洋楽ロック&ポップス名曲1001:1979, Part.3

The Buggles, ‘Video Killed the Radio Star’

「ラジオ・スターの悲劇」の邦題で知られるこの曲はイギリスをはじめヨーロッパ各国のシングルチャートで1位に輝いたが、全米シングルチャートでの最高位は40位であった。日本のオリコン週間シングルランキングでは最高25位を記録した。実際にラジオでよく流れていた記憶がある。

ビデオが普及したせいでラジオスターは消えてしまったと歌われるこの曲は、音楽専門のケーブルテレビチャンネル、MTVが1981年に開局すると、記念すべき最初のビデオに選ばれることになった。そして、やがて全米シングル・ャートをミュージックビデオを効果的に使った第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン勢が席巻していったのだった。

バグルスのトレヴァー・ホーンはその後、やはりミュージックビデオを効果的に用いて大ブレイクを果たしたフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドなどのプロデューサーとして大活躍することになる。

The Slits, ‘Typical Girls’

イギリスのポストパンクバンド、スリッツのデビューアルバム「カット」に収録され、シングルでもリリースされた楽曲である。レゲエやダブを取り入れたサウンドとフェミニズム的なアティテュードがクールでとても良い。

旧態依然とした女性らしさのようなものを押しつけられることに対しての、レジスタンス的なアティテュードが最高である。カップリング曲として収録されたマーヴィン・ゲイ「悲しいうわさ」のカバーバージョンもとても良い。

The Sugarhill Gang, ‘Rapper’s Delight’

1970年代に「ピロー・トーク」をヒットさせたことで知られるシルヴィア・ロビンソンがニューヨークのブロックパーティーで盛り上がっていたラップミュージックをレコードにするためシュガーヒル・ギャングを結成し、そのデビューシングルが「ラッパーズ・ディライト」である。

全米シングルチャートで最高36位、全英シングルチャートで最高3位を記録したこの楽曲は、ポップチャートで最初にヒットしたラップの曲として知られる。

シック「グッド・タイムス」のベースラインが引用されているのだが、当時はコピーライトに対しての意識が低く、作詞・作曲者のクレジットはレーベルボスのシルヴィア・ロビンソンとシュガーヒル・ギャングのメンバーになっていた。

クラブで偶然にこの曲を耳にしたシックのナイル・ロジャースが訴訟をちらつかせたため、和解の末に「グッド・タイムス」の作詞・作曲者であるナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズがクレジットされることになった。

他のレコードからサンプリングしたビートにのせて自慢の歌詞をラップするという手法は、ジャンルの典型的なパターンとして知られるようになっていった。

The Jam, ‘The Eton Rifles’

ザ・ジャムのアルバム「セッティング・サンズ」から先行シングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高3位を記録した。バンドにとって初のトップ10ヒットである。

タイトルにも入っているイートン校はイギリスの金持ちが通う名門校であり、その近くで労働者階級に人々によるデモ行進が行われるという新聞の記事を読んだポール・ウェラーがそれにインスパイアされて書いた曲だといわれている。

後にイートン校出身で保守党党首のデーヴィッド・キャメロンがこの曲をお気に入りだと語った時、ポール・ウェラーは当然に不快感を露わにしていた。

Pretenders, ‘Brass in Pocket’

プリテンダーズのデビュー・アルバム「愛しのキッズ」からシングルカットされ、全英シングルチャートで1位、全米シングルチャートで最高14位を記録した。

中心メンバーのクリッシー・ハインドはアメリカ生まれだが、20代の頃にロンドンに移住し、「NME」の記者として活動したり初期のセックス・ピストルズの近くにいたりもした。

この曲ではクリッシー・ハインドのクールでありながら力強くもあるボーカルの魅力がじゅうぶんに発揮されていて素晴らしい。

ソフィア・コッポラ監督作品で2003年公開の映画「ロスト・イン・トランスレーション」において、スカーレット・ヨハンソン演じるシャーロットが東京のカラオケボックスでこの曲を歌うシーンがまたとても良い。

The Clash, ‘London Calling’

ザ・クラッシュのアルバム「ロンドン・コーリング」から先行シングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高11位を記録した。

アンセミックなサウンドにのせて世界の終わりを思わせもする黙示録的な内容が歌われているのだが、これにはジョー・ストラマーが当時読んでいたニュース記事の数々や婚約者との会話が影響しているようである。

テムズ川が氾濫するとロンドンの街は水中に沈んでしまいかねないという説や、この年に発生したスリーマイル島での原子力発電所事故、曲の終わりにはSOSのモールス信号のようなフレーズもあり、タイトルの「ロンドン・コーリング」はBBCが第二次世界大戦中に海外向け放送の最初にいっていた言葉に由来する。

Christopher Cross, ‘Ride Like the Wind’

グラミー賞で主要4部門を独占したことがかなり話題になったクリストファー・クロスのデビューアルバム「南から来た男」から先行シングルとしてリリースされた楽曲で、邦題は「風立ちぬ」である。

アルバムはAORの名盤として知られ、おそらくまだそれほどメジャーに売れていなかった頃に、田中康夫「なんとなく、クリスタル」の主人公、由利も好んで聴いていた。

清涼感あふれるハイトーンのボーカルが特徴であり、当時は姿を完全に隠していたことから爽やかな美青年が歌っているのではないか、というような想像もされていたかもしれない。

とはいえ、歌詞の内容はメキシコに逃亡する死刑囚の話だったり、リトル・フィートの亡くなったメンバー、ローウェル・ジョージに捧げられていたりもする。

マイケル・マクドナルドが聴いてすぐにそれと分かるバックボーカルで参加していることも話題になった。