スピッツの人気曲12選

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スピッツはインディーポップ的なセンスも持ち合わせた4人組ロックバンドでありながらJ-POPのメインストリームもあるという奇跡的な存在なわけだが、今回はその一般的にメジャーで人気がある12曲を選んでみたわけである。

よりマニアックでありながらファンからの支持が熱い名曲も数多くあり、このバンドの魅力を語るうえにおいてはそれらもけして無視することはできないのだが、今回はあえてメジャーなJ-POPのアーティストとして人気が高い楽曲という視点でのみのリストとなっている。

その意義の1つは新しいリスナーが何らかのきっかけで少しだけ興味を持ったりしたときに、その大枠についてコンパクトかつエッセンシャルに知りやすいように、ということがまずはあったりもする。

それはそうとして個人的に幼い頃、親が買って家にレコードがあったために、よく聴いていて特に印象が強い楽曲に水前寺清子「三百六十五歩のマーチ」があるわけだが、草野マサムネが東京造形大学在学中、スピッツを結成する以前に組んでいたバンドが水前寺清子の愛称に由来したチーターズであり、この曲をパンク調にアレンジしてカバーしていたというのはなかなかうれしいエピソードである。

当時の大学の先輩に後に「イカ天」こと「三宅裕司のいかすバンド天国」で初代グランドイカ天キングに輝き、メジャーデビュー後は「幸せであるように」などをヒットさせたFLYING KIDSのメンバーがいたのだが、草野マサムネはその演奏に刺激され、まったく異なったジャンルであるパンクロックに転向したといわれている。

ところが、その後にデビューしたTHE BLUE HEARTSの音楽を聴いたときに、やろうとしていたことがすでにやられてしまったとショックを受けて、ザ・スピッツに改名していたバンドの活動も休止してしまう。

しかし、武蔵野美術大学に入学した後にザ・スピッツのメンバーでもあった田村明浩に加え新しいメンバーも入れて、スピッツとしての活動を開始することになる。ライブハウスに出演したりもするのだが、当時の音楽性はいわゆるビートパンク的なものであり、オリジナリティに欠けていたともいわれる。

その後、草野マサムネは1960年代から活動するスコットランド出身のシンガーソングライター、ドノヴァンの作品から影響を受け、アコースティックギターをに傾倒していく。そして、今日のスピッツに通じるような音楽性を獲得していったのであった。

美しいメロディーと文学的な歌詞、さらに卓越したポップ感覚は草野マサムネがインディーポップからハードロック、昭和歌謡やニューミュージックなど、ジャンルを越えたポップミュージックファンであることに起因しているのではないか、などとTOKYO FMで放送されている「SPITZ 草野マサムネのロック大陸漫遊記」などを聴いていると思えてきてしまう。

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君が思い出になる前に(1993)

スピッツは1991年にシングル「ヒバリのこころ」とアルバム「スピッツ」でメジャーデビューを果たし、FM放送局でヘビーローテーションに選ばれたり雑誌「ROCKIN’ ON JAPAN」で大きく取り上げられたりもするのだが、すぐにメジャーに売れたわけではなく、初めてオリコン週間ランキングに入ったのはプロデューサーに笹路正徳を迎えた4作目のアルバム「Crispy!」からシングルカットされた「君が思い出になる前に」で、最高位は33位であった。

タイトルは吉田拓郎が1972年にリリースしたアルバム「元気です。」の1曲目に収録された「春だったね」の歌詞(「僕が思い出になる頃に 君を思い出にできない」)に由来する。すべてにおいていわゆる売れセンを狙って書かれたという別れをテーマにした楽曲だが、「忘れないで 二人重ねた日々は この世に生きた意味を越えていたことを」という歌詞が死別を連想させるなど、ポップでありながら味わい深くもある。

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空も飛べるはず(1994)

テレビドラマ「白線流し」の主題歌として大ヒットし、オリコン週間シングルラランキングで1位、ミリオンセラーを記録した楽曲ではあるのだが、それはスピッツが「ロビンソン」でブレイクした後の1996年のことであり、最初にリリースされたときのオリコン週間シングルランキング最高位は28位であった。それでも、「君が思い出になる前に」よりも着実に上がっている。

とはいえ、元々はテレビドラマ主題歌の依頼があり、草野マサムネがシナリオを読み込んだうえで完成させたものの採用されなかった楽曲だという。「めざめ」というタイトルでレコーディングされた、歌詞の一部やアレンジが異なるデモバージョンが存在し、ベストアルバム「CYCLE HIT 1991−1997 SPITZ Complete Single Collection」のボーナスディスクに収録された。

