The 10 essential Kylie Minogue songs(カイリー・ミノーグの10曲)
カイリー・ミノーグはオーストラリア出身の女性としては史上最も売れたアーティストであり、音楽性やヴィジュアルイメージを変化させていくことによって、長年にわたってヒットを記録し続けている。特に全英チャートでは1980年代から2020年代までのすべての年代において1位を記録したり、全英シングルチャートでは同じくトップ10入りを果たしたりしている。そして、歌手デビューから38年を迎える2024年にはグラミー賞で新設された最優秀ポップ・ダンス・レコーディング賞、ブリット・アワードでグローバル・アイコン賞を受賞している。今回はそんなカイリー・ミノーグの楽曲からこれは特に重要なのではないかと思われる10曲を厳選すると共にリリース順に並べ、簡単な説明も付け加えていきたい。
‘I Should Be So Lucky’ (1987)
カイリー・ミノーグはオーストラリアのメルボルンで生まれ、幼い頃から子役として活動していたのだが、1986年から放送を開始したテレビドラマ「ネイヴァーズ」で演じたシャーリーン役が話題となり、人気者になった。その勢いで歌手デビューも果たすと、リトル・エヴァがオリジナルでグランド・ファンクのバージョンも大ヒットした「ロコモーション」のカバーがオーストラリアで7週連続1位の大ヒットを記録した。
そして、ユーロビートを大流行させたプロデューサーチーム、ストック・エイトキン・ウォーターマンが手がけた「ラッキー・ラヴ」が全英シングルチャートで6週連続1位となり、その人気は本格的に海を渡ることになった。収録アルバムも大ヒットしたのだが、日本では独自にシングルカットしていた「愛が止まらない~ターン・イット・イントゥ・ラヴ~」を女性デュオのWinkがカバーしヒットさせたことによって、カイリー・ミノーグの人気も高まっていった。
「ラッキー・ラヴ」はリック・アストリー「ギヴ・ユー・アップ」などと並んで、SAWサウンドなどとも呼ばれたポップでキャッチーなユーロビートを代表する楽曲として知られ、当時のカイリー・ミノーグの親しみやすいキャラクターとも相まって、広く支持されるようになったのであった。
‘Better the Devil You Know’ (1990)
その後も順調にヒット曲を出し続けていたカイリー・ミノーグだが、そのうちより大人っぽくてセクシーなイメージになんとなくシフトしていく。そして、音楽的にもダンスミュージック的でもありながらポップでキャッチーというとても良い曲がたくさんあり、中でも「悪魔に抱かれて」の邦題でも知られるこの曲は全英シングルチャートで最高2位のヒットを記録したのみならず、ポップソングとしてのクオリティの高さにも定評がある。
アイドル的なポップシンガーであったにもかかわらず、インディーロック的なアーティストやそのファンたちからも人気があり、イギリスの音楽雑誌ではプライマル・スクリームのボビー・ギレスピーと対談したりもしていた。
‘Confide in Me’ (1994)
ストック・エイトキン・ウォーターマンのPWLレーベルを離れ、ディコンストラクション・レコーズに移籍してから最初のアルバム「カイリー・ミノーグ」からの先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高2位を記録した楽曲である。
イギリスの音楽グループであるブラザーズ・イン・リズムがプロデュースしたエレクトロニックでオリエンタルなムードも漂うサウンドが特徴的で、カイリーミノーグのボーカルもより妖しげである。
アイドル的なポップシンガーを脱し、よりシリアスでアーティスティックな音楽性を志向し成功した好例だといえる。
カップリング曲としてセイント・エティエンヌ「Nothing Can Stop Us」、プリファブ・スプラウト「If You Don’t Love Me」のカバーバージョンを収録していた。
‘Spinning Around’ (2000)
デコンストラクション・レコード時代の後期にはマニック・ストリート・プリーチャーズが提供した「サム・マインド・オブ・ブリス」を先行シングルとしたアルバム「インポッシブル・プリンセス」をリリースするなど、さらに新たな試みを行うのだが、セールス的には低迷していったりプライベートでも悲しいことがあり、池袋のメトロポリタンプラザにあったHMVで行われたインストアイベントでもなんとなく元気がなさそうであった。
