the 50 best songs of 2023: 30-21

30. bad idea right?/Olivia Rodrigo

オリヴィア・ロドリゴの2作目のアルバム「GUTS」から2曲目の先行シングルよしてリリースされ、全米シングルチャートで最高7位、全英シングルチャートで最高3位を記録した。

90年代ポップパンク的なサウンドにのせて歌われるのは、元カレに会おうとするのは良くないアイデアだと分かってはいるのだが、その衝動と欲望に抗うことができないという心理状態である。

ロック的でありながら、ポップスのピュアでプリミティブな快感に満ち溢れたとても良い曲である。

29. Rush/Troye Sivan

オーストラリアのポップスター、トロイ・シヴァンが約5年ぶりにリリースしたアルバム「Something to Give Each Other」からの先行シングルである。

ハウスミュージックやディスコクラシックス的なとても良い感じを現在的にアップデートし、ご機嫌なサマーアンセムでありクィアソングとして仕立て上げたかのような最高の楽曲である。

ロマンスの初期衝動的な感覚をヴィヴィッドに描写したミュージックビデオは性的な多様性をポップに肯定するものとして賞賛され、グラミー賞にもノミネートされる一方で、体型的な多様性に対しては配慮が足れいていないのではないかなどと批判されたりもしたのだが、それをも含めてプログレスであることには違いなく、ひじょうに価値があるものだと断言することができる。

28. Houdini/Dua Lipa

デュア・リパがおそらく来年あたりにリリースするであろう3作目のアルバムからの先行シングルだと思われ、全英シングルチャートで最高2位、全米シングルチャートでも最高11位のヒットを記録した。

新型コロナウィルス禍にリリースしたアルバム「Future Nostalgia」が大ヒットし、現在のポップミュージック界における重要アーティストとしてのプレゼンスをさらに高めたようなところもあるのだが、リリースに際しては涙ながらにメッセージを発していたところが印象的であり好感も持てた。

テーム・インパラのケヴィン・パーカーがかかわるなど、音楽性にはやや変化が見られ、新章を感じさせもするのだが、基本的にはダンスアンセム的であり、パートナーとの関係性によって左右されがちな自己肯定感のようなものがテーマになっているような気がする。

旭川出身で2023年にイギリスのオーディション番組出演で話題になったとにかく明るい安村もデュア・リパのファンで、ネタのBGMに使うことも検討していたことを、まったくの余談として付け加えておきたい。

27. Perfect Night/LE SSERAFIM

LE SSERAFIM(ル・セラフィム)は韓国の人気ポップグループで、元HKT48の宮脇咲良が最年長メンバーとしてよくやっていることでも知られる。この曲はグループにとって、初の全編英語詞であることが特徴である。

グループ名が「I’m fearless(私は怖れない)」のアナグラムであるように、セルフエンパワメントでフェミニストアンセム的な楽曲の印象が強いのだが、この曲はやたらとメロウで新機軸を感じさせてくれたりもする。

こういった曲調やサウンドの楽曲であっても、歌われているのはシスターフッド的な内容であるところなどもとても良い。

26. ASAP/NewJeans

韓国の人気グループ、NewJeansのEP「Get Up」の最後に収録された楽曲である。

EPそのものが6曲入約12分というコンパクトさなのだが、現在的なポップ感覚に溢れた素晴らしい作品であり、個人的にも今年の夏に音楽を聴いていた時間の半分ぐらいはこれだったような気がしなくもない(実際にはさすがに違うとは思うが)。

その最後を締めくくるにふさわしい楽曲で、ミニマルなサウンドとナチュラルなボーカル、時計の秒針をあらわしているであろう「Tik tok, tik tok, tik tok」のコーラスなどもとても良い。

この曲を聴き終えた後に、またEP1曲目の「New Jeans」から再生し直すということを何十回やっただろうか。

25. What Was I Made For?/Billie Eilish

ビリー・アイリッシュが映画「バービー」のサウンドトラックに提供した楽曲で、全米シングルチャートで最高14位、全英シングルチャートで1位を記録した。

自分自身の存在に対しての疑念などをテーマにしたソフトなバラードで、繊細で表現力を増したボーカルが特徴的である。映画においてもひじょう効果的に用いられ、強く印象に残ったのだが、それだけにとどまらぬ汎用性が高い楽曲であり、「第66回グラミー賞」ではレコード・オブ・ジ・イヤーとソング・オブ・ジ・イヤーの主要2部門にノミネートされている。

24. PARA PARA/ CHAI

CHAIの4作目のアルバム「CHAI」から先行配信された楽曲で、シティポップブームに対しての回答的な内容になっていてとても良い。

日本のロックバンドでありながら、そのセルフエンパワリングでフェミニズム的なアティテュードとユニークな音楽性によって海外でも高い評価を得ているCHAIが、日本人としてのアイデンティティを追求した楽曲でもあり、日本における洋楽受容の1つのかたちでもあるシティポップとか和製ディスコ的なテイストが感じられる。

「Back to the 80’s, here we go」と歌われているように、日本独自のダンススタイルであるパラパラが一般大衆的に最も注目をあつめたのは1990年代終わりから2000年代初めにかけての第3次ブームだが、最初に流行したのは1980年代半ばの新宿歌舞伎町は東亜会館あたりだったような気がする。なお、CHAIの出身地でもある名古屋では星の子と呼ばれる振り付けも流行していたが、CHAIのメンバーはおそらく誰一人としてまだ生まれていない。

23. more than words/羊文学

羊文学がテレビアニメ「呪術廻戦 渋谷事変」のエンディングテーマとしてリリースしたシングル曲で、アルバム「12 hugs (like butterflies)」にも収録された。

持ち味である繊細で文学的なインディーロック性は保持したまま、人気テレビアニメのテーマソングにふさわしいポップソングとしての強度も感じられる。渋谷の街を舞台にしたミュージックビデオもとても良い。

22. 青のすみか/キタニタツヤ

ボカロPとして活動していたこともあるシンガーソングライター、キタニタツヤがテレビアニメ「呪術廻戦 懐玉・玉祈」のオープニングテーマ曲としてリリースした楽曲である。

夏の爽快感と切なさを感じさせるロックチューンであり、学校のチャイムのメロディーなども効果的に引用されている。この曲のヒットもあって、キタニタツヤは大晦日の「NHK紅白歌合戦」出場アーティストにも初めて選出された。

21. 花/藤井風

藤井風がフジテレビ系のテレビドラマ「いちばんすきな花」の主題歌としてリリースした楽曲で、Billboard JAPAN Hot 100で最高7位を記録した。

トッド・ラングレンや高野寛などをも思わせる良質なポップス感は今日のメインストリームのJ-POP界においてはやや異質であるようにも感じられるのだが、それでいてコンテンポラリーな大衆ポップスとしても成立しているところがとても良い。

「みんな儚い みんな尊い」というフレーズが印象的な歌詞も、シンプルでありながら大切なメッセージを伝えているように思える。