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青い車(1994)

スピッツの9作目のシングルとしてリリースされた爽やかで疾走感溢れる楽曲で、オリコン週間シングルランキングでは最高27位とこの時点での歴代最高位を1ランクだけ上げた。

草野マサムネはもう少しゆったりしたアレンジを想定していたということなのだが、リハーサルに遅刻している間に他のメンバーたちがアレンジをしていて、後には草野マサムネもこっちの方が良いと思えるようになったとのことである。この時期のスピッツの楽曲では「空も飛べるから」とこの曲のシングルのみアレンジャーが土方隆行なのだが、アルバム「空の飛び方」には笹路正徳によってリミックスされたバージョンが収録されている。

当初はカップリング曲の「猫になりたい」の方をA面扱いにするつもりだったらしく、そのためCDシングルのジャケットには猫の置物の写真が使われている。ポップでキャッチーな曲調でありながら、どこか死へと向かっているかのようなニュアンスも感じられ、その一筋縄ではいかなさ加減がまた大きな魅力になっているような気がする。

ロビンソン(1995)

スピッツの存在を世に知らしめたヒットシングルにしてJ-POPクラシックであり、オリコン週間シングルランキングでの最高位は4位だが、3ヶ月連続で月間トップ10入りする当時としてはロングヒットとなった。

作詞・作曲をした草野マサムネ自身は当時、この楽曲をそれほど特別だとは感じていなく、シングルとしてリリースすることにも乗り気ではなかったという。カップリング曲の「俺のすべて」の方がA面扱いになる可能性すらあったようである。

イントロのアルペジオのフレーズの時点がひじょうに印象的であり、リアルタイマーにはあの季節の記憶を瞬時に思い起こさせ、後追いのリスナーには日本語ポップス史に残る屈指の名曲の導入部として高らかに鳴り響く。

タイトルは草野マサムネが旅行先のタイで見つけた百貨店の名前を仮で付けていたのがそのまま採用されたもので、歌詞の内容とは関係がない。また、歌詞に登場する「河原の道」は草野マサムネの出身地である福岡県の室見川がモチーフになっている。

この楽曲は吉本興業がかつて運営していた渋谷公園通り劇場から生放送されていたフジテレビのバラエティ番組「今田耕司のシブヤ系うらりんご」のエンディングテーマに約1ヶ月間使われ、その後はシャ乱Q「ズルい女」に変わった。

ちなみにこの曲がオリコン週間シングルランキングで最高位の4位を記録した週の上位3曲は、L⇔R「KNOCKIN’ ON YOUR DOOR」、大黒摩季「いちばん近くにいてね」、H Jungle with t「WOW WAR TONIGHT〜時には起こせよムーヴメント」である。

涙がキラリ☆(1995)

「ロビンソン」がヒットしている最中にリリースされたシングル曲で、オリコン週間シングルランキングでは初登場2位を記録した。この週の1位はB’z「love me, I love you」だったが、6位にはまだ「ロビンソン」もランクインしている。

発売日は1995年、つまり平成7年の7月7日と7が並んでいるのだが、これは織姫と彦星の物語をモチーフにした楽曲と、恋人たちの特別な日として七夕をもっと盛り上げたいという思いを反映させたものである。

同じ涙を流してはいるのだが、なんとなくそこにある温度差がじんわりと切なく、J-POPの名曲として成立していながらも、オルタナティブロック的なエッジをもマイルドに残したサウンドが素晴らしい。

チェリー(1996)

スピッツが約2年前にリリースした「空も飛べるはず」がテレビドラマ「白線流し」の主題歌に起用されたことにより人気となり、オリコン週間シングルランキングで初めて1位に輝いたのが1996年2月であった。

そして、その約2ヶ月後にリリースしたニューシングル「チェリー」はMr.Children「花-Memento Mori-」には及ばず初登場2位であった。ちなみにこの週のランキングの3位から5位は安室奈美恵「Don’t Wanna Cry」、華原朋美「I’m proud」、trf「Love & Peace Forever」、さらには9位にglobe「FREEDOM」といずれも小室哲哉による楽曲がランクインしていて、勢いのすさまじさを感じさせる。

