The 25 essential BTS songs, Part.2

‘DNA’ (2017)

この頃には人気がすでに国際的なものになっていたBTSが次に取り組んだのは「LOVE YOURSELF」つまり自分自身を愛するというテーマであった。そのシリーズ最初のミニアルバムとなった「LOVE YOURSELF 承 ’Her’」から先行シングルとしてリリースされたのが、この「DNA」であった。

EDMをベースとしたエレクトロニックなサウンドに口笛やアコースティックギターの音色を効果的にミックスさせたこの楽曲は、グループにとって新たなチャプターのはじまりを予感させもするカラフルなポップソングであった。

初めて会った瞬間からそれが運命であったと信じて疑わないタイプの恋におちる、いわゆる王道パターンのようでもあるのだが、果たしてそれが現実にはどの程度に起こりうるのか。そして、それが永遠に続く確率というのはそれほど高くはないように思えるのだが、その時点ではそれを確信しかしていない、というような感じをポップソングというフォーマットで余すことなく表現した素晴らしい楽曲である。

‘Pied Piper’ (2017)

「LOVE YOURSELF 承 ’Her’」のミニアルバムに収録された楽曲で、シングル曲ではないがとても人気がある。タイトルは「ハーメルンの笛吹き男」の伝承に由来している。まだら色の服を着た男が笛を吹くと、子供たちがそれにつられて集まってくるというような内容である。

この曲ではそれをBTSとファンとの関係性にあてはめているという解釈が一般的である。たとえば親や教師などからそんなものにばかりうつつを抜かしていないで、もっとやすべきことがあるのではないか、というようなことを言われたとしても、それが最も大切で好きなものなのだから仕方がない。

それを「こっちに来て 僕は君のパラダイス 目を逸らせないでしょ」などと甘いメロディーと温かいシンセサウンドにのせて歌っているところがファンにしてはたまらなく、好きなものにハマりまくるということが自分自身を癒し救うことにもつながるのだから、それはまったく非難されるようなことではない、というようなメッセージが込められているようでもある。

‘MIC Drop (Steve Aoki Remix) ’ (2017)

「LOVE YOURSELF 承 ’Her’」に収録された楽曲をアメリカのDJであるSteve Aokiがリミックスしたバージョンで、ラッパーのDisiignerをフィーチャーしている。

BTSはこの前年にアメリカのラスベガスで開催された「ビルボード・ミュージック・アワード」においてトップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞するのだが、それまで6年連続で受賞していたジャスティン・ビーバーを破ったということも含め、大いに話題になったのだった。

この時点では韓国ではかなり人気があるグループということはなんとなく知られていたとは思うのだが、SNSの普及という要因もありそのファンダムがここまで国際的に広がっているのだということは、当のファン以外にはまだそれほど知れ渡ってはいなかったような気がする。

そして、アルバムも全米アルバムチャートのトップ10以内に入るぐらいにはすでになっていたのだが、この楽曲では中毒性の高いヒップホップ的なトラックにのせて、そのような状況を高らかに祝福していて(「ごめんねビルボード、ごめんね世界、息子が人気でごめんね母さん」「俺のカバンを見た? トロフィーでいっぱい どんな気がする? アンチたちは冷や汗」)、全米シングルチャートでもついに初のトップ40入りを果たした。

‘Euphoria’ (2018)

BTSのメンバーであるJungkookのソロ楽曲なのだが、「LOVE YOURSELF 起 “Wonder”」のテーマとしてミュージックビデオが公開され、後にアルバム「LOVE YOURSELF 結 “Answer”」の1曲目に収録された。

起承転結でいうとつまりこれが「LOVE YOURSELF」シリーズのはじまりになるのだが、ビデオが発表されたのは「LOVE YOURSELF 承 ’Her’」よりも後である。そして、ミュージックビデオではBTSのメンバーたちが各々にキャラクターを演じていて、それらは他の楽曲のミュージックビデオともつながっている。

