ザ・スタイル・カウンシル「ロング・ホット・サマー」【Classic Songs】

1983年8月13日付の全英シングル・チャートで先週の6位から5ランクアップして1位に輝いたのは、KC&ザ・サンシャイン・バンド「ギヴ・イット・アップ」であった。先週まで1位だったポール・ヤングによるマーヴィン・ゲイ「愛の放浪者(安らぎを求めて)」は2位にダウンしていた。以下、フリーズ「I.O.U.」、マルコム・マクラレン「ダブル・ダッチ」、ワム!「クラブ・トロピカーナ」と続き、最も高い順位で初登場したのは8位にランクインしたザ・スタイル・カウンシルの3枚目のシングル「ロング・ホット・サマー」であった。1982年10月30日に当時、人気絶頂であったザ・ジャムの解散を発表したポール・ウェラーがミック・タルボットと新たに結成したユニットがザ・スタイル・カウンシルであり、1983年3月11日にリリースされたデビュー・シングル「スピーク・ライク・ア・チャイルド」は全英シングル・チャートで最高4位、続くファンク色の濃い「マネー・ゴー・ラウンド」は最高11位を記録した。

解散を発表した時点でのザ・ジャムがどれぐらい人気絶頂だったかというと、1982年に発売したアルバム「ギフト」は全英アルバム・チャートで1位、シングル「悪意という名の街」「ビート・サレンダー」が全英シングル・チャートで1位、「ザ・ビタレスト・ピル」が最高2位という具合である。イギリスの人気テレビ番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」では「悪意という名の街」とカップリング曲の「プレシャス」の2曲を演奏したのだが、それは番組史上初めてのことだったようだ。ザ・ジャムの音楽性はデビュー当初のパンク・ロック的なものから、次第によりソウル・ミュージックやR&Bなどからの影響を取り入れたものに変化していて、そう考えるとザ・ジャムの解散とザ・スタイル・カウンシルの結成は必然だったようにも思えるのだが、ザ・ジャムのファンからしてみるとやはりいろいろな意見があったようである。

「ロング・ホット・サマー」がヒットしていた当時、日本のNHK-FMでは日曜の夜6時から「リクエストコーナー」という番組を放送していた。隔週ぐらいでヒットチャートの特集があるのだが、それはヒットチャートを発表するというのではなく、全米シングル・チャートや全英シングル・チャートにランクインした曲をアーティストの日本での知名度などはまったく関係なく、ノーカットで放送するという夢のような内容であった。石田豊という方がパーソナリティーだったのだが、アーティストや曲についての個人的な感想や意見などは一切まじえず、ほぼ機械的にただただ楽曲を紹介することに徹しているのがとても良かった。ザ・スタイル・カウンシルの「ロング・ホット・サマー」も全英シングル・チャートの上位にランクインしている曲として、この番組でかかった。全英シングル・チャートでは8位に初登場したが、最高位は3位であった。ザ・スタイル・カウンシルの人気がより高まっていき、日本でもファッショナブルな音楽として消費されていくようになるのは翌年のアルバム「カフェ・ブリュ」以降なのだが、ザ・スタイル・カウンシルが全英シングル・チャートで記録した最高位は、「ロング・ホット・サマー」の3位である。1位を阻んだのはKC&ザ・サンシャイン・バンド「ギヴ・イット・アップ」とスパンダー・バレエ「ゴールド」であった。

打ち込みのリズムとハンドクラップ、シンセ・ベースなどのサウンドが印象的なR&B的なトラックに、ポール・ウェラーのブルー・アイド・ソウル的なボーカルがのっているという、ザ・ジャム時代とは明らかにテイストが異なった楽曲である。この年の夏、イギリスは記録的な暑さだったようなのだが、もちろんレコーディング当時にそうなることは予想されていなかったと思われる。ミュージック・ビデオもただただ心地よさを追求したかのような映像であり、実に洗練されている。同時期の夏を感じさせる全英ヒットソングとしてワム!「クラブ・トロピカーナ」があり、全英シングル・チャートでは最高4位で、「ロング・ホット・サマー」より1ランク低かった。ワム!はイギリスではすでに人気があったが、アメリカではまだブレイクしていなかった。後にザ・スタイル・カウンシルに参加して、ポール・ウェラーと結婚、離婚するディー・C・リーはこの頃はワム!と活動をしていて、「クラブ・トロピカーナ」のミュージック・ビデオにも出演している。

ワム!「クラブ・トロピカーナ」もやはりNHK-FMの「リクエストコーナー」でかかった。とはいえ、8月も後半となると北海道では夏休みも間もなく終わり、東京などよりも一足早く2学期がはじまるわけで、夏も終わりというムードになりかけている。この年でいうと、稲垣潤一「夏のクラクション」的なムードである。そのような時期に「リクエストコーナー」でザ・スタイル・カウンシル「ロング・ホット・サマー」とワム!「クラブ・トロピカーナ」を聴いたわけだが、「ロング・ホット・サマー」のシンセ・サウンドには、過ぎ去っていく夏のきらめきを記憶にとどめておきたいような感覚があり、「クラブ・トロピカーナ」はイントロで聴こえる虫の声のようなものが、すでに秋に似合ってもいるのだが、その後の乱痴気騒ぎ的なビートとキャッチーなメロディーが終わらない夏を感じさせてもくれる。

しかし、学校祭の企画のために全校生徒に好きな曲のアンケートを取らなければならず、集計したところ、邦楽では杏里「CAT’S EYE」、洋楽ではビリー・ジョエル「あの娘にアタック」が圧倒的な1位であった。

「ロング・ホット・サマー」は1983年6月12日から17日にかけて、パリでレコーディングされた。「ロング・ホット・サマー」をA面1曲目に収録した4曲入りEPは「À Paris」というタイトルで、「パリス・マッチ」やインストゥルメンタル曲をも含んでいた。「ロング・ホット・サマー」はアルバム「カフェ・ブリュ」には収録されなかったのだが、「À Paris」のEPには「カフェ・ブリュ」にも通じるセンスが感じられもする。日本を含む一部の国でミニ・アルバム「スピーク・ライク・ア・チャイルド(原題:Introducing The Style Council)が発売され、「ロング・ホット・サマー」は通常バージョンとクラブ・ミックスの2種類が収録されている。「À Paris」のEPに収録されていた「パリス・マッチ」も収録されているのだが、これはポール・ウェラーがリードボーカルのバージョンである。この曲は後に別バージョンがアルバム「カフェ・ブリュ」に収録されるのだが、そこではエヴリシング・バット・ザ・ガールのトレイシー・ソーンがリードボーカルを取っている。