定番クリスマスソングベスト50(1-10)

クリスマスソングを聴くならもちろんクリスマスシーズンが最適なのはおそらく間違いがないと思われるので、いまさら滑り込み的な気分でとりあえずやっていきたい。毎年新しいクリスマスソングがおそらく生まれ続けてはいるとは思うのだが、個人的に残された人生も思いのほか長くもないような気もしているので、オールタイムベスト的な感じで50曲を選んでいきたい。それもカウントダウンではなくカウントアップというか、1位から順番に今回はやっていきたい。

1. All I Want for Christmas Is You/Mariah Carey (1994)

マライア・キャリーのクリスマスアルバム「メリー・クリスマス」からシングルカットされ、イギリスと日本のシングルチャートでは最高2位のヒットを記録したのだが、アメリカでは正式にシングルとしてリリースされていなかった。しかし、その後チャートの集計方法が変わるなどして、2019年にリリースから25年目にして1位に輝いたのであった。

邦題は「恋人たちのクリスマス」で、日本でもよく売れていた。とはいえ当時はコンテンポラリーなヒット曲ではあったものの、歴代の定番曲に匹敵するほどの名曲かというとそうでもないような気もしていたかもしれない。

しかし、その後も長く支持され続け、聴けば聴くほどクリスマスソングの名曲の系譜を受け継ぎ、しかもそれがマライア・キャリーの抜群のボーカルパフォーマンスで歌われていること、さらにはホームビデオ風のミュージックビデオがたまらなく良いことなどをも含め、定番曲として広く認知されるようになったような気がする。

個人的には当時、社員旅行的なものでシンガポールに行っていて、現地のホテルのテレビでこの曲のビデオを見たことが強く印象に残っている。

2. Fairytale of New York/The Pogues featuring Kirsty MacColl (1987)

ザ・ポーグスが1987年にリリースしたシングルで、バンドのボーカリストであるシェイン・マガウアンとカースティ・マッコールのデュエットソングとなっている。全英シングルチャートでは当時最高2位を記録したが、それ以降もクリスマスシーズンになると幾度もヒットチャートに返り咲いている。イギリスでは21世紀になってからラジオで最も放送されたクリスマスソングだともいわれている。

アイリッシュフォーク的な楽曲はかつて成功を夢見てニューヨークにやって来たアイルランド移民のカップルが年老いて、お互いを罵り合いながらも結局のところは愛し合っているという内容になっている。一部の歌詞が激しすぎるとして、BBCなどでは差し替えたり差し替えなかったりもしている。日本では「ニューヨークの夢」の邦題でも知られる。

シェイン・マガウアンは2023年11月30日、今年もこの曲が聴かれはじめる頃に天国へと旅立った。

3. Last Christmas/Wham! (1984)

当時、人気絶好調だったポップデュオ、ワム!が「恋のかけひき」こと「Everything She Wants」との両A面シングルとしてリリースした楽曲である。

当時のワム!の人気からいって1位になることは確実視されていたような気もするのだが、ボブ・ゲルドフとミッジ・ユーロがアフリカの飢饉を救うために立ち上がったチャリティーシングル、バンド・エイド「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」があまりにも売れすぎたため、最高2位に終わっている。バンド・エイドのシングルにはワム!のジョージ・マイケルも参加して、ソロパートも歌っていた。

それはそうとしてその後、クリスマスの定番曲として聴かれ続け、チャートの集計方法が変わって以降の2020年、2022年、2023年の全英シングルチャートでそれぞれ1位に輝いている。

昨年の失恋について歌われた辛気くさいところも実はありながら、薄味のシンセサウンドが醸しだす浮遊感のようなものが超絶的にキャッチーでとても良い。

4. クリスマス・イブ/山下達郎(1983)

当初は山下達郎のアルバム「MELODIES」収録曲としてリリースされた。発売は1983年6月8日で、クリスマスシーズンでもなんでもなかった。初夏に聴くクリスマスソングというのがシュールでなかなか良かったし、バッヘルベル「カノン」の引用なども含め、当時から評価は高かったのである。

とはいえ、その年の12月にシングルカットされたものの、オリコン週間シングルランキングでの最高位は44位とそれほど高くはない。多くのリスナーがアルバムをすでに買ってしまっていて、わざわざシングルで買い直す意味を感じていなかったと思われる。

その後、バブル景気の真っ盛りである1988年にJR東海のテレビCMに使われたことによって再評価され、新しい世代の若者たちには新発見された。1989年から1990年にかけてはついにオリコン週間シングルランキングで1位に輝き、その後も幾度と再リリースされるのであった。

「きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ」という悲しげな気分がバブル景気にして謎めいた「純愛」ブームの当時、一般大衆に対して絶妙に刺さったのもヒットの要因だったような気もするのだが、とにかくクリスマスソングのクラシックであることには間違いがない 。

5. White Chrismas/Bing Crosby (1942)

1942年のアメリカ映画「スイング・ホテル」の挿入歌としてリリースされ、大ヒットして以降はクリスマスの定番曲として知られるようになった。ビング・クロスビーのバージョンがオリジナルだが、その後、フランク・シナトラをはじめ様々なアーティストによってカバーされている。

雪が降りしきる古風なクリスマスの情景を懐かしむこの曲は、当時、第二次世界大戦下にあった大衆の心を癒し、それが大ヒットの要因だったのではないかともいわれる。日本でもこの曲はクリスマスのスタンダードソングとしてよく知られているが、広まったのは終戦後のことだったようだ。