「EUPHORIA」とうタイトルはいわば幸福感というような意味であり、「君と一緒なら僕はユートピアにいる気分さ」「僕の手を取って 君は僕の幸福感の理由」などと歌われるこの楽曲は、その夢見心地なシンセサウンドをも含め、ただただ幸せの絶頂にいるような心地を表現したものだと解釈することができるのだが、これを「LOVE YOURSELF」シリーズのはじまりで、さらには「花様年華」シリーズとの橋渡し的な楽曲でもあるのではないかと考えると、さらに深みが増してくるというものである。

‘FAKE LOVE’ (2018)

「LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’」からの先行シングルとしてリリースされ、トップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞した「ビルボード・ミュージック・アワード」ではステージパフォーマンスも世界初披露された。ミニアルバムは全米アルバムチャートで初の1位に輝いている。

恋のときめきに心を奪われ、すべてを捧げようとさえ思っていたのだが、やがてうまくいかなくなって、それが偽りだったことに気がつくというとても悲しい内容になっている。つまり、「DNA」で表現されていた運命の恋とストーリーとしてつながっているのだ。

そして、この恋が偽りであった原因というのは自分自身が完璧に見せようと無理をしていたことなのだと理解し、自分自身を愛することこそが大切なのだという「LOVE YOURSELF」シリーズ全体のコンセプトに行き着く。

‘IDOL’ (2018)

「LOVE YOURSELF」シリーズの完結編となるリパッケージアルバム「LOVE YOURSELF 結 “Answer”」の先行シングルとしてリリースされた楽曲である。アルバムは全米アルバムチャートで2作連続となる1位、シングルはNicki Minajをフィーチャーしたバージョンがリリースされ、全米シングルチャートで最高11位を記録している。

アーティストと呼ぼうがアイドルと呼ぼうが気にはしないし、それが自慢でそこに皮肉などは一切ないというようなことが歌われている。そして、「You can’t stop me lovin’ myself(お前は俺が自分自身を愛するのを止めることができない」というフレーズは完結した「LOVE YOURSELF」にも通じるものである。

歌詞にはジョン・ウー監督の映画「フェイス/オフ」や日本の子供たちのヒーローであるアンパンマンなども登場する(BTSにはこのアンパンマンをタイトルにした楽曲もある)。そして、なんといってもEDMをベースとしながらもアフリカ音楽のリズムや韓国の楽器なども取り入れたサウンドがポップでキャッチーではもちろんあるのだが、それに加えて実験的なところもあってとても良い。

‘Boy With Luv (feat. Halsey) ’ (2019)

ユング心理学にインスパイアされたというミニアルバム「MAP OF THE SOUL:PERSONA」から先行シングルとしてリリースされた楽曲で、アメリカの人気アーティストであるホールジーをフィーチャーしている。

「Oh my my my oh my my my」というフレーズが特にとてもキャッチーで印象的なディスコポップで、恋と幸せというシンプルなテーマについて歌われている。初期にリリースした「BOY IN LUV」とパラレルになってもいる。

ミニアルバムは全米アルバムチャートで1位に輝き、1年以内に3作のアルバムを1位にしたのはビートルズ以来という大記録でもあった。この曲も全米シングルチャートで最高8位と「FAKE LOVE」に続き2曲目のトップ10入りを果たしている。

‘Black Swan’ (2020)

BTSの4作目のフルアルバム「MAP OF THE SOUL:7」に先がけて、最初にリリースされたシングルである。当時のBTSのシングルとしてはヒットの規模だけで見るとそれほど目立ってはいないのだが、楽曲そのものの人気と評価はひじょうに高い名曲である。

トラップ的なドラムビートと陰鬱なギターが印象的なサウンドにのせて歌われているのは、音楽に対しての情熱を失いかけていることへの不安や恐怖である。よってなかなか暗めの曲ではあるのだが、それだけに心に響いてくることがある。

学校や青春やアイドルであることなど、デビュー以来常にその時点におけるリアルを切実に音楽として表現してきたBTSがたどり着いた新たな境地ということができ、多くの人々の共感を呼ぶテーマでもある。

‘ON’ (2020)

