the 50 best songs of 2023: 10-1

10. TATTOO/Official髭男dism

Official髭男dismがテレビドラマ「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」の主題歌としてリリースした楽曲で、Billboard JAPAN Hot 100で最高6位を記録した。

2023年のOfficial髭男dismといえばやはりテレビドラマ「silent」の主題歌である「Subtitle」がBillboard JAPAN Hot 100で年間2位、Apple Musicで日本の年間1位と最もヒットしたわけだが、リリースが2022年10月12日のため、ここではなんとなく対象外になっている。

それはそうとして、「Untitle」「TATTOO」、さらにはテレビアニメ「SPYxFAMILY」オープニングテーマの「ミックスナッツ」が同時にチャートの上位に入っていた期間も結構あったような気がする。

「TATTOO」は王道J-POP的な親しみさや聴きやすさがありながら、ソウルミュージックやAORなどからの影響も感じさせ、音楽的な満足度もひじょうにう高いといういつもながらの素晴らしさでとても良いのだが、それでいてさらに歌詞が現在の世の中を生きる人々の心に共感を呼びながら刺さったりもして、この絶大な人気にも納得というものである。

「愛 ジョーク それとたまにキツめのネガティブ」とか本当に上手いな、と感心させられずにはいられない。かさぶた剥がし的というのだろうか、やや恥ずかしいぐらいの他者との絆というのか魂のやり取りのようなものをポジティブに描写しているところに深く感じ入る。

とても丁寧な言葉選びでそれほど行き過ぎてはいないのだが、かなり深くて大切なことを歌っているように思える。それでいて、「大丈夫」と「ハイボール」で韻を踏んでしまうような身も蓋も無さもバランス的に丁度良い。

「きっとありふれてないくらいが大切なんじゃない? なんてさ 本気で思っちゃう心の恥ずかしさが僕らだけにあるTATTOO」という歌詞あたりが簡潔に要約しているような気もするのだが、細部にまでわたってとにかくすべてがとても良い。

9. 美しい鰭/スピッツ

スピッツの実に通算46枚目のシングルでアニメーション映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影」主題歌、Billboard JAPAN Hot 100で最高2位のヒットを記録した。

それだけではなく、ストリーミングチャートで一時期、わりとずっと上位にランクインしていたのだ。アニメのタイアップが大きく影響したであろうことは間違いがないのだが、それにしてもこのクラスのベテランバンドの楽曲がいまどきの旬のアーティストたちのそれらと混じって聴かれ続け、しかもそれほど違和感もなかったというのはある意味において快挙だったのではないかと思わなくもない。

それで、個人的な現実的にもたまたま知り合った「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」などに毎年行っていがちな音楽好きの20代女性がいま最もハマっているアーティストととしてスピッツを挙げていたことにも驚かされた。それだけ現役感があるということなのだが、その歌詞に「びっくらこいた展開」なるフレーズが入っているところもとても良い。

アニメタイアップだからといって特に音楽性をそれに寄せて極度に変えているというわけでもなくて、スピッツの持ち味はそのままに、2023年の大衆ポップソングとしてしっかり成立させてしまったところが素晴らしく、やはりすさまじいバンドだということを改めて実感させられたのであった。

8. 名前は片想い/indigo la End

indigo la Endの配信限定シングルで、アルバム「哀愁演劇」にも収録された。2022年11月に開催された日本武道館公演で初披露され、2023年1月25日に配信リリースされた。

明るくてポップな楽曲として受け取られたのだが、歌詞の内容はとても切なく、メロディーもかなりユニークで変態的ではあるのだが、力技でキャッチーに仕上げているところがとにかくすごい。

「曖昧な関係の名前は片想い」「正しさの矛 たまに痛いよ」「飛んでった理性を取り戻したいのに 身体はやけに正直」などポップでありながら深いところまで刺さりまくる歌詞も天才的である。

7. ファジーネーブル/Conton Candy

3人組ガールズバンド、Conton Candyが4月ぐらいに配信リリースしたシングルで、TikTokでよく使われたことなどによって若者たちの間で支持され続け、遂には「ミュージックステーション」にまで出演してしまったという2023年のシンデレラストーリー的な楽曲でもある。

音楽的にはインディーロックであり、それほど目新しくはないかもしれないのだが、報われる可能性がきわめて低いのだが止めることのできない片想いをヴィヴィッドに描写した歌詞と「ファジーネーブル」というオレンジ色のカクテルを取り上げたポップ感覚がなんとも新しい。

切ない楽曲ではあるのだがミュージックビデオを見ると特に間奏のあたりとても楽しそうに演奏しているところもとても良いし、ユニークなボーカルも魅力的である。

6. Magic/Mrs. GREEN APPLE

Mrs. GREEN APPLEが3人編成になってから最初のアルバム「ANTENNA」の先行シングル扱いで、コカコーラ関連のタイアップも付いていたと思う。Billboard JAPAN Hot 100では最高3位を記録した。