Mr.Children、スピッツの1位、2位は翌週も続くのだが、さたにその翌週には初登場の松田聖子「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」、MY LITTLE LOVER「ALICE」、シャ乱Q「いいわけ」、H Jungle with t「FRIENDSHIP」が上位4曲を占め、スピッツ「チェリー」は5位に後退する。しかし、この週は6位のMr.Children「花-Memento Mori-」を初めて抜いたのであった。

そしてさらに翌週、スピッツ「チェリー」はなんとランクイン4週目にして4ランクアップ、初登場のSMAP「はだかの王様〜シブトクつよく〜」を抑えて1位に輝くのであった。

それはそうとして、この頃に大ヒットしたのみならず、後に発売から30年経っても春の定番ソングとして聴かれ続け、ストリーミングチャートにランクインすることもある。

「『愛してる』の響きだけで 強くなれる気がしたよ」のフレーズがあまりにも有名だが、「二度と戻れない くすぐり合ってころげた日」とも歌われているように、これは切ない別れの歌である。それをこの超絶的にポップでキャッチーなメロディーとサウンドにのせて歌っているところがとても良い。

渚(1996)

スピッツがオリコン週間シングルランキングで、初めて初登場1位を記録した楽曲である。仮タイトルは「七夕」で前年の「涙がキラリ☆」と同様に7月7日の発売を予定していたが延期となり、9月9日にリリースされた(この年の7月7日には「チェリー/空も飛べるはず」 のアナログレコードを発売した)。

イントロから電子音が聴こえているのがスピッツの楽曲としてはサウンド的にユニークにも感じられるのだが、これは草野マサムネがシーケンサーで遊んでいるうちにこの曲ができ、その時のデモテープのアレンジが反映されたものである。

草野マサムネは武蔵野美術大学在学時に生物学を教えていた国井喜章から「渚」という概念について、水中でも陸でも空気中でもない、全部が溶け合っている場所というように教わり、それ以来、この言葉に特別な想いをいいだくようになったと話している。

ポップなラヴソングではあるのだが、「ぼやけた六等星だけど 思い込みの恋に落ちた 初めてプライドの柵を越えて」「ねじ曲げた思い出も捨てられず生きてきた ギリギリ妄想だけで君と」というようなフレーズあたりにスピッツのJ-POPに擬態したインディー精神を感じなくもない。

「幻よ醒めないで」の美しい歌声の根底にあるかもしれない、深遠な諦念に思いを馳せながら聴くのもまた乙なものである。

楓(1998)

すでに発売され、オリコン週間アルバムランキングで1位を記録していたアルバム「フェイクファー」からのシングルカットということもあり、未発表曲の「スピカ」との両A面だったとはいえ、オリコン週間シングルランキングでの最高位は10位と当時のスピッツとしてはけして高い方ではない。

とはいえ、その後、様々なテレビドラマの挿入歌や主題歌に起用されたり、2017年には「午後の紅茶」のCMで上白石萌歌がカバーしたことにより再注目されたり、2025年にはこの曲をモチーフにした映画が公開されるなど、「ロビンソン」「チェリー」などと並んで世間一般的にスピッツで最も知られている楽曲の1つといえるかもしれない。

別れと喪失感というのは共感を呼びやすいテーマではあるのだが、「さよなら 君の声を抱いて歩いていく ああ 僕のままで どこまで届くだろう」と歌われているように、どうしようもない諦念をかかえながら、それでも否応なしに続いていく人生を生きていこうという決意が感じられる。

このとてつもなく深い悲しみを美しいメロディーと歌声によって、ポップソングとして昇華している、この奥深さが長年にわたって評価を高めている要因であるような気もする。

両A面シングルのもう1曲である「スピカ」も、ファンの間では特に人気が高い楽曲である。そして、このシングルの発売日もまた7月7日なのであった。

春の歌(2005)

すでにリリースされ、オリコン週間アルバムランキングで1位を記録していたスピッツの11作目のアルバム「スーベニア」の1曲目に収録された楽曲だが、アクエリアスのCMタイアップが決まったことによりシングルカットされ、オリコン週間シングルランキングで最高5位を記録した。

この頃、J-POP界ではいわゆる桜ソングなど、春をテーマにしたヒットソングがかなり増えてきた印象があり、実際にスピッツのこの曲が5位だった週のオリコン週間ランキングで、1ランク上の4位にもケツメイシ「さくら」がランクインしていたりもする。

