the 50 best albums of 2023: 10-1

10. UNFORGIVEN/LE SSERAFIM

韓国のポップグループ、LE SSERAFIM(ル・セラフィム)のデビューアルバムで、韓国のみならず日本のオリコン週間アルバムランキングでも1位、全米アルバムチャートでは最高6位のヒットを記録した。

元HKT48の宮脇咲良をはじめ日本人2人、韓国系アメリカ人1人をもメンバーに含むこともあり、歌詞には韓国語、日本語、英語が用いられている。

セルフエンパワメント的なメッセージが込められたポップアルバムとしてひじょうにクオリティーが高く、ナイル・ロジャースがギタリストとして参加し、映画「続・夕陽のガンマン」のテーマソングをサンプリングした「UNFORGIVEN」、トレンドのジャージークラブを取り入れて中毒性も高めな「Eve, Psyche & the Bluebeard’s Wife」などを収録している。

9. ANTENNA/Mrs. GREEN APPLE

Mrs. GREEN APPLEの約4年ぶり通算5作目、3人組バンドになってからは最初のアルバムで、オリコン週間アルバムランキングでは最高2位を記録した。

バンドの中心メンバーである大森元貴のソングライターやボーカリストとしての魅力がフルに発揮された、ポップでバラエティーにとんだアルバムで、コカ・コーラのCMソングにも使われたサマーアンセム「Magic」、テレビドラマ「日曜の夜ぐらいは…」主題歌で新しいタイプの応援ソングとして支持された「ケセラセラ」、映画「ラーゲリより愛を込めて」主題歌で生きることそのものをテーマにした感動的なバラード「Soranji」をはじめ名曲揃いである。

2023年の夏には7月5日にリリースされたこのアルバムの収録曲や2020年リリースのサマーアンセム「青と夏」など、Mrs. GREEN APPLEの楽曲が特に良く聴かれていたような印象がある。大晦日には「NHK紅白歌合戦」にも初出場する。

8. Something to Give Each Other/Troye Sivan

オーストラリアのシンガーソングライター、トロイ・シヴァンの約5年ぶり通算3作目のアルバムで、オーストラリアで1位、全英アルバムチャートでも最高4位のヒットを記録した。

享楽的なダンスポップやミッドテンポのラヴソングなど、ポップソングとしてクオリティーの高い楽曲が数多く収録され、アルバムとしてのトータリティーも感じられる。

クィア的なロマンスや性愛を肯定することそのものがメッセージにもなっていて、アルバムジャケットワークもそれを反映して最高なのだが、了見がせまい一部の国では差し替えられている。

7. The Land Is Inhospitable and So Are We/Mitski

ニューヨークを拠点とする日系アメリカ人シンガーソングライター、ミツキの7作目のアルバムで、全米アルバムチャートで最高12位、全英アルバムチャートで最高4位を記録した。

カントリーやフォークからの影響が感じられるアメリカーナ的な音楽性が特徴で、シンセポップ的でもあった前作からはかなりの変化が見られるのだが、それによってミツキのシンガーソングライターとしての魅力がよりダイレクトに伝わる作品にもなっているような気がする。

まったくの余談だが、ミツキの本名もLE SSERAFIMのサクラと同じミヤワキ姓である。

6. Fountain Baby/Amaarae

ガーナ系アメリカ人シンガーソングライター、アマレイの2作目のアルバムである。

アフロポップ的ではあるがそれだけにとどまらず、日本からCrystal Kayがゲスト参加している「Wasted Eyes」ではアイヌの伝統歌を引用していたり、「Sex, Violence, Suicide」では急にパンクロック的だったり、バラエティーにとんでいるでは済まされない驚異的な情報量だということができる。

にもかかわらず、アマレイの絶妙にキューティーでもあるボーカルがアルバムにトータリティーをもたらしているようでもあり、取っ散らかったような印象は受けない。様々なリズムの楽曲が収録されていてひじょうに楽しく、刺激と聴きごたえとが良い感じで両立したアルバムだということができる。

5. Did You Know That There’s a Tunnel Under Ocean Blvd/Lana Del Rey

ラナ・デル・レイの9作目のアルバムで、全米アルバムチャートで最高3位、全英アルバムチャートでは1位を記録した。「第66回グラミー賞」にもアルバム・オブ・ジ・イヤーをはじめ、収録曲を含めいくつかの部門でノミネートされている。

