邦楽ポップ・ソングス・オール・タイム・ベスト500:30-21
30. 明日、春が来たら。/松たか子 (1997)
松たか子のデビューシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高8位を記録した。
若手女優としてすでに大人気だった松たか子が歌手デビューということでリリース当時にもかなり話題になり、ヒットもしたわけだが、評価はその後に高まっていったような印象もある。
「走る君を見てた 白いボールきらきら」「スタジアムの歓声 夢の中で繰り返す」と歌われているように、おそらく恋の相手であろう野球少年を見つめる少女がモチーフになっていると思われる。
「名前呼び続けて はしゃぎ合ったあの日」は「永遠の前の日」であり、過ぎ去った過去である。これだけならば取り戻すことのできない輝いていた日々を回想しているといえるのだが、この後に「明日、春が来たら君に逢いに行こう」と歌われる。
「そばにいればもっと わかりあえたはずなのに」「言えなかった 永遠の約束」というような淡い後悔をいまもまだ心に感じたまま、春はまた訪れる。そして、この曲の浮遊感あふれるサウンドと意志的ともいえる松たか子のボーカルはとてもやさしい。
29. 勝手にしやがれ/沢田研二 (1977)
沢田研二の19枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで1位、日本レコード大賞、日本歌謡大賞、日本有線大賞で大賞、全日本歌謡音楽祭でゴールデングランプリを受賞するなど、賞レースも総ナメした、日本歌謡史に残る大ヒット曲である。
タイトルはジャン=リュック・ゴダール監督のフランス映画に由来し、セックス・ピストルズ「勝手にしやがれ!!」が発売されたのは、この約5ヶ月後である。
恋人に出て行かれて不貞腐れている男の歌なのだが、「夜というのに派手なレコードかけて 朝まふざけよう ワンマンショーで」というフレーズには、当時の小学生にもよく分からない胸さわぎのようなものを感じさせてくれた。被っていた帽子を客席に投げて飛ばすアクションは、真似をして親に怒られていた。
山口百恵「プレイバックPart2」の歌詞に登場したり、サザンオールスターズのデビューシングル「勝手のシンドバッド」のタイトルに影響をあたえたりもした。
28. トランジスタ・ラジオ/RCサクセション (1980)
RCサクセションの11枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高86位を記録した。
授業をサボって屋上でタバコをふかしながらトランジスタラジオを聴いているというこのシチュエーションに、当時の中学生は憧れたり憧れなかったりしていたとは思うのだが、「君の知らないメロディー 聴いたことのないヒット曲」というフレーズがとても良い。そんな時、彼女は教室で教科書を広げているのだ。
そして、「こんな気持ち うまく言えたことがない」と歌われる。ポップでキャッチーでありながらニュー・ウェイヴ風味も感じられるとても良い曲で、ファンの間でも人気が高い。
個人的には当初、忌野清志郎のボーカルの個性が強すぎて、それほど好きだったというわけでもなかったのだが、中学校で憧れていた悪そうな女子がRCサクセションのファンだったので、自分も分かっているふりをして聴いていたところ、どんどん好きになっていったという経緯がある。
27. いかれたBaby/フィッシュマンズ (1993)
フィッシュマンズの5枚目のシングルで、アルバム「Neo Yankees’ Holiday」にも収録された。
打ち込みのリズムを導入したレゲエ的なトラックにのせて、佐藤伸治の胸を掻きむしるような切なげなボーカルが、「悲しい時に浮かぶのは いつでも君の顔だったよ」「悲しい時に笑うのは いつでも君のことだったよ」などと歌う。
世の中には基本的に悲しいことがとても多いわけだが、そこことについて「人はいつでも見えない力が必要だったりしてるから 悲しい夜を見かけたら 君のことを思い出すのさ」と歌っている。
だから、いま現実的にそのような存在にあたる人が身近にいるという人たちはその事実を思い切り抱きしめるべきである。
「君は見えない魔法を投げた 僕の見えない所で投げた そんな気がしたよ」というところもとても良い。ミュージックビデオは世田谷の砧公園で撮影されているらしい。
26. ポリリズム/Perfume (2007)
Perfumeの5枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高7位を記録した。
NHKと公共広告機構のキャンペーンソングとしてテレビCMで流れたことにより注目を集め、Perfumeにとって初のトップ10ヒットとなった。
中田ヤスタカがプロデュースしたテクノポップ的なサウンドと、機械的に加工されながらもどこかヒューマニティーを感じさせもするボーカルが当時における最新型のポップミュージックとして大いに受けて、広島のローカルアイドルグループが一躍、トレンド最先端のポップアイコンと化した。
キャンペーンテーマであるリサイクルを、人の想いや気持ちに当てはめた歌詞も印象的である。
25. 東京は夜の七時/ピチカート・ファイヴ (1993)
ピチカート・ファイヴの5枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高50位を記録した。