ケルト音楽的な要素を導入しているところに新しさを感じつつ、コンテンポラリーなJ-POPソングとしての強度はかなりのもので、「Hey! 白昼夢スターライト」の盛り上がりというかポップ感覚がすさまじく、大森元貴のファルセット気味とそうではないところのボーカリストの魅力もかなりのレベルで生かされている。

個人的には7月あたりの大宮駅西口近辺の記憶と密接に関連しているのだが、それを抜きにしても「いいよ もっともっと良いように」的な自己肯定感にも溢れたサマーアンセムである。

5. 唄/Ado

Adoが2023年9月6日にリリースした配信限定シングルで、Billboard HOT 100やオリコン週間シングルランキングなどで1位に輝いた。

ポップソングとして完全に新しく、最新型を更新していると断言するにやぶさかではなく、唯一無比のオリジナリティーであるパワフルなボーカルをさらに進化させながら、音楽的には世界的トレンドであるジャージークラブ的な要素も取り入れているという情報量も強度も最高潮の楽曲である。

年によってはダントツで年間ぶっちぎりの第1位だったとしてもまったく疑問が湧かないレベルのクオリティーを備えた楽曲ではあるのだが、これを5位にせざるを得ないところに2023年のポップソングの充実ぶりを再認識させられる。

4. Eve, Psyche & The Bluebeard’s wife/LE SSERAFIM

韓国のポップグループ、LE SSERAFIM(ル・セラフィム)のデビューアルバム「UNFORGIVEN」収録曲である。

元HKT48の宮脇咲良を含め、日本人メンバー2人が在籍していることでも知られる。楽曲やパフォーマンスがとにかくとてもカッコいいのだが、そこから少し興味を持って調べはじめると、メンバー同士の関係性やそれぞれのキャラクターなどにも良さを感じはじめ、後は沼にはまるのみである。

セルフエンパワメントやフェミニズムといった、世界標準的にとての重要なテーマをコンセプトとしていることは、この楽曲においても顕著である。

3. Super Shy/NewJeans

韓国のポップグループ、NewJeansの2nd EP「Get Up」から先行リリースされた楽曲である。

2022年末にリリースされた「Ditto」のクオリティーがひじょうに高く、デビューからそれほど経っていないにもかかわらず、これこそがNewJeansの真骨頂なのではないかと感じさせもしたのだが、初夏に発表されたこの新曲はよりライトでキャッチーなところが特徴であった。

それが夏の気分にマッチしていたし、グループとしてび新機軸をも感じさせてくれた。UKガラージなどを参照しているところがあるのと、ボーカルにもナチュラルさが感じられるところからも、それまでのK-POPグループとは少し異なった印象を感じさせられた。

それにしても、これこそが2023年夏の時点における最も旬なポップスという感覚を、東京にいても感じることができたし、多くの人たちがそれを共有していたようにも思える。

好きな人がいるのに性格がシャイすぎて思いを伝えることができない、というような内容が歌われているところもかなり良い。

2. ETA/NewJeans

NewJeansの2nd EP「Get Up」を代表する楽曲といえば「Super Shy」という世論が海外の音楽メディアなどによって何とななく確立されそうな気配が感じられる昨今ではあるのだが、ポップソングとしてより骨太感があり、歌詞の内容や音楽性もより大人になっているように思える「ETA」の方が個人的には好き、という意見も認められてしかるべきである。というか、ここがズバリそれなわけだけれども。

ジャージークラブ的なホーンのフレーズが反復されがちなサウンドとメロウなメロディーににのせて、不誠実なボーイフレンドのことなどについて歌われているのだが、タイトルの「ETA」は「Estimated Time of Ariival」の略で「到着予定時間」とでもいうような意味である。

iPhone 14 ProのCMソングに使われていたところなどもとても良かった。これこそが2023年夏における最高のポップサウンドだったということもでき、今度どう展開していくのかも実に楽しみである。

1. アイドル/YOASOBI

YOASOBIがテレビアニメ「【推しの子】」のオープニングテーマ曲としてリリースされ、Billboard JAPAN Hot 100で歴代最長の21週連続1位、年間チャートでも1位に輝くなど、とにかく大ヒットして聴かれまくった楽曲である。

ポップでキャッチーでありながら情報量が驚異的であり、ポップソングの最新型をアップデートしたような楽曲だということができる。

テレビアニメの内容に合わせてアイドルをテーマにしているわけだが、音楽的にもアイドルポップスの様式美的なものを取り入れていたり、ラップ的なパートもあったり、ボーカルスタイルが変幻自在だったり、聴いていても楽しいし踊れて盛り上がれるところもとても良い。