この曲はスピッツの楽曲では「チェリー」と共に春ソングのプレイリストに選曲されがちなのだが、タイトルからして「春の歌」なのだから、なんら不自然なところがない。ところが、この曲の歌詞にはいわゆる春ソングにありがちなシチュエーションの描写やフレーズなどがほとんど見あたらない。

それどころか「重い足でぬかるみ道を来た トゲのある藪をかき分けてきた 食べられそうな全てを食べた」など、なにやら泥くさく生々しいことが歌われている。さらには「歩いていくよ サルのままで孤り 幻じゃなく 歩いていく」などと宣言されている。

かつて「幻よ醒めないで」と歌われ、それはそれでもちろん素晴らしいのだが、ここには何かを断ち切ったような清々しさが感じられ、その新しい気分こそがこの曲でいうところの「春」なのではないか、とそんな気もするのである。

音楽的にはジャグリーなギターポップのようなポップさに満ち溢れていて、楽しく聴いていると不意に「平気な顔でかなり無理してたこと 叫びたいのに懸命に微笑んだこと」などという告白がサラッと出てきたり、曲の終盤、必要以上に長くも感じられるアウトロが実は演奏的にちょっと凝っていて聴きこたえがあったりとクセの強さをマイルドに発揮しているところもとても良い。

魔法のコトバ(2006)

映画「ハチミツとクローバー」の主題歌としてリリースされ、オリコン週間シングルランキングでは最高5位を記録した楽曲である。この映画はコミックが原作で、作者の羽海野チカはそのタイトルをスピッツ「ハチミツ」、スガシカオ「Clover」という90年代にヒットした2つのJ-POPアルバムから取っている。

スピッツのバンドサウンドと電子ピアノやストリングスの音色が調和した素晴らしくポップでキャッチーな楽曲だが、そこに込められたいとしさや切なさは狂おしいほどであり、軽快なポップソングとして機能しながらも、リスナーのそのときに置かれた状況や精神状態によっては、感情をはげしく動かしかねないポテンシャルを秘めてもいる。

「花は花は美しく 棘も美しく 根っこも美しいはずさ」という歌詞には表面的な心地よさのみならず、その裏側や根底にあるかもしれないあれやこれをもまた、すべて肯定していこうというような意志を感じなくもない。

優しいあの子(2019)

NHK連続テレビ小説「なつぞら」の主題歌としてリリースされ、オリコン週間シングルランキングで最高2位となるヒットを記録した。

ドラマは北海道の十勝地方を舞台にしていて、福岡県出身の草野マサムネは現地の夏であってもその先に訪れる長い冬を想わずにはいられない景色からインスピレーションを受けたと語っている。

歌詞にはアイヌ語の「コタン」という単語が登場するのだが、その意味は集落であり、スピッツでいうとたとえば「ロビンソン」における「誰も触われない 二人だけの国」に近い印象を受けたりもする。

また、楽曲のクライマックスであろうサビ部分の後半を具体的な歌詞ではなく、「ルルル」というハミングのようなもので歌ってしまうというアプローチにもまた、軽く驚嘆させられるところである。

美しい鰭(2023)

劇場版「名探偵コナン 黒鉄の魚影」の主題歌として書き下ろされた楽曲で、オリコン週間シングルランキングで最高3位、Billboard Japan Hot 100では最高2位を記録した。

ロックバンドでありながらJ-POP界にも君臨するベテランバンドでありながら、当時、ストリーミングチャートにおいてTVアニメ「【推しの子】」オープニングテーマ曲として大ヒットしていたYOASOBI「アイドル」やMrs.GREEN APPLEの諸楽曲などと並んで長期にわたり上位にランクインしていたことも懐かしく思い出される。

歌詞の内容は「名探偵コナン」シリーズの人気キャラクター、灰原哀に寄り添ったものとしても解釈されるのだが、地面を堂々と力強く踏みしめる「足」ではなく、水中(あるいは流動的で抵抗のある社会や世間)でのみ機能する「鰭」(ちなみに「ひれ」である。念のため)を主題としている点において、スピッツをエスタブリッシュされたメジャーな人気バンドだとしても、精神的にはおそらくこっち側なのではないか、と認識するリスナーは少なくはないような気がする。

サウンド面においてはホーンの導入など、ネオシティポップ的なトレンドもマイルドに取り入れ、それがスピッツ本来の音楽性のコアをブラさないまま新世代のリスナーにもアプローチすることに成功しているようにも思える。

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