Real Life POP Top 10 (August 5, 2023)

「心のベストテン 第一位はこんな曲だった」的な回を突発的にやりたくなって先週やったのだが、奇跡的にその感じがまだ継続していたので、今週もその続きをやっていきたい。

10. Eve, Psyche & The Bluebeard’s Wife/LE SSERAFIM

韓国のガールズグループ、LE SSERAFIM(ル・セラフィム)のアルバム「UNFORGIVEN」に収録されたとてもカッコいい曲である。グループ名は「I’m Fearless(私は恐れない)」のアナグラムであり、クールで力強いイメージが特徴的だが、メンバー同士の仲がひじょうに良く、はじめは楽曲やパフォーマンスから興味を持つものの、やがてそのような側面の魅力に気づくとどんどん沼にはまっていく傾向もあるといわれている。

元HKT48のメンバーであった宮脇咲良が最年長のビジュアルメンバーとして活躍しているのだが、その軌跡にもまた胸を熱くさせるものがある。この楽曲にはトレンドであるジャージー・クラブの影響が感じられると共に、「Girl wanna have fun」というフレーズが象徴しているように、ポップミュージック史的にはシンディ・ローパーやスパイス・ガールズなどの流れを汲むガールズパワー的なアティテュードを強く主張するものでもある。

9. ファジーネーブル/Conton Candy

Conton Candyは東京都出身のガールズバンドであり、インディーポップ的な音楽性が特徴なのだが、2023年にリリースされたこの楽曲がTikTokなどでもよく使われがちで、ロングヒットとなっている。

いまどきのトレンド的なサウンドではそれほどないようにも感じられるのだが、それを超えたキャッチーさとポップソングとしての魅力に溢れているということもいえる。

タイトルはリキュールベースのカクテルの名前に由来していて、切ない恋がテーマになっている。とはいえ、ミュージックビデオにも表れているような音楽を楽しくやっている感じがとても良く、今後の日本のポップミュージックシーンにただならぬ影響をあたえそうな予感もなんとなくしている。

8. 美しい鰭/スピッツ

スピッツのアルバム「ひみつスタジオ」からの先行シングルにして、アニメ映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影」の主題歌である。1987年に結成され、1991年にメジャーデビューしたベテランバンドであり、これまでにもJ-POP史に残る名曲の数々を世に送り出してきているのだが、今回のアルバムが実は最高傑作なのではないかという声が出るぐらい充実した作品となっている。

ベテランらしい円熟味も感じられるのだが、トータル的に若々しくフレッシュであり、いまどきの若手アーティストたちの楽曲に混じってロングヒットを記録しているところは本当にすごい。そして、春からずっと聴いているのだが、実は夏にふさわしい楽曲であるということもここにきて明確に実感できてきた。

7. 地球儀/米津玄師

米津玄師の最新シングルで、宮崎駿監督によるアニメーション映画「君たちはどう生きるか」の主題歌である。

実に壮大かつ深遠なテーマを扱っているようにも思えるのだが、独特なポップ感覚があり、それほど重すぎず聴きやすくもあるところがとても良い。

ベーシックな悲しみのようなものを必然的にかかえながら、それでも前に進もうというメッセージ性のようなものがこの曲からもやはり感じることができ、特に「この道が続くのは 続けと願ったから」というフレーズは印象的である。

6. 青のすみか/キタニタツヤ

テレビアニメ「呪術廻戦 懐玉:玉祈」のオープニングテーマ曲である。いかにもアニソンらしい楽曲ではあるのだが、ロックをルーツとするキタニタツヤらしいところも感じられ、そのバランスが新感覚であったりもする。

それ以前に痛みや悲しみをかかえながらも爽やかな夏のアンセムとしての完成度は抜群であり、聴けば聴くほどじんわりと染みてくる。特に消えることのない大切な記憶のことを「今でも青が棲んでいる」と表現したり、「また会えるよね」というフレーズが希望というよりは悲しげに響いてしまったり、コーラスが教室のチャイムのメロディーを思わせるところなど、ポップでキャッチーでありながら実に聴きごたえのあるポップソングである。

5. アイドル/YOASOBI

2023年上半期最も過激でありながら大衆的でもある大ヒットソングで、テレビアニメ「【推しの子】」のオープニングテーマ曲である。

とても注目されていたテレビニメの主題歌を大人気ユニットのYOASOBIがやるということだけで大ヒットは約束されたようなものだったのだが、Billboard JAPAN Hot 100で15週連続1位とテレビアニメの放映が終わってからも、ずっと聴かれ続けている。

テレビアニメの内容に沿っていながらもそれ自体がアイドル論にもなっているかのような歌詞に、変幻自在なIkuraのボーカルパフォーマンスなど、情報量とポップソングとしての強度が驚異的である。ポップミュージックのみならず、漫画、アニメ、アイドルといったここ数年間の日本のサブカルチャーの良質なところを凝縮したかのような素晴らしい楽曲で、日本のポップミュージック史に間違いなく残る名曲として知られることになると思われる。

4. Magic/Mrs. GREEN APPLE

Mrs, GREEN APPLEの素晴らしいアルバム「ANTENNA」からの先行シングルで、コカ・コーラとのタイアップも付いていた。

ケルト音楽的なフレーズにポップでキャッチーなシンセポップ的なサウンド、ファルセットも効果的に用いた圧倒的なボーカルパフォーマンス、「いいよ もっともっと良いように いいよ もっと自由で良いよ」などと歌われる歌詞は肯定感に満ちているが、その前提として深い痛みや悲しみがあり、それがポップソングとしての強度につながってもいる。

3. Super Shy/NewJeans

韓国のガールズポップグループ、NewJeansの2作目のEP「Get Up」から、先行シングルとしてリリースされた。もっと本格的で味わい深い楽曲もやれてしまうということは「Ditto」「OMG」などで証明されているのだが、ここは夏らしくあえてライトでキャッチーな感じがとても良い。

恋をしているのだが、とてもシャイなので想いがうまく伝えられない、あなたは私の名前さえ知らない、というようなことが歌われているのだが、ミュージックビデオなどで見られるパフォーマンスが発するトレンド感やポジティヴィティーはすさまじく、これぞ2023年夏のポップ感覚だということができる。

2. ETA/NewJeans

NewJeansのEP「Get Up」からシングルカットされ、iPhone 14 ProのCMにも起用されている。ダンスミュージック界のトレンドであるジャージークラブ的な要素が効果的に導入され、繰り返されるホーンのフレーズがとても印象的である。

恋愛関係における浮気であったり、いろいろそういうナイスでクリーンなばかりではないテーマをも取り扱っているところがとても良い。

1. Seven/JUNG KOOK & Latto

韓国の超人気音楽グループ、BTS(防弾少年団)のJung Kookのソロデビューシングルである。夏らしい涼しげで都会的に洗練されたラヴソングで、月曜から日曜までの毎日を英語でうたっているところがとてもキャッチーで印象に残る。

アメリカのラッパー、Lattoをフィーチャーしているところもとても良く、全米シングル・チャートでも1位に輝いてしまった。2023年夏のサウンドトラックとして、今後も多くの人々の記憶に残っていくのではないかと思われる。