Ariana Grande – ‘eternal sunshine’ review

アリアナ・グランデの7作目のアルバム「eternal sunshine」がリリースされたのだが、直近数年間に起こった出来事によって経験したであろう事柄がシンガーソングライターとしての成長に確実につながっていることを確信させる素晴らしい作品になっている。かつてないほどきわめて個人的なところもあるのだが、それが大衆的なポップミュージックとして多くの人々をより深く共感させ、日常に彩をあたえるような理想的な状態を実現しているともいえる。

先行シングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで初登場1位に輝いたのをはじめ、その他の地域でも大ヒットしていた「yes, and?」はハウスミュージックやディスコポップからの影響を感じさせ、昨今のフューチャーノスタルジア的なトレンドにも対応したような楽曲であったが、目まぐるしいポップミュージック界にあって、アリアナ・グランデの人気の高さを改めて認識させてもいたような気がする。

それでそろそろアルバムも出るのではないかというような気もなんとなくしていて、やはり出たのだがこれほど充実した作品になっているとはそれほど期待していなかったかもしれない。というのも、2017年にイギリスのマンチェスターで行ったライブの会場で終演後に自爆テロが発生し、観客を中心とする多くの人々が死傷してしまうという悲しい出来事に心を痛め、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患ったりするが、それでも見事にシングル「no tears left to cry」やアルバム「Sweetner」でカムバックを果たしたのも束の間、今度はかつての交際相手であったラッパーのマック・ミラーがドラッグの過剰摂取で亡くなり、またしてもショックで活動が一時的にできなくなり、それでも突然に名曲「thank u, next」を発表すると空前の大ヒットを記録し、翌年に前作からわずか約6ヶ月というスパンでリリースしたアルバムからの「7 rings」「break up with your girlfriend, i’m bored」と共にビートルズ以来となる全米シングルチャート上位3曲独占という快挙に象徴されるピークを超えるのはかなり難しいことだと思われたからである。

その後に2020年のアルバム「Positions」があって、これも全米アルバムチャートで1位に輝くなど大いに売れたのだが、より聴きやすくリラックスした内容になっていたような気がする。今回のアルバムはそれ以来約3年4ヶ月ぶりのリリースであり、アリアナ・グランデにしてはかつてなかったほどの長いスパンである。その間に高級不動産エージェントのダルトン・ゴメスと結婚し離婚したり、主演映画「ウィキッド」の共演者と交際をするのだが、不倫関係にあったのではないかという疑惑が報道されたりもした。

それらの経験はおそらくこのアルバムの内容に反映されている。それで、タイトルの「eternal sunshine」はアリアナ・グランデ自身がアルバムの詳細を発表する前からSNSで匂わせていたように、ミシェル・ゴンドリー監督による2004年の映画「エターナル・サンシャイン」(原題:Eternal Sunshine of the Spotless Mind)に由来している。あとは占星術で人生の転換期は土星の周期に関連して約29年おきに訪れるとする「サターンリターン」という考え方からも影響を受けていて、これを説明する占星術師のダイアナ・ガーランドによるYouTube動画の音声が引用されていたりもする。1993年生まれのアリアナ・グランデはこのアルバムを制作していた頃、丁度それぐらいの年齢だったということになる。

アルバムを初めから聴いていくと、どうも失恋のことを歌った曲が多いように感じる。これはそういったアルバムなのかと思ったりもするのだが、けしてそればかりではない。しかし、コンセプトアルバムであり、1つのテーマについていろいろな角度からアプローチされている。現実は過去から現在、そして未来へと流れていくのだが、記憶や思考はけしてそうとは限らず、現在・過去・未来を自由自在に行ったり来たりすることもある。映画「エターナル・サンシャイン」にもそういうところがあった。

よって、このアルバムには恋愛についての様々なフェイズをテーマにしていると思われる楽曲が、順不同的に収録されている。「intro (end of the world)」はタイトルの通りアルバムの導入部でありながら世界の終わりのような状態をテーマにして、歌詞ではいまのこの関係は正しいのだろうかと自問自答、あるいはリスナーに問いかけている。そして、アルバムの最後に収録された「ordinary things (feat. Nonna) 」にはアリアナ・グランデの祖母であるNonnaのセリフが収録されていて、それによると寝る時に愛する人にキスをしないのは最悪であり、もしそれを嫌だと感じるとするならばその関係を終わらせるべきだ、ということである。

「bye」はフィリーソウル的でもある素晴らしいポップソングだが、行き詰まっていた関係を解消して次に向かおうとする時の解放感に溢れているように聴こえる。「supernatural」は恋をしている時の魔法のような感覚をテーマにしていて、「the boy is mine」では1998年のブランディとモニカによる大ヒット曲(これ自体が1982年にマイケル・ジャクソンとポール・マッカートニーがヒットさせた「ガール・イズ・マイン」に影響されているのだが)を思わせたりもしながら、ゴシップ的なマスコミなどがアリアナ・グランデを世間にそう見せようとしているであろうバッドガール的なイメージをトレースしている。

先行シングルとして大ヒットした「yes, and?」ではアリアナ・グランデ自身にまつわるスキャンダル報道やそれに群がる一般大衆に対してのアンサーをも含んでいるようで、それぞれに自分自身の問題があるはずなのに、どうして他人が誰と寝ているかがそんなにも気になるのか、というようなことが歌われている。

次のシングルに選ばれた「we can’t be friends (wait for your love) 」はロビン「Dancing on My Own」などを思わせもするやや切なげなエレクトロニックダンスポップなのだが、友達には戻れないがその振りをすることはできるので、そうしてあなたがまた私を好きになってくれるのを待つ、というような健気でいじらしいことが歌われている。「i wish i hated you」もまたタイトルの通り、あなたのことを憎むことができたらどんなに良いだろうというような曲なのだが、後ろでずっと鳴っているフレーズがなんだかUSAフォー・アフリカ「ウィ・アー・ザ・ワールド」のイントロを思い起こさせなくもない。

それで最後から2曲目、つまり全13曲中12曲目に収録された「imperfect for you」がまたとても良くて、アリアナ・グランデらしからぬギターの演奏をバックにした楽曲で、この路線もかなりイケるのではないかと思わされる。そしてタイトルにもなっている「imperfect for you」つまりあなたにとって完璧ではないということを歌っているところが特にとても良い。

恋愛というのはだいたいとてもしあわせな予感や期待と共にはじまるものなのだが、やがてそれがそれほどでもなくなり、多くの場合は破綻してしまうわけである。それでもとても大切で価値がある瞬間というのがその過程で確実にあったわけであり、それをけして忘れないというようなことが歌われているようにも思える。

アリアナ・グランデのボーカリストとしてのスキルというのか、楽曲の内容によって歌い方を絶妙に変えたり、微妙なニュアンスを表現する能力がこれまでよりも確実に上がっているようにも感じられて、それがこの作品をポップアルバムとして聴きやすくもあるのだが、それと同時に強い印象をも残すようなものにしているような気がする。