邦楽ロック&ポップス名曲1001: 2011-2012
花束/back number(2011)
back numberの2作目のシングルとしてリリースされ、オリコン週間シングルランキングで最高18位を記録した。Billboard JAPAN Hot 100では最高3位を記録している。
「どう思う? これから2人でやっていけると思う?」という女性の問いかけに対し、主人公である男性は「んんどうかなぁ でもとりあえずは一緒にいたいと思ってるけど」というように答える。
バンド名は付き合っている女性を別の男性に奪われた自分は彼女にとってはback numberにすぎない、というような意味で、中心メンバーでソングライターの清水依与吏によって付けられている。
つまりそのともすればなんだか煮え切らない感じというのがこのバンドのそもそもの持ち味となっているようなところがあり、歌詞には「~かな」というフレーズがとても多いという点をピックアップしたネタを「M-1グランプリ2023」優勝コンビの令和ロマンがつくって「第44回ABCお笑いグランプリ」で準優勝していたりもする(放送日は清水依与吏の誕生日でもあった)。
この曲にもそのテイストは確かにあるのだが、新たなはじまりというか一緒に一歩を踏み出そうとしているような感じが当時においては新境地でもあったようである。その後、back numberは大人気バンドの1つとなるのだが、リリースから10年以上経ってもストリーミングチャートにランクインし続けているモダンクラシックといえるかもしれない。
POPPOPPON/きゃりーぱみゅぱみゅ(2011)
原宿ストリート系のモデルとして活動していたきゃりーぱみゅぱみゅが歌手としてリリースした最初のミニアルバム「もしもし原宿」のリードトラックで、トレンド感溢れるミュージックビデオは海外でも話題となり、アメリカのラッパーであるジー・イージーの楽曲でサンプリングされたり、長寿人気アニメ「ザ・シンプソンズ」で取り上げられたりもした。
Perfumeのプロデューサーとしてヒット曲を連発していた中田ヤスタカがプロデュースしたテクノポップ的なサウンドときゃりーぱみゅぱみゅのキュートなボーカル、カラフルでポップなビジュアルイメージなどが大いに話題となった。
家族になろうよ/福山雅治(2011)
福山雅治の27作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで1位を記録した。この年といえば東日本大震災が発生した年として記憶されているが、この曲の歌詞もその影響によって予定されていた全国ツアーが中断されている最中に書かれたものだという。
タイトルから想像できるように、いわゆるプロポーズソングとなっていて、リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」のCMソングでもあったのだが、浮ついた感じはまったくなく、「100年経っても好きでいてね」「いつかお父さんみたいに大きな背中で いつかお母さんみたいに静かな優しさで」「いつかおじいちゃんみたいに無口な強さで いつかおばあちゃんみたいに可愛い笑顔で」といった歌詞も印象的な、じんわりと心に沁みるような楽曲になっている。
当時の時代の気分にもマッチしていたが、その後も聴き続けられ、福山雅治の楽曲の中でも「桜坂」などと並んで特に人気が高い。
short hair/Base Ball Bear(2011)
Base Ball Bearの4作目のアルバム「新呼吸」からの先行シングルとしてリリースされ、オリコン週間シングルランキングで最高17位を記録した。それまで青春のきらめきについて歌うことが多いような印象があり、そこがとても魅力的でもあったのだが、この楽曲においてはより大人になったというか、懐かしさの中にある本質的な部分をあえて抽出し、更新しようとしているようなところがとても良い。
夏が終わり秋がはじまりそうな時期というリリースのタイミングも絶妙であった。ミュージックビデオにはブレイクする少し前の本田翼が出演しているのだが、どこか田舎の町で文庫本を読んでいたりして、この楽曲の雰囲気にとても合っている。
やさしくなりたい/斉藤和義(2011)
斉藤和義の39作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高6位を記録した。日本テレビ系のドラマ「家政婦のミタ」の主題歌である。
「愛なき時代に生まれたわけじゃない 強くなりたい やさしくなりたい」というシンプルなメッセージが伝わりやすく、また必要とされていた頃だったような気もする。ミュージックビデオは斉藤和義が生まれた8日後に開催されたビートルズの日本武道館公演をイメージしたものになっている。
ワナダンス!/Tomato’n Pine(2011)
AKB48の大ブレイクやももいろクローバーZの活躍などによってアイドルシーンがひじょうに盛り上がり、アイドル戦国時代などともいわれるようになっていたのだが、アイドルファンの間でも特に楽曲派と呼ばれる人たちから絶大な支持を得ていたのがトマパイことTonato n’ Pineである。
2021年にメジャーデビューしたかと思いきや翌年末には解散ならぬ散開してしまうのだが、1枚だけリリースしたアルバム「PS4U」は楽曲派アイドルファンにとっての恒例行事「アイドル楽曲大賞」の記念すべき第1回受賞作に選ばれたのみならず、「ミュージック・マガジン」で2012年度のJ-POP部門年間ベストアルバムに選ばれるなど、名盤として知られることになった。
収録曲の「ワナダンス!」は「第1回アイドル楽曲大賞」の楽曲部門を受賞してもいるのだが、ディスコファンク的なサウンドとイントロでの「アユレディ? どうなの? アユレディ? 踊って アユレディ? きてみる? ハリアップ ワナダンストゥナイ!」の時点ですでに期待を高めてくれるのだが、その後がまたとても素晴らしく、「時計の針が重なれば 心は西麻布」というような微笑ましいフレーズも含めとにかくとても良い。
水星 feat. オノマトペ大臣/tofubeats(2011)
tofubeatsが2011年末に12インチのアナログレコードでリリースし、翌年には配信も開始された。CDシングルはリリースされなかったので、当時のオリコン週間シングルランキングでは集計の対象にならず、ランクインもしていないのだが、iTunesのシングル総合チャートでは1位を記録している。
後にDAOKOや仮谷せいらによって歌われたバージョンもリリースされたり、小沢健二 featuring スチャダラパー「今夜はブギー・バック(nice vocal)」と組み合わせたバージョンがサントリーの缶チューハイであるほろよいのテレビCMに使われたりもした。
「I-pod i-phoneから流れ出た データの束いつもかかえてれば ほんの少しは最先端」「めくるめくミラーボール乗って水星にでも度に出ようか」というような歌詞は、スマートフォンが普及しはじめた当時の気分をヴィヴィッドに表現しているようでもあり、そこがバイラルヒットらしくもあってとても良い。
サーカスナイト/七尾旅人(2012)
七尾旅人の6作目のアルバム「リトルメロディ」からシングルカットされた楽曲である。「Oh baby 今夜のキスで一生分のこと変えてしまいたいよ」と歌いはじめられるとてもロマンティックなラヴソングなのだが、「Tight rope dancing Baby 今夜だけ 生き延びたいピエロ」などと繰り返し歌われているように、その刹那的な感じがまたとても良い。
夜の魔法とでも表現するしかないような気分を経験したことがあり、もしもそれを至高だと感じているならば、これほどその感じをヴィヴィッドに反映した楽曲はなかなかないのではないかと思うかもしれない。「僕は冴えないピエロで あなたはFearless Girl」というところもたまらない。