邦楽ロック&ポップス名曲1001: 1979, Part.1

君は薔薇より美しい/布施明(1979)

布施明の42枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高8位を記録した。

カネボウ化粧品のCMソングで、久しぶりに会った女性がとても美しくなっていたということがドラマティックに歌われているのだが、ゴージャスなサウンドとボーカルがとても良い。

作曲・編曲はゴダイゴのミッキー吉野で、演奏にもタケカワユキヒデ以外のゴダイゴのメンバーが参加している。

カサブランカ・ダンディ/沢田研二(1979)

沢田研二の26枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高5位、第22回日本レコード大賞では金賞を受賞した。

阿久悠による歌詞は「ききわけのない女の頬をひとつふたつはりたおして」と女性に対する暴力を描いたり、「しゃべりがすぎる女の口をさめた口でふさぎながら」ときわめて性差別的であり、しかも映画「カサブランカ」主演俳優のハンフリー・ボガードを引き合いに出して、「ボギー ボギー あんたの時代はよかった」と、それらが美学として成立した過去を良きものとして懐かしんでいるようでもある。

今日でいうところの「有害な男性性」まる出しではるのだが、当時はこれがカッコいいとさえ感じられていた。今日の価値観からするとそこ自己耽溺的な感覚が滑稽にすら感じられもするのだが、ポップソングとしての強度にはすさまじいものがある。

ウィスキーを小瓶から口に含んで、吹き出すパフォーマンスを当時の子供たちが水で真似して親から怒られたりもしていたらしい。

YOUNG MAN (Y.M.C.A.)/西城秀樹(1979)

西城秀樹の28枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで5集連続1位を記録した。

アメリカのディスコポップグループ、ヴィレッジ・ピープルが大ヒットさせた「Y.M.C.A.」に日本語の歌詞を付けてカバーしたものである。

オリジナルはゲイ賛歌的なメッセージを含んでいたが、日本語詞ではより広く若者を応援するような内容になっていた。

ポップでキャッチーな曲調と体で「Y.M.C.A.」の文字をつくる振り付けを含んだ西城秀樹のエネルギッシュなパフォーマンスも素晴らしく、大いに受けていた記憶がある。

当時、ピンク・レディーや渋谷哲平もヴィレッジ・ピープルの別の曲「イン・ザ・ネイヴィー」を日本語でカバーしていた。

魅せられて/ジュディ・オング(1979)

ジュディ・オングの26枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで9集連続1位、年間シングルランキングでは渥美二郎「夢追い酒」に次ぐ2位、第21回日本レコード大賞では大賞を受賞した大ヒット曲である。

エーゲ海をイメージしたスケールの大きい歌詞と扇状に広がる白いドレスのような衣装が特徴的であり、阿木燿子による「女は海 好きな男の腕の中でも違う男の夢を見る」というフレーズに、なつほどそういうものなのかと感じ入った男子中学生などもいたのではないかと思われる。

下着メーカー、ワコールのCMソングとしてもテレビで流れまくっていたような気がする。

きみの朝/岸田智史(1979)

岸田智史(現在は岸田敏志)の8枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで1位に輝いた。

出演もしていたテレビドラマ「愛と喝采と」の挿入歌である。どこか哲学的ともいえる歌詞でしっとりと歌いはじめられ、そこには苦悩さえも滲んでいるように感じられるのだが、「モーニング モーニング きみの朝だよ」で突然に爽やかな朝のイメージに転じるところなどがとても良い。

「愛と喝采と」はTBS系のテレビドラマだったのだが、同じくTBS系の「ザ・ベストテン」では、日本テレビ系のテレビドラマ「熱中時代・刑事編」の主題歌であった水谷豊「カリフォルニア・コネクション」に阻まれ、最高2位に終わっている。

いとしのエリー/サザンオールスターズ(1979)

サザンオールスターズの3枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高2位、「ザ・ベストテン」では7集連続1位、年間ランキングでは小林幸子「おもいで酒」に次ぐ2位を記録した。

「勝手にシンドバッド」で鮮烈なデビューを飾ったサザンオールスターズは次のシングル「気分しだいで責めないで」もそこそこヒットさせるのだが、やや二番煎じ的な楽曲であり、このままフェイドアウトしていってしまう可能性をも感じさせていた。ましてや当時の一般大衆はサザンオールスターズの天才性にじゅうぶんに気づいていたとはまったくいうことができず、コミックバンド的な見られ方さえされがちであった。桑田佳祐はテレビで「ノイローゼ」と叫びながら、「気分しだいで責めないで」を歌っていた。