アルバム「MAP OF THE SOUL:7」からの先行シングルとしてリリースされた。サウンドもミュージックビデオもスケールがひじょうに大きく、メジャーな感じがして最高なのだが、実際にこの後にワールドツアーも予定されていて、一気に勝負をかけていくつもりだったようなのだが、新型コロナウィルスの蔓延によって中止となった。

全米シングルチャートでは最高4位と過去最高の順位を記録した。大人気グループとなり世界中を飛び回っている現状と未来に対しての意気込みのようなものが力強く歌われているのだが、「Bring the pain」「自らの足で入ってきた美しい監獄」というようなフレーズが特に印象的である。

‘Dynamite’ (2020)

BTSが新型コロナウィルス禍でつらい思いをしている人々にポジティブなエネルギーを届けたいという意思でリリースしたシングルで、初の全編英語詞による楽曲でもあった。

往年のディスコクラシックスを現代流にアップデートしたかのような、世代を問わず誰もがノリやすい楽曲とミュージックビデオでのポップでクリーンなイメージが大いに受けて、全米シングルチャートで韓国のアーティストとしては史上初となる1位に輝いたのみならず、世界中で大ヒットを記録した。

グループの圧倒的な人気を支えていたのはARMYと呼ばれる熱心なファンたちがメインではあったのだが、この曲の大ヒットによってたとえば日本においても一般大衆にまでその実体が可視化されたようなところもある。しかし、21世紀における最重要アーティストの1組であるこのグループの魅力はより奥深いものであり、遅ればせながら知りはじめたとしても人生がより豊かになる可能性はひじょうに高い。

‘Dis-ease’ (2020)

BTSは「Dynamite」に続いて「Life Goes On」でも全米シングルチャートで1位を記録するのだが、これらを収録したアルバム「Be」も当然のように全米アルバムチャートで1位に輝く。

そのアルバムに収録された「Dis-ease」はメンバーのJ-HOPEがメインで制作し、RM、SUGA、ジミンもソングライティングにクレジットされている。タイトルはハイフン(-)を無視するならば「病気」を意味する「Disease」、そうしないなら「ease」を「Dis」で否定した「気楽ではない」というような意味になる。

音楽がやりたくてこの世界に入ったので、成功はもちろんうれしいことなのだが、いつだって職業病的により良いものをつくろうとする思いから逃れることができず、それがおそらく不健康だということも分かっている、というような内容である。しかもそれがともすればシティポップ的ともとらえられかねないようなサウンドにのせて歌われているところが実に味わい深く、特に代表曲というわけでもないとは思うのだが、こういうところが本当に好きだと強く実感させられるのである。

‘Butter’ (2021)

BTSが「Dynamite」に続いてリリースした全編英語詞のシングルで、またしても全米シングルチャートで1位に輝いた。こういうタイプのシングルをまたリリースする予定はそもそもなかったらしいのだが新型コロナウィルス禍が長引いていたことから、やはりまたサマーアンセム的なポップソングが必要だろうということで出したら大ヒットしたようである。

やはりディスコクラシックスのアップデート版のようなポップでキャッチーな楽曲で、そこに程よくラップも入ってくるという感じでとても良い。この後、「Permission to Dance」、コールドプレイとのコラボレーション曲である「My Universe」も合わせて、BTSが全米シングルチャートで1位を記録した楽曲は通算5曲となる。

‘Yet to Come (The Most Beautiful Moment) ’ (2022)

BTSが2022年にリリースしたアンソロジーアルバム「Proof」に収録された新曲の1つで、先行シングルにも選ばれていた。

メンバーの徴兵という現実もあったり、一旦各メンバーのソロ活動に注力していくということになったりもして、BTSのグループとしての活動は実質的に休止されるのだが、これはけして解散というようなことではなくて、将来的により成長したグループとして活動するためだということになっている。

それで、この楽曲では最高の瞬間はまだ訪れていない、ということが歌われている。各メンバーが発表したソロ作品もヒットを記録しているのだが、いずれまた再集結し、より充実した状態でグループが再始動することを心待ちにしていたい。