邦楽ロック&ポップス名曲1001: 2016
STAY TUNE/Suchmos(2016)
Suchmosの2作目のEP「LOVE&VICE」からの先行トラックとして配信リリースされ、Billboard JAPAN Hot 100で最高10位を記録した。
元々はラジオ番組のジングル用に制作した短い楽曲から広げて完成させたとのことである。金曜日の夜に渋谷から地元の神奈川県まで帰る間に遭遇する酔っぱらいたちに対する不快感がベースになっているという。
1970年代から80年代あたりのシティポップが再評価されがちではあったのだが、現役の若手アーティストたちの中にもシティポップ的な音楽をやるアーティストやバンドが増えてきた印象があり、この楽曲にもそんな気分を感じたりもした。
「◯◯してるやつもうグッバイ」大喜利のようなものも一部で静かに盛り上がっていたような気もするのだが、すでに記憶が定かではない。
桜ナイトフィーバー/こぶしファクトリー(2016)
こぶしファクトリーの2作目のシングルとして「チョット愚直に!猛突進」「押忍!こぶし魂」とのカップリングでリリースされ、オリコン週間シングルランキングで1位に輝いた。
KANがすでにリリースしていた楽曲のカバーバージョンであり、それで歌詞には「女子も男子も胸はだけ」「誰彼お酒飲んで触る」というようなアイドルポップスらしからぬフレーズが含まれていたりもする。
いわゆる桜ソングではあるのだが、主人公が桜そのものであるという点がユニークであり、さらにもの悲しくはなく楽しい楽曲であるところがとても良い。
無修正ロマンティック〜延長戦〜/大森靖子(2016)
大森靖子のアルバム「TOKYO BLACK HOLE」 に収録されたカーネーションの直枝政広とのデュエット曲である。
いろいろと汚れ果てた後であっても輝ける真実として結局のところ信じられるのはロマンティックな気分であった、というような切実さをリアルに味わった人たちの心に寄り添うとても素晴らしいラヴソングである。
「なんとなく 何度となく 試合は終わらない 暇だから恋をしたいだけ」というフレーズが特に刺さりまくってしんどい。
サイレントマジョリティー/欅坂46(2016)
欅坂46のデビューシングルで、オリコン週間シングルランキングで1位に輝いた。
「君は君らしく生きていく自由があるんだ 大人たちに支配されるな」などと秋元康が書いた歌詞をアイドルグループにもかかわらず笑顔ではなく真顔で歌っているところなどが特徴である。
ヴィジュアルイメージやパフォーマンスも含めて、コンセプチュアルなエンターテインメントとしてのクオリティはすこぶる高い。
花束を君に/宇多田ヒカル(2016)
宇多田ヒカルが配信限定でリリースした楽曲で、後にアルバム「Fantôme」にも収録された。
2010年以降、「人間活動」として音楽活動を休止していた宇多田ヒカルの本格的なカムバック曲となったが、そのきっかけは第一子の出産だったようである。
いまは亡き母に捧げられた楽曲であり、その喪失感を乗り越えるのではなく、どうそれと共に寄り添って生きていくかということについて切実に歌われているようでもある。
真夏の通り雨/宇多田ヒカル(2016)
宇多田ヒカルが「花束を君に」と同時に配信リリースした楽曲である。そのクオリティの高さに驚愕させられたのだが、活動拠点を海外に移したことも良い方にはたらいたのではないかと感じられる。
音楽活動を休止していた宇多田ヒカルが第一子の妊娠中、最初につくりはじめたのがこの曲であり、やはり亡き母とのことがテーマになっている。
ピアノとストリングスを主体としたシンプルなアレンジではあるのだが、そのボーカルとコーラスに込められた感情と情報量はかなりのものであり、そのすさまじさにただただ圧倒されるばかりである。
泡沫サタデーナイト!/モーニング娘。’16(2016)
モーニング娘。の61作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高2位を記録した。
鈴木香音の卒業シングルで曲の終盤ではその明るいキャラクターが生かされたDJもフィーチャーされているのだが、ディスコファンク的なアイドルポップスとしての王道感がフルスロットルで感じられてとても良い。
江南宵唄/Negicco(2016)
