ザ・フーの名曲ベスト10
ザ・フーのギタリストで中心メンバー、小説家でもあるピート・タウンゼントは、1945年5月19日にロンドンで生まれた。かつて一緒にジャズバンドをやっていたジョン・エントウィッスルに誘われ、ロジャー・ダルトリーのバンド、ザ・ディトゥアーズに参加、何度かのメンバー・チェンジを経て、ドラマーとしてキース・ムーンが参加、バンド名もザ・フーに変更した。60年代にはモッズ的なセンスのビート・バンドとして数々のヒット曲を生み、その後はよりハードでヘヴィーなロック・バンドとして人気を獲得したり、ロック・オペラなるものに取り組んだり、モッズのバイブル的映画「さらば青春の光」にかかわったりもした。80年代には一旦は解散するものの、その後、再結成のたびに大きな話題となり、新たな世代の音楽ファンにもアピールしていった。今回はそんなザ・フーの楽曲の中から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲をあげていきたい。
10. The Kids Are Alright (1965)
ザ・フーのデビュー・アルバム「マイ・ジェネレーション」に収録された曲で、シングル・カットされたが全英シングル・チャートでの最高位は41位と、それほど大きなヒットにはなっていない。とはいえ、ザ・フーにとって初期の代表曲の1つとして親しまれていて、後にドキュメンタリー映画のタイトルにもなった。美しいハーモニーが印象的なポジティヴな楽曲であり、様々なアーティストによってカバーもされているが、日本ではHi-STANDARDのバージョンがわりと知られている。
9. Love, Reign O’er Me (1973)
2枚組のロック・オペラ・アルバム「四重人格」の最後に収録された曲で、邦題は「愛の支配」である。ピート・タウンゼントの自伝的内容のアルバムのためにつくられたのだが、それがかたちを変え、最終的には「四重人格」になった。この当時、日本でのザ・フーの人気は、ひじょうに低かったといわれる。それはそうとして、このアルバムを原作とする1979年の映画「さらば青春の光」においても、ひじょうに印象的なシーンで流れる。主人公のジミーを演じたフィル・ダニエルズは後にブラー「パークライフ」にゲスト参加し、ビデオにも出演していた。
まったくの余談だが、今日、「さらば青春の光」とGoogle検索すると森田哲矢と東ブクロのお笑いコンビがますは表示されるわけであり、このコンビ名はやはり映画「さらば青春の光」に由来している。とはいえ、名付け親である先輩芸人、みなみかわがたまたま見ていた2本のビデオのうちの1本(もう1本は「復讐するは我にあり」)のタイトルであっただけに過ぎず、メンバー本人にこの映画に対する思い入れがあったというわけではなさそうである。
8. Pinball Wizard (1969)
ロック・オペラ・アルバム「トミー」からの先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高4位のヒットを記録した。ひじょうにキャッチーなロック・チューンであり、「ピンボールの魔術師」の邦題でも知られる。アコースティック・ギターで弾かれるイントロのフレーズはショッキング・ブルー「ヴィーナス」にインスパイアをあたえたともいわれ、さらにはモーニング娘。「LOVEマシーン」のイントロにまでつながっていく。ケン・ラッセル監督作品として映画化された時には、エルトン・ジョンがこの曲をカバーしていた。
7. 5:15 (1973)
ロック・オペラ・アルバム「四重人格」や映画「さらば青春の光」でも知られるファンキーでもある楽曲である。主人公、ジミーの苦悩が歌われていて、ストーリーの内容と合わせるとより味わいが深い。タイトルはジミーがブライトンに向かうために乗る列車の時刻である。
6. Substitute (1966)
ピート・タウンゼント自らによってプロデュースされた最初のレコードであり、全英シングル・チャートでは最高5位のヒットを記録した。邦題は「恋のピンチ・ヒッター」であり、所詮は誰かの代わりでしかない、というような状況がやや自虐的に歌われているようにも聴こえる。深夜のテレビでザ・コレクターズがこの曲をカバーしているのを見たような気もするのだが、記憶が定かではない。
5. I Can See For Miles (1967)
邦題は「恋のマジック・アイズ」とイカしている。全英シングル・チャートで最高10位、全米シングル・チャートでは最高9位のヒットを記録した。ポップでキャッチーではあるのだが、オーバーダビングを重ねることによって、独特な臨場感が生まれている。この曲のことをピート・タウンジェントが語ったインタヴューを読んだポール・マッカートニーは、曲そのものがどれかはよく分からなかったのだが刺激は受けて、「ヘルター・スケルター」をつくるきっかけにはなったという。
4. I Can’t Explain (1964)
バンド名をザ・ハイ・ナンバーズからザ・フーに変えて、最初のシングルである。全英シングル・チャートでは、最高8位のヒットを記録した。ザ・キンクスを意識したような楽曲ではあるが、オリジナリティーとポップソングとしての強度はじゅうぶんに感じられる。ジミー・ペイジがリズム・ギターで参加していたり、後にヘヴィー・メタル・バンドのスコーピオンズがカバーしたりもした。
3. Baba O’Riley (1971)
アルバム「フーズ・ネクスト」の収録曲で、イギリスやアメリカではシングル・カットされなかったが、ひじょうに人気が高い。ピート・タウンゼントがつくった9分間におよぶデモ音源が元になっているらしく、シンセサイザーを効果的に使用したプログレッシヴなサウンドが特徴である。タイトルは当時、ピート・タウンゼントが師事していたインドの導師、ミハー・ババとミニマル・ミュージックの有名アーティスト、テディ・ライリーに由来している。
2. Won’t Get Fooled Again (1971)
アルバム「フーズ・ネクスト」からの先行シングルで、全英シングル・チャートで最高9位を記録した。元々はロック・オペラ「ライフハウス」のためにつくられた曲だが、途中で制作が休止され、「フーズ・ネクスト」に収録されることになった。シンセサイザーのサウンドとダイナミックなロック・サウンドにボーカルという組み合わせもひじょうにユニークである。挫折した革命に対して毒づいているような箇所があり、保守派的なメディアが喜んで取り上げたのだが、これに対してピート・タウンゼントはちゃんとブチ切れていた。00年代以降はテレビドラマ「CSI: マイアミ」の主題歌にも使われた。邦題は「無法の世界」である。
1. My Generation (1965)
ザ・フーの代名詞的な楽曲で、全英シングル・チャートでも最高2位の大ヒットを記録している。年を取る前にくたばりたいぜ、というようなフレーズがひじょうに有名だが、若者のフラストレーションを表現したような歌詞と、勢いが感じられる演奏とボーカルがとにかく魅力的である。コンパクトなポップソングではあるが、間奏でのソロパートなども含め、聴きごたえがある。そして、この若者のアンセムのような楽曲を、ザ・フーがかなり大人になってからもやっていたというところに、ロックというアートフォームそのものの成熟が感じられたりもした。