The 10 essential New Order songs(ニュー・オーダーの10曲)
ニュー・オーダーは1980年に前身のジョイ・ディヴィジョンがイアン・カーティスの自殺によって活動停止を余儀なくされた後に残された3名のメンバーによって結成されたポストパンクバンドで、ニューウェイヴとダンスミュージックをミックスした音楽を早くからやっていたことで知られる。
ザ・スミスなどと共に80年代のUKインディーロックを代表するバンドとして知られ、マッドチェスターやインディーロックなどと呼ばれるタイプの音楽にも影響をあたえた。というか、ムーブメントの真っ只中にもそのど真ん中にいた。
というわけで、今回はニュー・オーダーの数ある楽曲の中からこれは特に重要なのではないかと思われる10曲を選んでリリース順に並べていくのと共に、簡単な説明も加えていきたい。
‘Ceremony’ (1981)
ニュー・オーダーがリリースした最初のシングルだが、まだジョイ・ディヴィジョン色がひじょうに濃い。というか、ジョイ・ディヴィジョン時代にすでに存在していた楽曲であり、ライブでは演奏されていた(1981年にリリースされたジョイ・ディヴィジョンのコンピレーションアルバム「Still」にライブ音源が収録されている)。
ニュー・オーダーのシングル音源も最初にリリースされたのと、新メンバーとして加入したジリアン・ギルバートも参加したものの2種類があり、コンピレーションアルバム「サブスタンス」に収録されたりしてよく知られているのは後者の方である。
ジョイ・ディヴィジョンの楽曲としてはアップリフティングでメンバーはヒットの予感も感じていたというのだが、ニュー・オーダーの楽曲としてはいまとなってはジョイ・ディヴィジョンの延長線上という印象である。全英シングルチャートでは最高34位を記録した。
‘Temptation’ (1982)
1981年にニュー・オーダーはニューヨークを訪れ、そこでイタロディスコやエレクトロにハマるのだが、ドラマーのスティーヴン・モリスはドラムマシンのプログラミングを覚え、その影響はシングル「Everything’s Gone Green」に早くも現れていた。
そして、さらにポップでキャッチーな「Temptation」である。当時はソフト・セルやヒューマン・リーグなどによるシンセポップがイギリスでは大流行していて、全英シングルチャートで1位に輝いていたりもしたのだが、そういった流れにも乗っていたところがある。全英シングルチャートでは最高29位であった。
後にコンピレーションアルバム「サブスタンス」に収録されたりミュージックビデオに使われているのは、新たにレコーディングし直されたバージョンである。1996年の映画「トレインスポッティング」で使われていたのも、やはりこちらのバージョンであった。
‘Blue Monday’ (1983)
ニュー・オーダーの代表曲を1曲といえば間違いなくこれであり、ポップミュージック史上においてもエポックメイキングなシングルだったといえる。
印象的なドラムビートではじまりシンセサウンドのインストゥルメンタルがずっと続いて、2分ぐらいしてやっと歌がはじまる。ダンスミュージックなのだがひじょうに暗い、それまであまり聴いたことがないタイプの音楽であった。
メンバーによるとジョルジ・モロダーがプロデュースしたドナ・サマーのイタロディスコ楽曲にインスパイアされたり、クラフトワークやエンリオ・モリコーネのレコードからサンプリングされたりもしているという。
史上最も売れた12インチシングルであり、ニュー・オーダーの多くのレコードと同様にピーター・サヴィルによってデザインされたジャケットはフロッピーディスクを模したポストモダン的なものである。
イギリスのインディーチャートではずっと1位を記録し、その後もずっとランクインしていたのだが、全英シングルチャートでも最高9位と初のトップ10入りを果たし、1988年にリリースされたリミックスバージョンは最高3位を記録した。
‘The Perfect Kiss’ (1985)
ニュー・オーダーの3作目のアルバム「ロウライフ」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高46位を記録した。
音楽的にはハイエナジー的でもあるディスコポップであり、新宿歌舞伎町の東亜会館のディスコにも似合いそうではあったのだが、やはりそこはかとない暗さがあって、ピーター・バラカンの「ポッパーズMTV」あたりでミュージックビデオを見ると、バーナード・サムナーがなんだか苦しそうに歌っている。
「完璧なキスは死のキス」というフレーズはどういう意味なのか、そして、「Let’s go out and have some fun」と力強く歌われていたりもする。何ともよく分からないのだが、不思議な魅力に満ち溢れたポップソングである。
‘Bizarre Love Triangle’ (1986)
ニュー・オーダーの4作目のアルバム「ブラザーフッド」からシングルカットされた楽曲である。やはりシンセポップ的なディスコサウンドなのだが、全英シングルチャートでは最高56位であるものの、やたらと評価が高いことでも知られる。