新潟を拠点として活動するアイドルグループ、Negiccoの3作目のフルアルバム「ティー・フォー・スリー」はアイドルポップスとしての範疇における大人ポップスとして驚愕のクオリティを誇る超名盤なのだが、収録曲の中でも特に音楽的に攻めていてとても良いのがSpangle call Lilli lineが提供したこの楽曲である。
オルタナティブポップなサウンドと、「本当の恋 教えて」「愛をつぶやいた それは『すべて』よ」などと他の楽曲と比べ少しだけアダルトに歌うボーカルがとても良い。
Negiccoの楽曲はほとんどとても良く、安心安定のクオリティということもできるのだが、この楽曲は特別と個人的にはずっと思っているのだが、代表曲や人気曲として挙げられる機会はほとんどなく、それもまた乙なものである。
琥珀色の街、上海蟹の朝/くるり(2016)
くるりはいろいろ音楽性やバンドメンバーなどをおそらくは変えてきているバンドではあるのだが、この曲ではヒップホップ的な要素が強く感じられたり、女性コーラスが入ったりもしているので、また少し前とは変わっていたのであろう。
下北沢の街で平日の夜に流れているのがとても良い感じではあったのだが、新しい世代のリスナーにとっては、これがくるりの代表曲であったりもして、それはそれでとても良いことなのではないかと感じられる。
いつかここで会いましょう/カーネーション(2016)
カーネーションのアルバム「Multimodal Sentiment」からの先行トラックで、川本真琴がコーラスで参加している。
ロマンスのほとんどはやがて終わるし、もはやそれははじまりそうな予感がしている時から分かりきっているレベルだとして、それでも終わりには「いつかここで会いましょう」という気分にはなっている。
そういった真実を大人のロックバンドがちゃんと歌ってくれているということに尊さを感じずにはいられない。
「時はただ痛みを鎮めてくれるけど忘れちゃだめだ」というところが特にとても良い。
前前前世/RADWIMPS(2016)
大ヒットした新海誠監督のアニメーション映画「君の名を。」の挿入歌としてとても有名である。歌詞は映画の内容に合わせているのではないかと思われる。
曖昧な夏の記憶を含有して鳴り響く大衆的なロックチューンであり、個人的には帰省した時にあまりにもやることがなさすぎて旭川のイオンシネマで鑑賞したことなども思い出される。映像がとても綺麗だと思った。
LOSER/米津玄師(2016)
米津玄師の5作目のシングルとして「ナンバーナイン」とのカップリングでリリースされ、オリコン週間シングルランキングで最高2位を記録した。
音楽的にもロックやポップスやファンクやヒップホップまでもの要素がミックスされていて、タイトルが「LOSER」というぐらいで負け犬感というか自己肯定感のカジュアルな低さのようなものがベースになっているのだが、「愛されたいならそう言おうぜ」などとても大切なメッセージが込められてもいる。
恋/星野源(2016)
星野源が主演したTBS系のテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の主題歌で、オリコン週間シングルで最高2位、Billboard JAPAN Hot 100では7週連続、通算11週1位を記録した。
ソウルミュージックの素養が根底にありながら、それをきわめてポップでキャッチーに振り切ったJ-POPソングに落とし込んでいるところがとても良い。
この曲に合わせて踊るいわゆる「恋ダンス」もかなり流行った。
実はいきなり順調にブレイクしたというわけでもない星野源がこの曲を主題歌とするドラマで共演した人気女優と結婚したという事実には、とても大きな夢が溢れているといわざるをえない。
菫アイオライト/WHY@DOLL(2016)
札幌出身のオーガニックガールズユニットとしてこの頃には東京を拠点として活動していたWHY@DOLL(ホワイドール)のレーベル移籍第1弾シングルで、オリコン週間シングルランキングでは最高29位を記録した。
ディスコファンク的なアイドルポップスとしては1つの完成形といっても良いのではないかというぐらいにカッコいい楽曲なのだが、キュートきわまりないボーカルとのマッチングがまたたまらなく良い。
全体的にポジティブな楽曲ではあるのだが、その奥にある不安を覗かせているところもあって、そのバランスもかなり良いのだが、特に「眩しい笑顔にいつもなりたいのは」などのところではメロディーもややメロウになるところも素敵である。