レディオヘッドの名曲ベスト10【The 10 Best Radiohead Songs】

レディオヘッドは1968年10月7日生まれのトム・ヨークらによってオン・ア・フライデーというバンド名で1985年に結成され、EMIと契約した1991年にレーベルからの要望で改名することになった。トーキング・ヘッズのアルバム「トゥルー・ストーリーズ」に収録されていた「ラジオ・ヘッド」という曲のタイトルに由来している。1992年にインディー・ロックバンドとしてデビューするが、自己憐憫的な歌詞が特徴的な楽曲と、後にブリットポップとしてムーヴメント化するイギリスのインディーロックが盛り上がりつつある風潮にものって、人気バンドになっていく。

1995年にリリースされたアルバム「ザ・ベンズ」で飛躍的に楽曲のクオリティーが上がり、一躍よりシリアスに取り上げられがちになり、さらにはブリットポップの勢いが失速しかけていた1997年にリリースされた「OKコンピューター」のプログレッシヴでシリアスな内容が大いに受けて、さらに一目置かれるようになる。加速する社会における疎外感とでもいうべきテーマも、わりと共感を呼びやすかったのかもしれない。2000年のアルバム「キッドA」以降はエレクトロニカの要素も取り入れ、よりエクスペリメンタルな音楽性が高く評価されるようになった。

カジュアルなポップスファンにはわりと敷居が高く取っつきにくいバンドになってしまったような気はしなくもないのだが、ポップミュージック史上最も高く評価され、重要視されているロックバンドの1つであることは間違いがなく、やはり履修しておく必要や価値はあるように思える。

今回はそんなレディオヘッドの楽曲から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲を選んでカウントダウンしていきたい。

10. How to Disappear Completely (2000)

レディオヘッドの4作目のアルバム「キッドA」に収録されている曲である。いまやポップミュージック史に残る名盤としての評価が定着しているこのアルバムだが、リリース時には賛否両論であり、このアルバムでレディオヘッドから離れたリスナーも実はそれほど少なくはない。

「OKコンピューター」がヒットしたうえに大絶賛された後、バンドにはわりとしんどい状況もあったようであり、このタイトルからして完全に消えてしまう方法というようにひじょうに暗かったりもするこの曲は、それを反映してもいるようである。

実験的とかプログレッシヴとかいわれがちでもある「キッドA」にあって、この曲はわりとオーセンティックで聴きやすくもあるのだが、その美しさや心地よさが危険だと感じられるほどヤバい内容が歌われているようにも思える。

9. Reckoner (2007)

7作目のアルバム「イン・レインボウズ」の収録曲で、後にシングルカットもされていた。このアルバムが画期的だったのは、EMIとの契約が終わってわりと自由な販売方法を取ることができたからか、配信先行で販売され、しかも購入者が価格を決定することができた。個人的には無難に当時の輸入盤CDアルバムの市場価格にひじょうに近い金額で購入したような記憶がある。その後でCDなども発売されたのだが、しっかりイギリスやアメリカなどのアルバムチャートで1位になっていたのですごいことである。

「キッドA」以降のアルバムとしてはかなり聴きやすくもあり、概ね好評だったような気がする。リリース時にはもっと他の曲の方が目立っていたのだが、繰り返し聴かれるうちに、実はこの曲が特に良いのではないかという評価になっていった。ジョン・フルシアンテにインスパイアされたというミニマルな演奏とトム・ヨークのファルセットのボーカルがひじょうに美しく、彼岸からの音楽のようにも聴こえがちである。「イン・レインボウズ」収録曲では、ジョニー・グリーンウッドが特に気に入っている曲でもある。

8. Creep (1992)

レディオヘッドのデビューシングルだが、これが初リリースというわけではなく、この前に「ドリルEP」というのが発売していた。しかし、まったくヒットはしていなく、レディオヘッドの存在を世に知らしめたのは、やはり「クリープ」ということになる。とはいえ、1992年9月21日にイギリスで発売され、「NME」の年間ベストアルバムで4位に選ばれるなどはしたものの、特にヒットはしていなかった。

その後、イスラエルやアメリカのオルタナティヴ系のラジオ局でヒットしたりして、イギリスでも逆輸入のようなかたちで1993年に再発したところ、全英シングル・チャートで最高6位のヒットを記録したのだった。トム・ヨークの自己憐憫的な歌詞は、ほとんど絶望的で強迫観念的な欲望というか、望みが限りなく薄そうな片想いについて歌っているようでもあり、それが特にインディーロックを愛好するようなタイプのリスナーたちには共感されがちであった。

静かにはじまって途中からラウドに盛り上がるという構成は当時、流行していたグランジロックに通じるところもあったのだが、共通点はサウンドのみにとどまらず、陰鬱な精神性にも大いに見られた。レディオヘッドの楽曲の中でも特によく知られてはいるのだが、バンド自身はすでにうんざりしているようなところもあって、ライブで演奏される機会はひじょうに限られている。

7. No Surprises (1997)

「OKコンピューター」から4作目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高4位を記録した。現代社会における疎外感をヴィヴィッドに表現しているとしてひじょうに高い評価を得ていたような気がする「OKコンピューター」にあって、この曲はわりと共感されやすく、しかも親しみやすくもあるところが特徴であった。

