The 1975、新曲「Part Of The Band」を発表
イギリスはチェシャー州ウィルムスロー出身のインディー・ロック・バンド、The 1975が2022年7月7日に新曲「Part Of The Band」をリリースした。このThe 1975だが、読み方はザ・ナインティーセヴンティーファイヴであり、中心メンバーのマシュー・ヒーリーが読んでいたビートニクスについての本の最後のページに「1975年6月1日」と書かれていたことに由来するらしい。当のマシュー・ヒーリーは1989年4月8日生まれという道重さゆみ世代であるからして、1975年というのは生まれる遥か前の大昔ということになるのだろう。
それで、このThe 1975なのだが、2013年にリリースされたデビュー・アルバム「The 1975」から「君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。」「ネット上の人間関係についての簡単な調査」「仮定形に関する註釈」と、邦題のクセのスゴさについてはあえてスルーするとして(といっても、ほとんど原題を翻訳しているだけなのだが)、すべて全英アルバム・チャートで1位に輝いているという大人気ぶりである。卓越したポップセンスとバラエティーに富んだ音楽性、適度に社会風刺的だったり批評的だったりするところやルックスの良さなども魅力となっている。ものすごく売れているだけではなくて、「君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。」と「ネット上の人間関係についての簡単な調査」が2作連続で「NME」の年間ベスト・アルバム1位に選ばれるなど、批評家からの評価も高い。
そして、いまのところ最新アルバムにあたる2020年の「仮定形に関する註釈」なのだが、全英アルバム・チャートでは1位になったものの、評価は賛否両論という感じであった。確かに良い曲はたくさん入っているのだが、やや取っ散らかっているような印象が否めないところもあり、曲を絞ってコンパクトにまとめればもっと良いアルバムになったのではないかというような声もあったのだが、いや、このバラエティー感こそがThe 1975なのではないか、という意見もあった。この前の2作が続けて1位に選ばれていた「NME」の年間ベスト・アルバムでは、43位という結果であった。The 1975のアルバムには1曲目に「The 1975」というタイトルのトラックが必ず収録されているのだが、内容は全て異なっている。そして、「仮定形に関する註釈」の冒頭に収録された「The 1975」は、当時16歳のアクティヴィスト、グレタ・トゥーンベリによる気候変動などについてのスピーチであった。
現在のUKインディー・ロック界における最重要バンドであり、ポップ・ミュージック全般のファンが取り敢えずは押さえておくべきインディー・ロック・バンドの1つがThe 1975であるという認識に、間違いはないと思われる。そのようなThe 1975による久々の新曲ということで、イギリス国内には街に広告が掲示されるなど、まあまあ盛り上がっていたようである。そして、リリースされるやいなや、インターネット時代の現在においては、世界中のファンやリスナーや野次馬たちがそれをカジュアルにシェアすることができる。音源と同時に、ミュージック・ビデオもである。
結論からいってしまうと、The 1975がまたしてもポップ・ミュージックの新境地を開拓し、ジャンルでいうとインディー・ロックになるのだが、これはポップス全体の最新型をまたしても更新したような楽曲に思える。10月14日にリリースされるアルバム「Being Funny In A Foreign Language」からの先行シングルでもあるということなのだが、早くもこのクオリティーならばかなり期待ができるのではないか、というような気もする。「Part Of The Band」と題されたこの曲は、2021年にフィービー・ブリジャーズのサポートアクトを務めていた時に演奏していた「New York」という曲がベースになっているということである。ジャック・アントノフが共演し、共同プロデューサーも務めている他、スピッツの草野マサムネも2021年のフェイヴァリットに挙げていたジャパニーズ・ブレックファストことミシェル・ザウナーのボーカルもフィーチャーしている。
弦楽器をミニマリスト的に導入した前半から、オルタナティヴ・フォークとインディー・ロックとを行き来するかのようなパートがあって、また元に戻っていく。マット・ヒーリーのボーカルは繊細で温かみが感じられるものであり、ストリーム・オブ・コンシャスネス(意識の流れ)的な歌詞は明確な意味を強く訴えかけたりはしないのだが、生い立ちや過去の人間関係などについて言及しているように思える。ランボーやヴォルレーヌといった詩人の名前が登場するのも特徴的である。ミュージックビデオはモノクロームで、服装からすると少し寒い季節のようである。何人かの人たちが巨大な球体を運んでいたり、置きざりにされた自動車の周りを子供たちが走り回ったりする。ノスタルジックなアート感覚が漂ってはいるのだが、それがけして行き過ぎず、適度にポップなフィールドに止まっているところがとても良い。わりと実験的であったり芸術的なアプローチを試みても、けして暗かったり重苦しくはならず、存在がポップであり続けることはなかなか難しくもあり、たとえていうならばビートルズが思いあたるぐらいにまで、もしかするとThe 1975はなりかけているし、次のアルバムで易々とたどり着いてしまうかもしれない。