その後、パーロフォンに移籍するとディスコポップ的なアルバム「ライト・イヤーズ」から先行シングルとしてリリースしたこの楽曲で、10年ぶりとなる全英シングルチャート1位に輝いた。
アップリフティングなダンスポップで、やはりこれこそが世間がカイリー・ミノーグに求めるものだったのだというような感じにもなるのだが、ミュージックビデオにおけるゴールドのホットパンツ姿での妖艶なダンスパフォーマンスもとても印象的であった。
‘On a Night Like This’ (2000)
「スピニング・アラウンド」の大ヒットで勢いにのるカイリー・ミノーグはアルバム「ライト・イヤーズ」から次にシングルカットしたこの楽曲でも、全英シングル・チャートで最高2位を記録し、再び全盛期を迎えたようでもあった。
ユーロポップ的な風味も感じられるこの楽曲は元々はスウェーデンのシンガーであるパンドラのためにつくられ、すでにレコーディングもされていたという。
‘Can’t Get You Out of My Head’ (2001)
「ライト・イヤーズ」のヒットに続いてリリースされたアルバム「フィーヴァー」ではさらにエレクトロニックダンスポップ化していて、特に先行シングルで「熱く胸を焦がして」の邦題でも知られるこの楽曲では、全英シングルチャートで1位に輝いたのみならず、全米シングルチャートでも最高7位を記録するなど、世界的な大ヒットとなった。
中毒性の高いエレクトロニックなサウンドにセクシーさを増したカイリー・ミノーグのボーカル、さらには未来的でもあるカジュアルなエロスを感じさせもするミュージックビデオも含めて驚異的な完成度である。
‘Love at First Sight’ (2001)
「フィーヴァー」のアルバムからは次にシングルカットされた「イン・ユア・アイズ」も全英シングルチャートで最高3位、その次のこの楽曲も最高2位にヒットを記録した。
タイトルは日本語でいうところの一目惚れのことであり、その魔法のような感覚について、夢見心地でありながらもリアルに表現されている。
後のダフト・パンクやデュア・リパなどによってノスタルジックでありながら未来的でもあるようなタイプのダンスポップがメインストリームになってもいくのだが、そういったトレンドにこの時期のカイリー・ミノーグの楽曲もわりと影響をあたえていたような気もする。
‘Come into My World’ (2001)
8作目のアルバム「フィーヴァー」からシングルカットされ、全英シングル・チャートで最高8位を記録した楽曲である。
エレクトロニックなダンスポップとしてクオリティがひじょうに高く、セクシーなボーカルともマッチしている。この曲によってグラミー賞の最優秀ダンス・レコーディング賞を受賞している。
パリで撮影されたミシェル・ゴンドリー監督のミュージック・ビデオでは、カイリーがどんどん増殖していったりしてとても楽しい。
‘Slow’ (2003)
9作目のアルバム「ボディ・ランゲージ」から先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで1位い輝いた。
エレクトロニックミュージック色が強くなり、より実験的なサウンドと、より官能的にも感じられるボーカルがとても良い。
バルセロナで撮影されたミュージック・ビデオもセクシー路線に振り切れている。
‘Padam Padam’ (2023)
「ショーガール:ザ・グレイテスト・ヒッツ・ツアー」の最中に乳癌が発覚し、メルボルンでの闘病生活の末に克服し復活、その後はエリザベス2世女王から大英帝国勲章を授与されたり何作かのアルバムをリリースしてはヒットさせたり、2019年にはグラストンベリー・フェスティバルにレジェンド枠で出演するなど、プリンセス・オブ・ポップとしての存在感は衰えることがなかった。
そして、2020年代に入るとまたしてもディスコポップ的なアルバム、その名も「ディスコ」をリリースし、全英アルバムチャートで1位に輝き、続くアルバム「テンション」も連続して1位のみならず、先行シングルのこの楽曲も全英シングルチャートで最高8位のヒットを記録し、このチャートでは実に12年ぶりとなるトップ10入りを果たした。
ポップでキャッチーなダンスポップではあるのだが、ヨーロピアンな暗さのようなものも絶妙に感じられ、そこがまた味わい深くてとても良い。