2019年のアルバム「Norman Fucking Rockwell」で1つの境地に達したようにも思える、ノスタルジックなムードが漂うシンガーソングライターアルバムであり、安定のクオリティーというか進化や深化も見られるところが本当にすごく、間違いなく21世紀を代表するアーティストの1人として後世に語り継がれるのだろうな、という認識を確かなものとする。

ジャケットアートワークの感じからしてすでにコンテンポラリーな最先端を狙うつもりはさらさらなく、オーセンティックな架空の懐かしさのようなものをただただ純化しつつもクオリティーを高めていっているような印象を受ける。そして、これがコンテンポラリーなポップミュージックとしてしっかりと支持されているところがやはりすごく、それはリスナーの潜在的な欲求に高いレベルで応えているということでもあるのだろう。

4. the record/boygenius

ソロアーティストとして活動している3人のシンガーソングライター、ジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・ダカスによって結成されたスーパープロジェクト的なユニット、ボーイジーニアスのデビューアルバムで、全米アルバムチャートで最高4位、全英アルバムチャートでは1位に輝いた。「第66回グラミー賞」では主要部門のアルバム・オブ・ジ・イヤー、レコード・オブ・ジ・イヤーをはじめ、いくつかの賞にノミネートされている。

けしてメインストリームに迎合しているわけではないこういったタイプのアルバムが正当に評価され、ヒットしてもいるという現実には大きな希望を感じさせられる。フォークやカントリーなどからも影響を受けたシンガーソングライター作品という感じではあるのだが、そのオーセンティックさ加減と新しさとの加減がとても良い。「NME」では年間ベストアルバムに選ばれている。

3. GUTS/Olivia Rodrigo

オリヴィア・ロドリゴの2作目のアルバムである。デビューアルバムの「SOUR」がシングルカットされた「drivers risence」「good 4 u」と共に高評価と大衆的な支持を得たわけだが、それに次ぐ作品は果たしてどうなのだというプレッシャーは当然あったものと思われる。

それを軽々と跳ね返すレベルの素晴らしいアルバムである。ドラマティックなバラードのようでいて、男性優位社会に対してのプロテストとしても成立している先行シングルにして全米No.1ヒット「vampire」をはじめ、とても良い曲がたくさん収録されていて、オリヴィア・ロドリゴはポップセンセーションから時代を代表する優れたシンガーソングライターとしての存在感を確固たるものにしたといえる。

2. Desire, I Want to Turn Into You/Caroline Polachek

アメリカのシンガーソングライター、キャロライン・ポラチェックのソロアーティストとしては4作目のアルバムで、全英アルバムチャートで最高23位を記録した。

オルタナティブポップと呼ぶに相応しいアルバムであり、ダンスミュージックやエレクトロニック、メインストリームのポップスやヒップホップなど、様々な音楽ジャンルからの影響が取り入れられている。

元々はインディーロックバンド、チェアリフトのメンバーだった人であり、その辺りの感覚もかくし味的にブレンドされているようにも感じられる。特に大ヒットを記録したわけでもないのだが、ポップミュージックのいまどきのトレンド感をヴィヴィッドに反映させながら、普遍的なポップ感覚をも感じさせるとても良いアルバムである。

1. Get Up/NewJeans

韓国のガールズポップグループ、NewJeansの2作目のEPである。6曲入り約12分間の作品であり、通常であればこれをアルバムとして取り扱うべきかと躊躇するレベルでもあるように思える。

しかし、この短さこそが2023年のポップ感覚だともいうことができ、しかもその中にポップミュージックのトレンド感、楽しさや快活さやメランコリーな気分や新しさや懐かしさ、希望や憂慮などがコンパクトに凝縮されているように感じられる。

新しいのに懐かしい、トレンドを強く感じさせるのだがどぎつさはなく、ナチュラルでクリーン、ポップでキャッチーだが時としてメランコリックな、そんな感じがたまらなく良い。だからポップミュージックはやめられない、という気分を強烈に味わわせてくれた素晴らしい作品である。