90年代にオーストラリアのフレンテ!というグループがアコースティックでキュートなカバーバージョンをリリースして一部で盛り上がったのだが、楽曲そのものがとても良いことの証明でもあったような気がする。
心変わりはもうすでにしているのだが、それを自分から言い出すことができず相手の方から切り出してくれるのを待つといういかんともしがたいのだが、わりとあるあるでもあるようなシチュエーションをテーマにしているところが共感を呼んだのかもしれない。
‘True Faith’ (1987)
ニュー・オーダーのコンピレーションアルバム「サブスタンス」からの先行シングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高4位のヒットを記録した。
それまでニュー・オーダーの代表的な楽曲にはオリジナルアルバムに収録されていないものも少なくなく、しかもアルバムよりも12インチシングルこそが最高傑作といわれていたりもしたので、それらを収録したこのコンピレーションアルバムのリリースはとても便利でありがたかった。
タイトルを直訳すると「真の信仰」となり、これはまた大それたテーマを扱っているのではないかと思って聴いてみると、どうやら薬物依存の深刻さをテーマにしているようである。
それでいて、「オールナイトフジ」の水着ファッションショーのBGMとしても違和感なく使われていたところなどに底知れなさを感じる。
‘Fine Time’ (1988)
ニュー・オーダーのアルバム「テクニーク」からの先行シングルで、全英シングルチャートでは最高11位を記録した。ダンサブルなインディーロックであることには変わりはないのだが、サウンドのタイプが明らかに変わってきている。
というか、アシッドハウスとスマートドラッグの流行が影響していることは、ジャケットアートワークのイラストがカラフルな大量の錠剤であることからも明白である。
所属レーベルのファクトリーレコードが経営するクラブのハシエンダはマッドチェスタームーブメントのメッカとして知られ、ニュー・オーダーもまたその真っ只中にいたことはマイケル・ウィンターボトム監督の映画「24アワー・パーティー・ピープル」でも描かれている。
アルバムは全英アルバムチャートで初となる1位に輝いた。
‘World in Motion’ (1990)
イタリアで開催されたサッカーワールドカップにおける、イングランド代表の公式応援歌としてリリースされ、全英シングルチャートで初の1位に輝いた。アーティスト名は「England New Order」となっていて、イングランド代表の選手たちもラップやコーラスなどで参加している。
それにしても、オルタナティブ的な意味合いで人気があったであろうことは想像がつくのだが、こういうのに選ばれるということはもっと一般大衆的にも国民的バンドの1つとして認知されていたということなのだろうか。
このシングルの後でニュー・オーダーのメンバーは各々ソロ活動に入るのだが、その間にファクトリー・レコードは破産することになった。
‘Regret’ (1993)
ファクトリー・レコードが破産してなくなってしまったので、ニュー・オーダーはメジャーのロンドン・レコードと契約をして、4年ぶりのアルバム「リパブリック」をリリースするのだが、この曲はそれからの先行シングルで、全英シングルチャートで最高4位、全米シングルチャートで最高28位のヒットを記録した。
オアシスはまだデビューしていないがブラーが一発屋かと思いきやアルバム「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」で見事なカムバックを果たし、インディーロック界では新人のスウェードが大人気という、ブリットポップ前夜的な状況であり、ニュー・オーダーのこの楽曲もらしさを失わないままポップでキャッチーになっていてとても良かった。アルバムは「テクニーク」に続いて、全英アルバムチャートで1位に輝いた。
‘Crystal’ (2001)
「リパブリック」は売れたのだがレコーディング中にメンバー間の不仲が深刻化したりもしていて、バンドは長い活動休止期間に入っていく。その間にブリットポップやテクノのブームなどもあり、ニュー・オーダーの功績はずっとリスペクトされ続けていたような気もする。
それで、久々に活動開始してから最初のアルバムが2001年の「ゲット・レディー」で、この「Crystal」はそこからの先行シングルである。よりギターサウンドが強調された楽曲になっているのだが、ニュー・オーダーらしさは失われていなく、全英シングルチャートで最高8位のヒットを記録した。
この後、ジリアン・ギルバートが脱退して再加入したりピーター・フックが脱退したりしながら、2005年に「ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール」、2013年に前作のレコーディング時の音源を収録した「ロスト・サイレンズ」、2015年に「ミュージック・コンプリート」とアルバムをリリースしたり、ライブを行ったりもしている。