライブ会場で自爆テロ事件が発生し、観客を中心とする多くの人々が死傷するという悲しい事件があったのだが、その少し後にチャリティーシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高2位のヒットを記録した。
‘Dangerous Woman’ (2016)
アリアナ・グランデの3作目のアルバム「デンジャラス・ウーマン」のタイトルトラックにして先行シングルで、全米シングルチャートで最高8位を記録した。
当初は「フォーカス」を先行シングルとして「ムーンライト」というタイトルのアルバムにする予定だったのだが、以前の作品と音楽性にそれほど変わりばえがしないのではないかというような意見もあったことなどから、この曲を先行シングルとし、アルバムタイトルも「デンジャラス・ウーマン」に変更したようである。
ミッドテンポなR&Bという感じで音楽的にそれまでのアリアナ・グランデの楽曲よりもオーセンティックなムードが漂っているのだが、コーラスの声が加工されていたりと絶妙にモダンな隠し味もある。
あなたの魅力を知って私は危険な女になってしまいそうというようなことが歌われたこの曲は、アリアナ・グランデのよりアダルトでセクシーな魅力を引き出しているといえる。
‘Into You’ (2016)
「デンジャラス・ウーマン」のアルバムから2曲目のシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高13位を記録した。
チャートでの順位だけを見るとアリアナ・グランデの楽曲の中でもそれほど特に大ヒットしたというわけでもないのだが、名曲ランキング的なリストなどでは1位に選ばれている場合も少なくはない。
EDM的な楽曲で静かめにはじまるのだが、キャッチーなサビで一気の盛り上がるということを繰り返しながら、曲も後半にいくにつれてボーカルがよりエモーショナルになっていくという展開がとても良い。
そして、恋愛において相手からのアクションを待ち、もっと会話は少なめで体にふれてほしいというようなことが歌われている。脈打つビートもまるで鼓動を表現しているようである。
‘Side to Side (featuring Nicki Minaj)’ (2016)
「デンジャラス・ウーマン」のアルバムから3曲目のシングルとしてカットされ、全米シングルチャートで最高4位を記録した。
ニッキー・ミナージュのラップをフィーチャーしたレゲエポップソングで、シングルカットするのはわりと攻めた選択なのではないかというような気もするのだが、「デンジャラス・ウーマン」からはこの曲が最もヒットしている。
タイトルの「サイド・バイ・サイド」はフラフラでちゃんと歩けないという意味なのだが、夜通し何をしていてそんなになったのかについてはお察しの通り、とてもセクシーな楽曲となっている。
ミュージックビデオでは「ICON」という文字の入ったキャップをかぶったアリアナ・グランデが他の女性たちとエクササイズ用の自転車を漕いでいたり、サウナでニッキー・ミナージュと共に肉体美を見せつける男性たちに囲まれていたりもする。
それにしてもメインストリームど真ん中のポップシンガーがこのような内容の楽曲をシングルとしてリリースし、しかもヒットさせてしまうというのが健全でとても良い。
‘no tears left to cry’ (2018)
「ユアーズ・トゥルーリー」「マイ・エヴリシング」が全米アルバムチャートで1位、「デンジャラス・ウーマン」が最高2位でヒットシングルも多数とすっかり大人気アーティストとしての地位を確立したアリアナ・グランデだったが、2017年のマンチェスター公演の直後に、会場内で自爆テロが発生し、観客を中心とする22名が死亡し59名が負傷するという悲劇が起こった。
この事件がきっかけでアリアナ・グランデはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患うのだが、その後、カムバックシングルとしてリリースされたのがこの曲であり、全米シングルチャートで最高3位のヒットを記録した。
事件のことを直接歌ってはいないものの、おそらくその影響は強く受けていて、だからこそのポジティブで力強いメッセージ性がリスナーや批評家から高く評価された。
流す涙などもう残っていないぐらいに泣きつくしたいまは、元気に生きていこうという最高の気分である、ということが歌われていて、世の中に溢れるネガティブな物事に対抗する最大の手段は自分自身がポジティブに楽しく生きていくことである、というようなメッセージをも含んでいる。
バラードからはじまり、やがてアップテンポでアンセミックな感じに盛り上がっていく展開はグロリア・ゲイナー「恋のサバイバル」などをも思い起こさせる。
アリアナ・グランデのことをトレンディなポップシンガーぐらいにしか捉えていなかったリスナーの中にも、この曲がきっかけでよりシリアスなアーティストとして認識するようになった人たちが少なくはないように思える。
この曲を先行シングルとする、アリアナ・グランデにとって通算4作目のアルバム「スウィートナー」は全米アルバムチャートで初登場1位に輝いた。
‘God is a woman’ (2018)
「スウィートナー」のアルバムから2曲目のシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高8位を記録した。
ヒップホップR&B的なミッドテンポの楽曲で、女性の素晴らしさについて宗教的なイメージなども用いて歌われている。
当初はカミラ・カベロが歌う予定の楽曲だったようなのだが、あまり合っていないなどの理由から結局はアリアナ・グランデが歌うようになったともいわれている。リタ・オラをフィーチャーしたカミラ・カベラによるバージョンも後にインターネットにリークされることになった。
‘breathin’ (2018)
「スウィートナー」のアルバムから3曲目のシングルとしてカットされ、全米シングルチャートで最高12位を記録した。
マンチェスターのライブ会場で発生した自爆テロ事件によってアリアナ・グランデは心に深い傷を負い、パニックに襲われると呼吸もままならないという状態を経験した。
そのことをテーマにした楽曲なのだが、繰り返し歌われる「breathin’」という単語が、辛く苦しい状況にあっても呼吸をし続けるのだというメッセージになっていて、同じような状況にあるリスナーの心に寄り添う。