The 25 essential BTS songs, Part.1
BTSは韓国の7人組アイドルグループで、世界で最も人気のある音楽アーティストの1つであるということはわりとよく知られているように思えるのだが、その要因となっているのは楽曲がリスナーの日常に深いレベルで寄り添うような優れた内容を持ちながらポップミュージックとしてひじょうにクオリティが高いということに加え、メンバーやグループそのものが作品やパフォーマンス、メディアでの発言などを通して、弱さや痛みを理解しながらもポジティブなメッセージを発しているという事実に他ならない。これが韓国やアジアという枠を越え世界中に広がり、ARMYと呼ばれる強固なファンダムを実現している。それは分断や不安や恐怖が蔓延る時代において、必然的に必要とされたものかもしれない。
2010年に韓国で結成された防弾少年団のメンバー達は当初、ヒップホップグループのメンバー候補として集められていたのだが、そのうちアイドルグループでいくということになった。グループ名は若者たちに向けられる社会的偏見や抑圧などを弾にたとえ、それらを防ぐ少年団というような意味であり、ローマ字表記だとBangtan Sonyeondanとなることから略してBTS、ファン達の間ではバンタンと呼ばれがちである。
今回はBTSの数ある楽曲の中からこれは特に重要なのではないかと思われる25曲を厳選した上で、それらをほぼリリース順に並べ、簡単な説明を加えていくことによって、その足跡をコンパクトになんとなく追っていけるようなものにもしていってみたい。
‘No More Dream’ (2013)
BTSの記念すべきデビューシングルで、この曲を収録したミニアルバム「2 Cool 4 Skool」は韓国のアルバムチャートで最高5位を記録した。
アイドルグループとはいえヒップホップ色はひじょうに濃く、反逆的なイメージも強い。楽曲の内容は親や教師に決められた未来を目指してそれが本当にやりたいことなのか、というようなメッセージ性の強いものになっている。
ヒップホップアイドルグループとでもいうような、わりと特異な存在であったことから、いろいろ誤解や偏見にさらされ、心を痛めたことも少なくはなかったようだが、それゆえに応援してくれるファンとの絆は深まり、感謝の想いも強まったように思える。
‘We are bulletproof Pt.2’ (2013)
最初のミニアルバム「2 Cool 4 Skool」からシングルカットされた楽曲で、タイトルを「オレたちは防弾」とでも訳すことができるグループにとってのマニフェスト的な内容になっている。
当時、それほど広くはない家で共同生活を送り、売れるかどうかもまだよく分からない状況で、長時間にわたる過酷なレッスンを繰り返し、いざデビューしてみると思い描いていたのとは少し違っていて、そのコンセプトやスタイルから心ない言葉を浴びせられがちでもあった。
不安や怒りの感情が強いメッセージとなってあらわれ、この頃ならではの勢いや強度が感じられもする。そして、それらはすでに届くべき人たちには確実に届いていたのかもしれない。
‘BOY IN LUV’ (2014)
BTSの3作目のミニアルバム「Skool Luv Affair」からの先行シングルである。最初のミニアルバム「2 Kool 4 Skool」と同様に学園生活をテーマにしてはいるのだが、この楽曲では恋愛にフォーカスを当てている。
ミュージックビデオもそれに合わせて学園生活をイメージした微笑ましくも熱いものになっていて、デビュー当時と比べるとイメージがややソフトになっていることがよく分かる。特に当時はRAP MONSTERというアーティスト名であったRMの見た目の変化が目立っているように思える。
音楽的にはヒップホップにコンテンポラリーなR&Bやハードロック的なテイストをも組み合わせたものとなっている。
‘I NEED U’ (2015)
BTSのミニアルバム「2 Kool 4 Skool」「Skool Luv Affair」と最初のフルアルバム「DARK & WILD」は学校三部作と呼ばれ、これらに続いたのが青春三部作とも呼ばれる「花様年華」シリーズである。英語でのタイトルは「The Most Beautiful Moment in Life」で、人生で最も美しい時間ともされがちな青春時代をテーマにしている。
その第1弾ミニアルバムからの先行シングルとして発表されたのが「I NEED U」で、BTSにとって初の大衆的な大ヒット曲となった。失恋の痛みややるせなさをテーマにしたバラードであり、もう取り戻すことはかなわない恋だと分かってはいるのだが、どうしても必要としてしまうというどうしようもない感情が温かみのあるシンセポップ的なサウンドにのせて、美しくエモーショナルに歌われていた名曲である。
BTSのキャリアにおいても、若者たちの代弁者的な立ち位置から大衆的な人気ポップグループへと変化していく上で、ターニングポイントともなったとても重要な楽曲だといえる。
‘DOPE’ (2015)
「花様年華」シリーズの最初のミニアルバムからシングルカットされた楽曲である。まずは「DOPE」というタイトルからしてとてもカッコいいのだが、曲そのものもそれにじゅうぶんすぎるほど見合っていて、特にフリーキーなサックスのフレーズがとても印象的である。
ミュージックビデオではメンバーの素晴らしいダンスパフォーマンスと共に、学校を卒業した後の社会人としての姿をイメージしていると思われる様々な職業のコスプレも楽しめてとても良い。
クールなアイドルグループとしての本領を発揮しているのみならず、人生を自分らしくより良く生きようというポジティブなメッセージを伝えてもいる。
‘RUN’ (2015)
「花様年華」シリーズ2作目のミニアルバムからの先行シングルとして発表された楽曲である。とてもキャッチーでアップテンポなのだが、どことなく悲しみをまとってもいて、それが美しさになっているようなところもある。