6. Happy Christmas (War Is Over)/John & Yoko/Plastic Ono Band with the Harlem Community Choir (1971)

ジョン・レノンとオノ・ヨーコによるクリスマスソングとして広く知られるこの楽曲だが、元々はベトナム戦争に対するプロテストソングとしてリリースされたもので、当時、彼らが活発に行っていた抗議行動のひとつでもあった。日本では「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」の邦題で知られる。

アメリカではクリスマスソングにしては発売が遅すぎたりプロモーションがじゅうぶんに行われなかったりで全米シングルチャート最高38位、イギリスでは契約関連で揉めたりしたことによってリリースが遅れ、翌年に全英シングルチャートで最高4位を記録するが、1980年にジョン・レノンが凶弾に倒れた直後にリバイバルヒットし、最高2位と記録を更新している(1位はやはりジョン・レノンの「イマジン」であった)。

7. 恋人がサンタクロース/松任谷由実(1980)

松任谷由実のアルバム「SURF&SNOW」収録曲で、シングルとしてリリースされたことはないが、代表曲の1つで定番クリスマスソングとしても広く知られる。

クリスマスといえば家族で祝うものという印象だったのが、いつしか恋人たちの一大イベントというイメージになっていくのに際して、この曲が果たした役割はわりと大きいのではないかともいわれる。

アルバム収録曲ということで当初は知る人ぞ知る的な感じでもあったのだが、松田聖子がクリスマスアルバム「金色のリボン」でカバーするなど、少しずつ認知が広がっていき、バブル景気が盛り上がりはじめていた1987年に公開された映画「私をスキーに連れてって」で効果的に使われたことによって、当時の純愛ブームとも相まって一般大衆的にも広く定番化したような気がする。

8. クリスマスソング/back number(2015)

back numberがフジテレビ系の月9ドラマ「5→9~私に恋したお坊さん~」の主題歌としてリリースした楽曲で、オリコン週間シングルランキングで最高2位、Billboard JAPAN Hot 100では1位の大ヒットを記録した。

邦楽の定番クリスマスソングといえばある世代を境に山下達郎「クリスマス・イブ」からこの曲に変わるような印象さえあるのだが、実はリリースからまだ8年しか経っていない。

クリスマスを前に浮き足立つ街の風景と高まりまくっている片想いの気持ちとが重なり合って、日常の中にあるドラマチック感が静かだが確かなものとして描写されている。美しいストリングスアレンジもとても良い。

9. Wonderful Christmastime/Paul McCartney (1979)

ポール・マッカートニーがすべての楽器を演奏したクリスマスソングで、全英シングルチャートで最高6位を記録した。ミュージックビデオには当時のバックバンドであったウィングスのメンバーが出演しているが、レコーディングには参加していない。

バブリー(バブル景気的ではなく浮き浮きするようなという本来の意味での)なシンセサウンドも心地よいとても素敵なクリスマスソングだと思う人たちもいる一方で、ポール・マッカートニーの作品の中でもかなりクオリティーが低いのではないかと酷評しがちな人たちもいるようだ。個人的には圧倒的に前者側である。

もうひとつついでに個人的な話をすると生まれて初めて買ったレコードがポール・マッカートニー「カミング・アップ」でもちろんリアルタイムのヒット曲として記憶しているのだが、収録アルバム「マッカートニーⅡ」制作時にレコーディングされたというこの曲についてはまだ洋楽を自主的に聴いていなかった頃の曲という印象である。

日本では萩原聖人や木村拓哉が出演した1994年のテレビドラマ「若者のすべて」(主題歌はMr.Children「Tomorrow never knows」)で流れていた曲としても知られているようだ。

10. Do They Know It’s Christmas?/Band Aid (1984)

テレビのドキュメンタリー番組で見たアフリカの飢餓の現実に心を痛めたブームタウン・ラッツのボブ・ゲルドフが自分たちに何かができないかとウルトラヴォックスのミッジ・ユーロと立ち上げたプロジェクトに、当時の数多くの人気アーティストたちが協力した結果、生まれたのがバンド・エイド「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」である。

デュラン・デュラン、カルチャー・クラブ、ワム!といった当時トップクラスに人気があったグループの中心メンバーをはじめとして、U2のボノやザ・スタイル・カウンシルのポール・ウェラーまでが参加し、ソロパートを歌っている。最初に歌いはじめるのはポール・ヤングだが、当初はデヴィッド・ボウイを予定していたようだ。ドラマーはフィル・コリンズである。全英シングルチャートで1位に輝き、ワム!「ラスト・クリスマス」は最高2位に終わった。

当時、日本の洋楽ファンもこれにはかなり盛り上がったのだが、確かに参加メンバーは豪華だしコンセプトも素晴らしいのだが、曲が弱すぎはしないだろうかとか、歌詞が上から目線すぎるのではないかというような意見もあった。とはいえ、後に別のメンバーによって続編もリリースされてはヒットするなどを経て、すっかりクリスマスの定番ソングとして定着したような印象を受ける。

このプロジェクトのアメリカ版的に企画されたのが翌年に大ヒットしたUSAフォー・アフリカ「ウィ・アー・ザ・ワールド」であり、歴史的チャリティーライブイベント「ライヴエイド」にもつながっていく。