ビーチ・ボーイズ「ペット・サウンズ」に影響されたというグロッケンの音色やイントロから繰り返し聴かれるインストゥルメンタルのフレーズがひじょうにやさしく、しかし、仕事がゆっくりと私を殺していく、というようなわりとエグめなことが歌われてもいる。しかも、ミュージックビデオではトム・ヨークがかぶっているヘルメットの中にどんどん水が入っていき、息苦しくなっていくというひじょうに印象的なものであった。

6. Everything in Its Right Place (2000)

「キッドA」の1曲目に収録されている曲で、それ以前からレディオヘッドの音楽を聴いていたリスナーにとっては、音楽性が決定的に変化してしまったことを認識した瞬間でもあった。レディオヘッドにロック的なカタルシスをも期待していたリスナーは、「キッドA」からそれを得ることができなかった。このアルバムの背景には、トム・ヨークのロック的なカタルシスに対する失望もあったとは思われるため、それもまあ仕方がないことではあった。

ボーカルのサンプリングが演奏として用いられるなど、それまでのレディオヘッドの音楽とはかなり異なったアプローチが見られ、インディーロックというよりはエレクトロニカやクラウトロックなどに近い感覚がある。

5. Fake Plastic Trees (1995)

レディオヘッドの2作目のアルバム「ザ・ベンズ」から3作目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高20位を記録した。スポーティーなファッションでスーパーマーケットのカートに乗りながら、嘆き節のように歌うトム・ヨークが見られるという点で、この曲のミュージックビデオはかなり貴重だともいえる。

すべてがフェイクであるような現代社会の虚しさのようなものをテーマにしていると思われ、わりと共感もされやすいのだが、この曲がサウンドトラックで使われた映画「クルーレス」でアリシア・シルヴァーストーン演じるイケてる女子高校生に「ダサ!かったるい大学生のオヤジ系BGM」などと言われてしまう。それも痛快だと楽しめたうえで、この曲そのものも味わい深い。

4. Let Down (1997)

「OKコンピューター」収録曲で、シングルカットされていないのに人気があると思いきや、実は当初この曲が先行シングルの予定だったのだが、ミュージックビデオの出来が気に入らず、リリースされなかったという経緯もあったようである。

失望や絶望によって気落ちしている状態がテーマになっているようなのだが、そこに激しい怒りや憤りのものはほとんど感じられず、ただ事実として淡々と歌われているようにも感じられる。そういうものだ、やれやれ、とでも言いたげである。だからこそこれがさり気なくリスナーの心に寄り添い、時には救いにもなりうると考えられる。

3. Karma Police (1997)

「OKコンピューター」から2作目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高6位を記録した。それにしても、カルマ警察とは一体、何のことなのかというと、元々はバンド内のジョークから発展したもので、何か悪いことをしていると誰かが見ている、それがカルマ警察なのかもしれない。

ゆえに、そのシリアスなイメージに反して、これはとても皮肉がきいていてユーモラスな曲でもある。たとえば会社の中間管理職あたりにたいする反感を含んでもいるというのだが、これもやはり「OKコンピューター」全体のテーマでもある加速する社会における疎外感の原因として、企業社会というのも当然ながら入ってくるということでもあるのだろうか。

とても良い曲でわりと聴きやすいのではないかと油断をしていると、エンディングがやたらと実験的にカッコよかったりもしてとても良い。

2. Idioteque (2000)

「キッドA」からは結局のところシングルがまったくカットされていないのだが、アルバムの気分を最も分かりやすく感じられる1曲となると、8曲目に収録されたこの曲になるのかもしれない。とはいえ、「キッドA」全体を代表するにしては、キャッチーすぎるような気がしなくもない。といっても、シングル・チャートの上位にランクインされているような楽曲のキャッチーさとはまたかなり違っている。

とにかく無機質的なテクノビートのようなものがずっと続き、シンセサイザーやサンプリング音、トム・ヨークのファルセットになったりならなかったりするボーカルなどが、ミニマルでエッセンシャルなポップスを実現しているといえる。

タイトルや歌詞の意味もほとんどよく分からないのだが、たとえば「Idiot」と「Discotique」を足したようなものだと考えるとしっくりくるのかもしれない。

1. Paranoid Android (1997)

「OKコンピューター」からの先行シングルで、全英シングル・チャートで最高3位を記録した。この前のアルバム「ザ・ベンズ」で楽曲のクオリティーが飛躍的に上がり、高評価だったうえに全英アルバム・チャートでも最高4位とかなり調子が良かった。そして、その次のアルバムということなのでかなり注目はされていたのだが、そこで先行シングルが約6分27秒のわりと長めの曲というのが攻めていて良かった。しかも、全英シングル・チャートで初のトップ3入りである。勢いにのってその後にリリースされた「OKコンピューター」もバンドにとって初となる、全英アルバム・チャート初登場1位である。

ミュージックビデオはアニメーション、曲そのものはいくつもの楽曲のアイデアを組み合わせてもいるようでありながら散漫ではなく、トム・ヨークがロサンゼルスのバーで体験したという嫌な感じをベースに、ひじょうに充実したものになっている。いろいろ実験的なこともやっていながら、ロック的なカタルシスも絶妙に感じられるという、とても聴きごたえのある楽曲である。