3枚目のシングルとしてリリースされた「いとしのエリー」はバラードであり、サザンオールスターズにしては普通すぎるのではないかと当初は感じられもしたのだが、聴けば聴くほどに実はとても良いのではないかと感じられてきて、実際にその支持は広がっていった。

個人的には当時、中学1年であり、一緒に通学するために友人の家に行くと、前の夜に旭川市民文化会館で開催されたサザンオールスターズのライブに行ってきたという彼の姉が、レコードに合わせてこの曲を熱唱しているのが聴こえたことをよく覚えている。

世間のサザンオールスターズに対する認識を決定的に変えたのみならず、後に桑田佳祐が敬愛するレイ・チャールズによって英語でカバーされたり、ピチカート・ファイヴ「これは恋ではない」、小沢健二「愛し愛され生きるのさ」といった「渋谷系」アンセムの歌詞で言及されたりもする不朽の名曲である。

イエロー・マジック・カーニバル/マナ(1979)

マナのデビューシングルで、作詞・作曲は細野晴臣、編曲は鈴木茂である。

細野晴臣が考案したイエロー・マジックという概念を具現化した楽曲であり、林立夫、マナとの3人でユニット結成も企てるのだが頓挫して、それがYMOことイエロー・マジック・オーケストラ結成のきっかけになったともいわれている。

とはいえ、このシングルはもうすでにイエロー・マジック・オーケストラが結成され、デビューアルバムもリリースされて以降の発表であり、ラジオでもわりとかかっていた印象もあるがそれほどヒットしたわけでもない。テクノ歌謡のコンピレーションに収録されていたり、シティポップ名曲選に選ばれていたり、なかなかジャンル分けも難しいのだが、ファニーなボーカルが無国籍で摩訶不思議な歌詞とマッチしてもいてとても良い。

マナは後にアニメ「ドラゴンボールZ」のエンディングテーマ「でてこいとびきりZENKAIパワー!」やハウスシチューミクスのCMソング「おなかすいたね」などを歌ったりもする。

マラッカ/パンタ&HAL(1979)

パンタ&HALのアルバム「マラッカ」のタイトルソングである。パンタこと中村治雄は過激ともいえるメッセージ性などでレコードが発売禁止になったりもしていたロックバンド、頭脳警察を経て、ソロアーティストとして活動していた。

「マラッカ」のアルバムは日本のロックを代表する名盤の1つとして知られるが、1曲目に収録され、タイトルトラックでもあるこの曲は、サンバのリズムを導入した疾走感溢れるロックで、「いま 赤道直下 マラッカ」と盛り上がらずにはいられない。

燃えろいい女/ツイスト(1979)

ツイスト(デビュー当時は世良公則&ツイスト)の5枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高3位、「ザ・ベストテン」では1位を記録した。

資生堂のCMソングで、キャッチコピーの「ナツコの夏」にも寄り添いながら、「まぶしすぎるオマエとの出会い」が熱くエネルギッシュに歌われている。

ロック的でありながらホーンなども効果的に用いられ、カラフルな魅力が感じられたりもする。サマーアンセム感満点のとても良い曲である。

サマーチャンピオン/浅野ゆう子(1979)

浅野ゆう子の14枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高48位を記録した。

カネボウ化粧品のCMソングで、水着姿で出演していたモデルも浅野ゆう子であった。セルジオ・メンデスによるとてもカッコいい楽曲であり、海外で編集された日本のディスコ歌謡コンピレーションCDのようなものにも収録されていた。作詞の伊達歩は作家、伊集院静の作詞家としての名前である。

後に浅野温子との「W浅野」としてトレンディードラマなどで大活躍し、1990年にスチャダラパーがリリースした「N.I.C.E. GUY」では「オールレディーズ W浅野コピー」などとラップされるようにまでなるのだが、その少し前まではグラビアのイメージが強かった。そしてそのさらに前のこの頃がいかに素晴らしかったかということを、この曲を聴いたりCMの映像を掘り起こしたりすることによって確認することができる。