T・レックスの名曲ベスト10(The 10 Best T. Rex Songs)

T・レックスは1947年9月30日生まれのマーク・ボランによって1967年に結成され、当初はティラノザウルス・レックスというバンド名でサイケデリック・フォーク的な音楽をやっていた。何枚かのアルバムをリリースした後によりロック的な音楽性に変化し、バンド名もT・レックスとなった。1970年代にはグラムロックを代表するバンドの1つとしてヒット曲を連発し、一時期は60年代のビートルズにも匹敵しうる人気の過熱ぶりだったという。楽曲のポップさに加え、なんといってもマーク・ボランのスター性が最大の魅力であった。日本武道館などで公演を行うなど、日本でもひじょうに人気があった。人気のピークはそれほど長くは続かなかったのだが、それもまたいかにもポップスター的でとても良かった。

その後、ソウル・ミュージックやディスコミュージックを取り入れた音楽性にシフトしたり、パンクロックバンドのダムドをオープニングアクトとしたライブでは復活の兆しも見せてはいたのだが、1977年9月16日、30歳の誕生日を14日後に控えていたマーク・ボランは恋人が運転していた車で交通事故に遭い、還らぬ人となったのであった。この時に車を運転していたグロリア・ジョーンズは後にソフト・セルのカバーバージョンで有名になる「汚れなき愛」を歌っていたシンガーである。

今回はそんなT・レックスの楽曲から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲を選びカウントダウンしていきたい。

10. Solid Gold Easy Action (1972)

1972年の年末にオリジナルアルバムからは独立したシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高2位を記録した(その週の1位はリトル・ジミーオズモンド「リヴァプールから来た恋人」であった)。T・レックスお得意のブギー調のロックだが、この曲は特に合間に合いの手が入る感じがとても良い。人生はいつも同じで木からキツネを下ろすぐらい簡単なもの、というようなことが歌われているが、1977年にマーク・ボランが交通事故で亡くなった時、乗っていた車は木に衝突していて、ナンバープレートにはキツネをあらわす「FOX」という文字が入っていたことから、何やら予言的でもあるのではないかといわれていたりもする。

9. Ride a White Swan (1970)

T・レックスがバンド名をティラノザウルス・レックスに変えて最初のシングルで、全英シングル・チャートで最高2位のヒットを記録した。サイケデリック・フォーク的な音楽をやっていたティラノザウルス・レックスはまったく売れていなかったというわけでもなく、最後のシングル「デボラ」は全英シングル・チャートで最高7位を記録している。音楽性の変化にともないメンバーチェンジも発生したが、この時はまだデュオであった。それでも音楽性はすでにグラムロックというか、T・レックスの音楽を特徴づけるブギーロックになっている。B面にはエディ・コクラン「サマータイム・ブルース」のカバーも収録されていた。

8. Cosmic Dancer (1971)

T・レックスのアルバム「電気の武者」に収録された曲で、シングルカットはされていないがひじょうに人気が高い。美しいストリングスとマーク・ボランの特徴的なボーカルが絶妙にマッチしている。ビートルズ「リボルバー」的なテープ逆回転的な手法もマニア向けにならない程度に導入されている。それにしても、このアルバムタイトルの邦題「電気の武者」については本当にこれで良いのだろうかという気分にもなるのだが、T・レックスのアルバム邦題には「ズィンク・アロイと朝焼けの仮面ライダー」というのもあったりはするので、それほど気にすることでもないのかもしれない。

7. Hot Love (1971)

T・レックスが1971年にリリースしたシングルで、全英シングル・チャートでは6週連続1位に輝いた。イギリスの人気テレビ番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」に、いかにもグラムロック的なファッションとメイクアップで出演したことがヒットを後押ししたとも思われる。ポップミュージックにはいわゆるインテリ的なリスナーから愛好されるようなタイプやそうではないものなどいろいろあるのだが、T・レックスの場合はいかにもミーハー的なリスナーに受けそうなところがとても良く、そのきっかけとなったのがこの曲なのではないかというような気がする。

6. Metal Guru (1972)

T・レックスが全英シングル・チャートにおいて1位に輝いた4曲目にして、最後の曲である。後にアルバム「スライダー」にも収録された。メタルの導師(グールー)ということだが、マーク・ボランは別に特定の宗教におけるそれを指しているわけではないということまでわざわざ説明している。人気絶頂であったこの頃のT・レックスにはブギーロック的な似たようなタイプの曲が多いともいえるのだが、それがオリジナリティーとしても認知されやすくなっている。

5. Telegram Sam (1972)

T・レックスが全英シングル・チャートで1位に輝いた3曲目で、後にアルバム「スライダー」にも収録された。タイトルの「テレグラム・サム」は当時のマネージャーであったトニー・セカンダのことであり、歌詞に登場する他のキャラクターにもそれぞれ実在のモデルが存在する。キャッチーなリフト気だるげなボーカルで進行していく、これもまたブギーロック的なヒット曲である。

4. Jeepster (1971)

アルバム「電気の武者」からシングルカットされ、全英シングル・チャートで最高2位を記録した。当時のレーベルであったフライ・レコーズがマーク・ボランの許可を得ずにシングルカットしたらしく、この後、T・レックスはEMIに移籍することになる。ウィリー・ディクソンによって書かれたハウリン・ウルフのブルースソング「ユール・ビー・マイン」が、この曲のベースになっている。タイトルの「ジープスター」は自動車の種類であり、ブルースソングによくあるように、この曲の歌詞においても車が性的な隠喩として用いられている。

3. Children of the Revolution (1972)

1972年にシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高2位を記録した。映画「ボーン・ブギー」のためにレコーディングされたバージョンには、ピアノでエルトン・ジョン、ドラムスでリンゴ・スターが参加していた。

2. 20th Century Boy (1973)

1973年にオリジナルアルバムには未収録のシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートでは3週連続3位が最高位であった。1991年にはブラッド・ピットが出演したリーバイスのテレビCMに起用され、全英シングル・チャートで最高13位を記録した。レコーディングは1972年の来日時に、東京のスタジオで行われている。歌詞にはモハメド・アリによる「蜂のように刺す」という有名なフレーズが引用されたりもしている。イントロが特にとてもカッコいい。

1. Get It On (1971)

アルバム「電気の武者」から先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートではT・レックスにとって2曲目の1位に輝いた。イギリスに比べアメリカではそれほどシングルがヒットしなかったT・レックスだが、この曲は全米シングル・チャートで最高10位を記録している。アメリカではタイトルが「Bang a Gong (Get It On)」となっているのは、ジャズロックバンド、チェイスの同タイトル曲との混同を避けるためである。

グラムロックというジャンルにおいて最も有名な曲といっても過言ではなく、特にイントロから繰り返されるギターリフはとても印象的である。これはチャック・ベリー「リトル・クイーニー」にインスパイアされたものである。ティラノザウルス・レックス時代からバンドに好意的だったイギリスのレジェンド的DJ、ジョン・ピールがこの曲にはそれほど興味を示さなかったため、マーク・ボランとの仲が疎遠になり、その後、ほとんど口をきくこともなくなったという。

1985年にはロバート・パーマーやデュラン・デュランのジョン・テイラーとアンディ・テイラー、シックのトニー・トンプソンから成るスーポーバンド、パワー・ステーションがこの曲をカバーして、全米シングル・チャートで最高9位とT・レックスのオリジナルよりも1ランク高い順位を記録している。また、オアシスの初期の代表曲の1つである「シガレッツ&アルコール」は当初、「ゲット・イット・オン」にひじょうによく似ていた。