「渋谷系」を代表する楽曲の1つで表層的なところがたまらなく良いのだが、実は「本当に愛してるのに とても淋しいあなたに逢いたい」と、とても本質的なことが歌われている。
「待ち合わせたレストランはもうつぶれてなかった」「嘘みたいに輝く街」、このシングルがリリースされた12月には、個人的にも当時付き合っていた人とお洒落をして渋谷に繰り出したりもしていたので、この曲をとても懐かしく感じるし、ここで歌われている景色のほとんどはもうすでに失われてしまい、おそらく戻ってくることもないと知っている。
しかし、「とても淋しいあなたに逢いたい」という想いには変わることがなく、「夢で見たのと同じバラ」をかかえ、一人で待っているような気がした。
24. ENDLESS SUMMER NUDE/真心ブラザーズ (1997)
真心ブラザーズの17枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高41位記録した。
この2年前にリリースされ、オリコン週間シングルランキングで最高81位を記録したシングル「サマーヌード」を、SMAP「青いイナズマ」「SHAKE」などで知られるCHOKKAKUがリアレンジし、よりカッコよくモテやすくしたものである。
真心ブラザーズは元々、フジテレビの「パラダイスGoGo!!」という番組のコーナー「勝抜きフォーク合戦」に出場するために結成され、これがきっかけでレコードデビューも果たすにだが、当初はフォーク時代のRCサクセションなどから強く影響を受けたようなタイプの音楽をやっていた。
それで、90年代半ば、「渋谷系」のモテそうな感じに対しての羨望のようなものが実に分かりやすくて個人的にはとても好感が持てた。そして、「サマーヌード」も先ほど当時のオリコン週間シングルランキングの最高位を記したようにそれほど大きくヒットはしていないのだが、後に名曲としての評価が定着し、2013年分は山下智久によるカバーバージョンがオリコン週間シングルランキングで1位に輝くまでになる。
「その髪の毛で その唇で いつかの誰かの感触を君は思い出してる」という生々しくもたまらない感じが被虐的でとても良い。
23. ロビンソン/スピッツ (1995)
スピッツの11枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高4位を記録した。これがバンドにとって初のトップ10ヒットになったのだが、中心メンバーで作詞・作曲者の草野マサムネは地味すぎて売れないだろうと思っていて、ヒットした後もどうしてこんなに売れたのか理由は分からないままだという。
それにしても当時、洋楽インディー・ポップ・ファンをも納得させるセンスとクオリティーの、何のギミックもないただただ良い曲があそこまで売れたのは衝撃的であった。「誰も触われない 二人だけの国」というフレーズや「ルララ 宇宙の風に乗る」のところなどは確かにとても印象に残るが。
当時、この曲をそれほど熱心に聴いていたわけでもなかったのだが、夏休みにいとこたちと北海道留萌市のカラオケボックスのようなところに行った時に、誰かが入れたので適当に歌いはじめたところ、ほぼ完璧に歌詞とメロディーが頭に入っていたことも懐かしく思い出される。
22. 恋とマシンガン/フリッパーズ・ギター (1990)
フリッパーズ・ギターの2枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高16位を記録した。
テレビドラマ「予備校ブギ」の主題歌で、バンドにとっては初めて日本語の歌詞でリリースした作品であった。
イギリスのインディー・ロックやネオ・アコースティックと呼ばれる音楽のファンの間でフリッパーズ・ギターはもうすでにかなり話題になっていて、個人的にも強く薦められたりはしていたのだが、歌詞が英語ならば本場のバンドやアーティストを聴いていればいうだろう、みたいな感じでわりと冷めてはいたのである。
しかし、このシングルを聴いて度肝を抜かれた。音楽的には当時の日本のメインストリームとはほとんど関係のない、ひじょうに趣味的で洋楽的なことをやっているのだが、その上で日本語の歌詞がオリジナリティーに満ち溢れている。スタイリッシュに着飾った強がりや照れ隠しの奥に見え隠れする本質のようなものが、あまりにも愛おしく感じられたりもした。
ファッションやキャラクター的な部分も含め、これがインディー・ポップやネオ・アコースティックなどよくは知らないいたいけな少年少女たちの一部にも刺さりまくり、後に「渋谷系」と呼ばれるようなテイストを形成していくのだが、あれはやはり革命だったのだろう。
21. 接吻/Original Love (1993)
Original Loveの5枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高13位を記録した。
フリッパーズ・ギター、ピチカート・ファイヴと並び、「渋谷系」を代表するアーティストとしてカテゴライズされがちだが、そうされることを拒んでいた印象も強い。
ソウル・ミュージックをベースとした定番的なラヴソングとして広く知られ、オリコン週間シングルランキングで最高4位のヒットを記録した中島美嘉のラヴァーズ・ロック的なバージョンをはじめ、様々なアーティストによってカバーされている、もはやスタンダードナンバーである。
「長く甘い口づけを交わす 深く果てしなくあなたを知りたい」というわけで、ゴージャスでラグジュアリーな気分に溢れた大人のラヴソングである。