the 50 best songs of 2023: 40-31

40. The World’s Biggest Paving Slab/English Teacher

イギリスはリーズ出身のポストパンク的なインディーロックバンド、イングリッシュ・ティーチャーのメジャーデビューシングルである。

メンバーが出会った学生時代につくられ、新型コロナウィルス禍中にリリースされていたのだが、それから3年後にリリースされたこのバージョンではアートパンク的なセンスは保持されたまま、全体的に骨太になったような印象を受ける。

2024年にはデビューアルバムのリリースも予定されている、いま最も期待されるUKインディーバンドの1つだといえる。

39. 火花/Cornelius

コーネリアスの6年ぶりとなるアルバム「夢中夢-Dream In Dream-」から、先行シングルとしてリリースされた楽曲である。

小山田圭吾自身が作詞・作曲したいわゆる歌モノであるが、音楽的にはザ・スミスなどインディーロックからの影響も感じられる。忘れたつもりでいても不意に思い出しては心を揺さぶらずにはいられない、心的外傷のようなものをテーマにしているようにも思える。

シンセを基調とした音像において、キラキラしたギターのサウンドがまばゆい。

38. GOLD/PEOPLE 1

PEOPLE 1は大衆音楽のつくり手や送り手であることに自覚的なバンドであると思われ、1st EPのタイトルが「大衆音楽」、ツアータイトルが「ベッドルーム大衆音楽」であるのみならず、ファンのことも「大衆」と呼ぶ。

この曲はテレビアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」のオープニングテーマ曲であり、スタイリッシュでありながらエモーショナルという、このバンドの特徴を生かし、現在における勇気と優しさを歌っている。ミュージックビデオには大人気ユニット、ダウ90000から道上珠妃が出演している。

37. 荒れた唇は恋を失くす/aiko

aikoの15作目のアルバム「今の二人をお互いが見てる」の1曲目に収録された楽曲である。

作品のほぼすべてが基本的に実体験に基づいているというaikoだけあって、この曲をつくった頃は実際に唇が荒れていたのだという。

アップテンポでキャッチーなサウンドにのせて、本当は忘れたくもない過去の恋愛にまつわるマイルドな感傷と、変わっていくことについての肯定感のようなものをテーマにしたとても良い曲である。

個人的には多摩センターで濃厚魚介豚骨つけ麺を食べていた時に店内の有線放送からこの曲が流れてきて、思わず聴き入ってしまったことが思い出される。同じアルバムに収録された「アップルパイ」も超名曲である。

36. fake face dance music/音田雅則

「洒落た夜に流れたメロディー」と歌いはじめられるように、ネオシティポップ的な小洒落感が特徴的ではあるのだが、よく聴くと「純愛なんてさ信じてたのに 本命じゃなくて浮気女側」といったやるせなくもリアルな現実に寄り添う内容になっている。

「守るとか君しか見てないとか言われても信用ないなぁ」的な不信と疑念に苛まれながらも、とりあえずは踊っていようというタイプのダンスミュージックである。

個人的にはこの曲などをイヤフォンで聴きながらほろ酔い気味で新宿歌舞伎町を歩き、人並みに埋もれようとしていた夏のはじめあたりを早くも懐かしく思い出している。

35. 悲しみはバスに乗って/マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつのアルバム「大人の涙」の1曲目に収録された楽曲である。「あ。そういえば今日はあいつの命日だ なんで死んだんだっけ どうして死ななきゃいけなかったんだろう」をはじめ、生と死について歌われているが、音楽的にはけして重くなりすぎる、あくまでポップでキャッチーなところがこのバンドの特徴である。

とはいえ、「『悲劇は金になるから』囁く声が聞こえる」といったフレーズにはハッとさせられたりもする。「悲しみはバスに乗って、それでどこでもいい どこかへと行こう」と、ポップミュージックの機能としてたとえ一時だったとしても、意識をここではないどこかへ連れていってくれるというのがあるとは思うのだが、ここでは「この命が燃える目的は何?」と自問されたりもしている。

そして、その結論とは「ありふれた日、ありあまる日 ありきたりなしあわせ」というようなものである。ストーリー仕立てのミュージックビデオにもなかなか見ごたえがある。

34. ムーンライト・Tokyo/吉田哲人

チームしゃちほこやWHY@DOLLをはじめ、様々なアイドルに楽曲を提供してきた作曲・編曲家、吉田哲人がシンガーソングライターとしてリリースしたシングルで、アルバム「The Summing Up」にも収録されている。

元BELLRING少女ハート、THERE THRE THERESのカイに提供した楽曲のセルフカバーで、テクノ歌謡的でありながら、NEO・ニュー・ミュージックの旗手にふさわしい甘くソフトなボーカルで歌われているところがとても良い。

シティポップが描くのとはまた違う、乙女チックな気品をもまとったTokyoが感じられる。

33. The Narcissist/Blur

ブラーの約8年ぶりのアルバム「The Ballad of Darren」から先行シングルとしてリリースされた楽曲である。1990年代の半ば辺りを中心にブリットポップと呼ばれたり呼ばれなかったりしていたバンドの近辺がわりと活発だった印象もある2023年だが、特にブラーのカムバックは必然性や価値を強く感じさせるものだったように思える。

音楽性を様々に変化させてきたバンドではあるが、その現在における最果てとしてふさわしく、穏やかでありながらエモーショナル、過去の狂騒を成長した現在の立場から振り返り、真っ直ぐなメッセージを届けているようなところがとても良い。

32. 瞳のアドリブ/indigo la End

Indigo la Endはゲスの極み乙女の中心メンバーなどとしても知られる川谷絵音がそれ以前に結成し、活動しているバンドで、バンド名はスピッツのアルバム「インディゴ地平線」に由来している。これ以外に小藪千豊やくっきー!をもメンバーに含むジェニーハイや、お笑いコンビ、ラランドのサーヤがCLR名義でボーカル、作詞・作曲を担当する礼賛や、他にもいろいろやっている。

その中でも最もポップソングとしての純度が高いような気がしていたのがindigo la Endだったのだが、ここにきてキャッチーなポップセンスとユニークでトリッキーな要素とのバランスにやや変化が生じているのか、大衆ポップスとしての強度がグンと上がっているような気がしないでもない。

恋愛がもたらすドライブ感と切ない気持ち、乱降下する自己肯定感などを音像化したかのような素晴らしい楽曲である。モデルの新野尾七奈が走りまくるミュージックビデオもとても良い。

個人的には当初「隠せそうだ」という歌詞のところを「核戦争だ」と空耳していたことなども懐かしく思い出される。

31. My Love Mine All Mine/Mitski

Mitski(ミツキ)の7作目のアルバム「The Land is Inhospital and So Are We」の収録曲で、スローバラードでありながらTikTokでバズったのをきっかけに全米シングルチャートで最高26位、全英シングルチャートで最高8位と、過去最高となるヒットを記録した。

ちなみにMitskiはニューヨークを拠点とするシンガーソングライターだが出身は三重県であり、アルバムリリース時にはX(旧Twitter)の動画で「タイトル長くてすみません。ぜひ覚えられたらレコードショップ行って探したってください」などと日本語で言っていた。

この楽曲はカントリー的な要素も感じられるバラードであり、月に自分の心をあげたならば、死んだ後で一緒に地上に注ぐことができるだろうか、といったひじょうにスケールの大きなことを歌ってもいる。