邦楽ポップ・ソングス・オール・タイム・ベスト500:140-131

140. シーサイド・バウンド/ザ・タイガース (1967)

ザ・タイガースの2枚目のシングルで、約40万枚を売り上げる大ヒットを記録した。当時、オリコン週間シングルランキングはまだ存在していない。

「踊りに行こうよ 青い海のもとへ」とはじまる夏をテーマにしたイカしたナンバーである。「でっかい太陽が恋の女神」であり、「海は友だち」なのである。

内田裕也の誘いで京都から上京したザ・タイガースのメンバーは、この頃にはまだ千歳烏山で合宿生活を送っていたという。

139. スローモーション/中森明菜 (1982)

中森明菜のデビューシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高30位を記録した。

「花の82年組」といわれるぐらいで新人女性アイドルが豊作だった1982年だが、「ちょっとエッチな美新人娘(ミルキーっこ)」のキャッチフレーズでデビューした中森明菜の印象はそれほど強い方ではなかったような気がする。

この次にリリースされるツッパリ路線でポスト山口百恵的でもある「少女A」でブレイクし、その後は日本を代表するトップスターへの階段をかけ上がっていくわけだが、このデビューシングルの段階ではまだ声に初々しさがあり、そこがひじょうに新鮮である。そして、もちろん曲がとても良い。

138. 真夏の通り雨/宇多田ヒカル (2016)

宇多田ヒカルの配信限定シングルとしてリリースされ、後に約8年半ぶりのアルバム「Fantome」にも収録された。

2010年に「人間活動」として音楽活動を休止した宇多田ヒカルだが、2013年には母である藤圭子が亡くなり、2015年に第一子を出産する過程で再開することを決めた。そして、最初に書き上げたのがこの曲であり、母の死がテーマになっている。

しかし、この曲はそういった文脈においてのみならず、広い意味での深い喪失感とそれに対しての向き合い方について歌われた曲としても聴くことができる。

137. GLORIA/ZIGGY (1988)

ZIGGYの2枚目のシングルとしてまずはリリースされたが、翌年にテレビドラマ「同・級・生」の主題歌に使われ、再発された盤がオリコン週間シングルランキングで最高3位の大ヒットを記録した。

ルックスはグラムロック的だが、この曲には歌謡曲にも通じるキャッチーさがあり、そこが大いに受けたような気がする。当時、洋楽リスナーからはこういった音楽に対して賛否両論あったような気もするのだが、これこそが日本のロックとしてのオリジナリティーなのではないかと思えなくもない。

136. クロノスタシス/きのこ帝国 (2014)

きのこ帝国のアルバム「フェイクワールドワンダーランド」に収録されている曲である。

「コンビニエンスストアで350mlの缶ビール買って きみと夜の散歩 時計の針は零時を差してる」ではじまる、ゆったりとしていて都会的なムードも感じられるとても良い曲である。「コンビニ」ではなく「コンビニエンスストア」、「350ml」を「スリーファイブオーエムエル」と歌っているところが良い。そして、「クロノスタシス」とは「時計の針が止まって見える現象のこと」らしい。

きのこ帝国はベーシストが脱退したことによって2019年で活動を休止するが、その後、この曲が映画「花束みたいな恋したい」のカラオケのシーンで歌われたり、ダウ90000のコント「ピーク」のセリフにも出てきたりして、モダンクラシック化しているような印象もある。

135. カナリア諸島にて/大滝詠一 (1981)

大滝詠一のアルバム「A LONG VACATION」収録曲で、同日発売のシングル「君は天然色」のカップリング曲であった。

大ヒットアルバムにしてシティ・ポップの名盤がイメージさせる架空のリゾート感を最も感じさせてくれる楽曲だが、カナリア諸島は実在の地名である。

とはいえ、作詞をした松本隆は当時まだカナリア諸島に行ったことはなく、かつて本で地名を目にした印象からイメージをふくらませていったようだ。

「もうあなたの表情の輪郭もうすれて ぼくはぼくの岸辺で生きて行くだけ…それだけ…」というところには個人的にあまりにも見につまされるものが大きすぎ、結局のところこうして生きていくのしかないもだろうな、というような気分にさせてくれる。

134. 真夏の出来事/平山三紀 (1971)

平山三紀の2枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高5位を記録した。

夏の恋の終わりを歌った曲で、「彼の車にのって」とはじまる平山三紀の個性的なボーカルがとても魅力的である。舞台になっているのは神奈川県三浦市のようだ。

筒美京平の初期の代表曲と知られるが、特に好きなボーカリストとして、郷ひろみ、平山三紀、松本伊代を挙げていたことが思い出される。

133. 恋人がサンタクロース/松任谷由実 (1980)

松任谷由実のアルバム「SURF&SNOW」の収録曲である。

クリスマスの定番曲にして松任谷由実の代表曲の1つとして知られているが、シングルとしてはリリースされていない。

アルバムに収録されているとても良い曲として知られ、1982年には松田聖子がカバーしたりもしていたが、1987年の映画「私をスキーに連れてって」で効果的に使われ、さらに一般大衆レベルにまで広まっていったような印象がある。

恋人こそが本当のサンタクロースである、というのがこの曲の主題だが、日本においてクリスマスが家族で過ごす年中行事から恋人たちの聖夜とでもいうようなイメージに変化していく過程で、重要な役割を果たしたような気もする。

132. 夏のクラクション/稲垣潤一 (1983)

稲垣潤一の5枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングでは最高25位を記録した。

夏の終わりのシティ・ポップ名曲として知られるこの曲の作曲は筒美京平、編曲は井上鑑である。

夏が終わってしまうことに対する感傷的な気分と、甦る淡い喪失感のようなものが重ね合わされ、たまらない気分になりそうなところを、ライトでメロウなサウンドとボーカルがスタイリッシュにまとめ上げているようなところがとても良い。

131. 17才/南沙織 (1971)

南沙織のデビューシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高2位を記録した。

これもまた筒美京平の初期のヒット曲の1つだが、本土復帰前の沖縄から上京した南沙織のデビューシングルとしてふさわしいフレッシュでキャッチーな楽曲であった。

1989年には森高千里がユーロビート的なダンスポップとして、2008年には銀杏BOYZがややエクスペリメンタルなパンクロックとしてカバーし、いずれもオリコン週間シングルランキングでトップ10入りを果たしている。「好きなんだもの 私は今 生きている」というフレーズが特に良い。