the 50 best albums of 2023: 50-41
2023年も終わりかけてきたので、毎年やったりやらなかったりしているような気がする年間ベストアルバム的なやつをやっていきたい。対象は2023年にリリースされたアルバムやミニアルバムやEPに限定する。それでは(欽ちゃんのドンと)いってみよう!
50. 沈香学/ずっと真夜中でいいのに。
ずっと真夜中でいいのに。の3作目のフルアルバムである。今回は全曲のアレンジに100回嘔吐がかかわっているなど、サウンド的にはアルバム全体を通して統一感のようなものがうっすらとあり、ネオシティポップ的とでもいえるほどの小洒落感を演出かけてもいるのだが、ACAねのボーカルと歌詞がつくりだす世界観にはデジタルネイティブ的な皮膚感覚も感じられ、きわめてユニークなポップミュージックとして結実しているように感じられる。
49. Memento Mori/Depeche Mode
デペシュ・モードの15作目のアルバムで、全英アルバムチャートで最高2位のヒットを記録した。1980年に結成されたベテランバンドで、このアルバムがリリースされる約1年前にはメンバーのアンドリュー・フレッチャーが亡くなっている。
タイトルの「Memento Mori」はラテン語で「自分がいつか死ぬことを忘れるな」であり、1980年代に一世を風靡して、シンセポップをスタジアムレベルにまで押し上げアメリカでもブレイクした当時の音楽性を保持したまま、健全な成熟をも感じさせるところがとても良い。
48. 大人の涙/マカロニえんぴつ
マカロニえんぴつのメジャーレーベルからのフルアルバムとしては実はまだ2作目のアルバムである。ユニコーン的なイズムを現在に正しく継承するバンドという印象がやはりひじょうに強いわけだが、けしてその個性をより極めていくのみならず、大衆音楽であり続けることへの覚悟やこだわりのようなものが感じられもする。
音楽的にもひじょうにバラエティーにとんでいるのだが、演歌調のデュエットソングにチャレンジした「嵐の番い鳥においては笹塚の洋食店、ロビンにもアウトロの語りで言及しているところが特にとても良い。
47. Scarlet/Doja Cat
Doja Catの4作目のアルバムで、全米アルバムチャートで最高4位を記録した。前作までのポップ路線から一転し、よりR&B/ヒップホップ的な音楽性を追求しているのが特徴である。ディオンヌ・ワーウィック「ウォーク・オン・バイ」をサンプリングした先行シングル「Paint the Town Red」はアメリカやイギリスなどのシングルチャートで1位に輝いた。
46. Pink Friday 2/Nicki Minaj
Nick Minajの5作目のアルバムで、2010年リリースのデビューアルバム「Pink Friday」の続編的な位置づけの作品である。約5年ぶりのアルバムとなり、延期を繰り返した後に誕生日である12月8日にリリースされた。
先行シングルの「Super Freaky Girl」は女性ラッパーとしては1998年のローリン・ヒル「Doo Wop (That Thing)」以来25年ぶりとなる全米シングルチャート初登場1位を記録した。MCハマーの1990年のヒット曲「U Can’t Touch This」でもお馴染み、リック・ジェームス「Super Freak」をサンプリングしている。
アルバムはLil Wayne、Drake、Lil Uzi Vert、50 Centをはじめゲストも多数参加した、聴きごたえのあるものになっている。
45. 今の二人をお互いが見てる/aiko
aikoのデビュー25周年を記念する通算15作目のオリジナルアルバムで、オリコン週間シングルランキングで1位に輝いた。
ヒットシングル「食べた愛」「ねがう夜」「果てしない二人」や19歳の頃に作曲した「夏恋のライフ」などを収録している。作品のほとんどが実体験をベースにしているというaikoだけあって、今回も恋愛にまつわる悲喜こもごもがリアルに描写された名曲の連続である。
44. 哀愁演劇/indigo la End
indigo la Endの8作目のアルバムで、バイラルヒットにもなった名曲「名前は片想い」をはじめ、どこか切なさが漂いがちなラブソングをいくつも収録している。とはいえ、「芝居」「愉楽」のようなより内省的な楽曲もあってバラエティにとんでいる。
トータル的にポップソングとしてより強度が増したというか、分かりやすくなっているのだが奥深さや変態性のようなものは保持されているというとても良い状態である。
43. My Back Was a Bridge for You to Cross/Anohni and the Johnsons
Anohni and the Johnsonsの改名前のAntony and the Johnsons時代から数えて、通算5作目のアルバムである。ジャケットにLGBTQ関連の活動家、マーシャ・P・ジョンソンの写真が使われているように、ソウルミュージックからの影響が感じられるオーガニックでアコースティックな音楽性ながら、強く激しいメッセージ性を持ったプロテスト的なアルバムである。
Antony改めAnohniのボーカルはより成熟し、説得力を増しているように感じられる。静かだが熱く問題を提起する、音楽的に優れている上に現在の社会において存在意義が高い作品だということができる。
42. e o/cero
ceroが約5年ぶりにリリースした、通算5作目のオリジナルアルバムである。ポップミュージックのフォーマットからより自由で、ややアブストラクトにも感じられる音楽性なのだが、それゆえに未来のポップミュージックに対してのヒントを膨大に秘めているようにも感じられたりもする。
というと、かなり実験的な作品なのではないかというような印象も受けかねないとは思えるのだが、確かにそのような側面も無きにしもあらずとはいえ、それでも根本的にはポップに開いていることが感じられるという点でも、きわめてユニークで聴きごたえのある音楽だということができる。
41. Mid Air/Romy
the xxのRomy Madley CroftがRomy名義でリリースしたソロデビューアルバムである。自身がかつて芸クラブで感じることができた肯定感のようなものを、個人的なフィルターを通して再現したようなタイプの作品であり、その切実さがコンテンポラリーなポップ感覚と幸福に接続されているかのようなリアリティーを感じることができるような気がする。
言うまでもなくポップミュージックとは純粋に音楽であるのみならず、その時点や未来における社会的な存在意義においても価値を増すわけであり、そういった意味も含めてとても素晴らしいインディーダンスポップアルバムだといえるのではないだろうか。