絶望的な片想いであり、どうにもならないことは分かりきっているのだが、どうしてもそこから離れることができない、というようなことについて歌われているのだが、それは夢や目標といったものの比喩としても聴くことができる。青春の激しさとその裏側にある脆弱さというのか、そういったものをヴィヴィッドに表現した素晴らしいポップソングである。
メンバーが街をとにかく走りまくるミュージックビデオもとても良い。
‘Butterfly’ (2015)
「花様年華 Pt.2」のミニアルバムに収録された楽曲で、シングルカットはされていないのだが人気はひじょうに高く、名曲の1つとして評価されがちである。
タイトルの「Butterfly」はもちろん昆虫の蝶であり、見ている分には美しいのだが触れようとすると飛んでいってしまったり、触れたとすると羽根の鱗粉が取れてしまい、濡れると飛べなくなってしまうかもしれない。
そのように美しくも脆くはかない存在であり、それを人生の素晴らしい瞬間やかけがえのない人にたとえている。とにかくメロディーがとても良く、ボーカルやコーラスもうっとりするほどなのだが、それと同時に切なさも感じさせる。
‘Silver Spoon’ (2015)
「花様年華 Pt.2」に収録された楽曲で、経済的格差や不平等に対しての異議申し立てを含んだメッセージソングである。そもそもBTSはデビュー当時から当時の韓国のポップミュージック界ではそれほど取り扱われていなかった社会問題について言及していたことで注目されたりはしていたのだが、メインストリームど真ん中のアイドルグループがこういった内容の楽曲をやっていて、しかも支持されているというのはやはりとてもすごいことであり、本来は健全なのではないかというような気もする。
それで、タイトルの「Silver Spoon」だが、英語ではそれをくわえて生まれてくるという表現が生まれつき裕福という意味であり、たとえばザ・フー「恋のピンチヒッター」で俺はプラスチックのスプーンをくわえて生まれてきた、と歌っているのは労働者階級のプライドとでもいうようなものを表現しているように思える。
それはそうとして、この曲の別のタイトルは「Baepse」であり、それはダルマエナガという鳥のことなのだが、韓国には「ダルマエナガがコウノトリについていこうとすると脚が裂けてしまう」というようなことわざがあり、要は身の丈に合わないことはしない方が良いというような意味である。この曲の歌詞では自分たちを含めた若者世代を「Baepse」にたとえ、しかしその状況に対してはブチ切れていて、変えていく必要があると歌っている。
‘Burning Up (FIRE) ’ (2016)
「花様年華」シリーズの集大成とでもいうべきリパッケージアルバム「花様年華 Young Forever」に収録された楽曲である。
自由で自分らしく、たとえ負けたとしてもかまわないので、自分自身の内なる炎を燃やして、人生をフルに生きようというようなことを歌った、力強いメッセージソングである。
どこかとライバルにも感じられるリズムやアップリフティングなサウンド、「Fire」「ha-ha-harder」などと聴く者の魂を鼓舞しがちなコーラスなどもとても良い。
‘Save ME’ (2016)
「花様年華 Young Forever」のアルバムに収録された楽曲である。青春時代が人生で最も美しい時間かもしれないということは、このシリーズのタイトルにもあらわされているのだが、それはけして明るくて楽しいことばかりだからというわけではなく、むしろつらくて苦しいことの連続かもしれない。
そして、「Young Forever」というアルバムタイトルには、それが大人になってからも続くかもしれないというような意味合いも含まれているような気もする。それで、この「Save ME」という楽曲ではタイトルがあらわしているように、いろいろな事情で精神的に病んでいる状況にあり、そこから救いだしてくれというようなことが歌われている。
しかも、それがトロピカルハウス的ともいえるわりとアップリフティングなサウンドにのせて歌われているところが特徴であり、その弱さというのも生きていく上では当たり前のことであり、けして自分ひとりで抱え込むのではなく、分かち合っていくべきではないか、というようなメッセージが込められているように思える。
ここがBTSの現在的である理由の1つでもあり、やはり時代が必然的に求めたからこそのこの大人気なのではないか、と考えたりもするのである。
‘Blood Sweat & Tears’ (2016)
アルバム「WINGS」からの先行シングルであり、アルバムを直訳すると「血、汗、涙」という感じではあるのだが、実際に日本ではこのタイトルでリリースされていて、日本語バージョンがオリコン週間シングルランキングで1位に輝いている。
自分自身のネガティブな面をも含め、すべてを捧げ尽くしてしまいかねないほどに耽溺的な愛というのは我を忘れさせているかもしれないのだが、人生においてそれほどの幸福もないのではないかともいえる。
「花様年華」シリーズという青春時代を経て、いよいよ大人のアイドルグループとして成長したBTSがその矢先にリリースしたのがこの楽曲であり、音楽的にもヒップホップやレゲトンなどの要素もミックスしたひじょうにユニークなものではあるのだが、それを通して人が生きる道として目指すべき境地をも指し示しているのではないかとも思わせるところがやはりすごすぎるのだろう。
‘Spring Day’ (2017)
アルバム「WINGS」のリパッケージ版である「YOU NEVER WALK ALONE」に収録された楽曲であり、BTSの音楽グループとしての魅力が凝縮された名曲としての人気と評価がひじょうに高い。
いまここにいて欲しい人がいないことについての悲しみや切なさというのは多くの人々が経験しているがゆえに共感しやすいテーマだとは思うのだが、それがポップソングというフォーマットにおいて最もヴィヴィッドに表現された例の1つなのではないかというような気がする。
それを冬の季節にたとえているのだが、それでもずっと終わらない季節はないので、やがて春の日が訪れるだろうという希望的な見解をも盛り込んでいる点が、実際にはどうであれ少なくとも束の間のファンタジーとしては限りなく正しい。