邦楽ロック&ポップス名曲1001: 1996, Part.2

チェリー/スピッツ(1996)

スピッツの13作目のシングルでオリコン週間シングルランキングで1位、年間シングルランキングでは4位を記録した。

「『愛してる』の響きだけで 強くなれる気がしたよ」というフレーズがとても印象的なラヴソングにして、春の定番ソングとして知られる。実際には「二度と戻れないくすぐり合って転げた日」というわけで、すでに終わってしまった恋について歌われているわけだが、それでも未来への希望に満ち溢れているところがとても良い。

いろいろなアーティストたちによってカバーされていたり、カラオケでもリリース時にはまだ生まれてさえいなかった世代の人たちをも含め、いまだによく歌われていて、すっかりスタンダード化した名曲である。

LA・LA・LA LOVE SONG/久保田利伸 with ナオミ・キャンベル(1996)

久保田利伸の16作目のシングルでオリコン週間シングルランキングで1位、年間シングルランキングでは3位を記録した。

木村拓哉と山口智子が主演したフジテレビ系の「月9」ドラマ「ロングバケーション」の主題歌に起用され、大ヒットした。

スーパーモデルのナオミ・キャンベルとのデュエットであるかのようなクレジットになっているのが、実際にはナオミ・キャンベルは間奏などでセリフのようなものを囁いているのみである。このコラボレーションは当時、久保田利伸がニューヨークでたまたまナオミ・キャンベルと同じマンションに住んでいて、エレベーター内で出会って意気投合したことがきっかけで実現したという。

90年代後半に日本のポップミュージックはロックやポップスよりもソウルミュージックやR&Bをベースとしたものが主流になっていったようなところがあるのだが、メインストリームでこういったタイプの音楽がポピュラーになっていく上において、80年代後半以降に久保田利伸が果たした役割はあまりにも大きく、そういった意味でも90年代半ばでのこの大ヒットは象徴的だったようにも感じられる。

アジアの純真/PUFFY(1996)

PUFFYのデビューシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高3位を記録した。カラオケチャートでは12週連続1位だったようである。

小室哲哉プロデュース作品がヒットを連発したことによって、プロデューサーの存在というのがクローズアップされがちだった当時、奥田民生がプロデュースする女性デュオとしてデビューしたのがPUFFYであった。

このデビューシングルを作曲・編曲したのは奥田民生で、作詞は井上陽水である。歌詞はほとんどナンセンスというのか、何のことを歌っているのかほとんどよく分からなかったりはするのだが、絶妙なポップでキャッチーさがある。

そして、楽曲には奥田民生のポップミュージックファンとしての造詣が反映していて、PUFFYのカジュアルでゆるめのボーカルパフォーマンスとも相まって、かなり良い感じになっているといえる。

愛の言霊〜Spiritual Message〜/サザンオールスターズ(1996)

サザンオールスターズの37作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで1位、年間シングルランキングでは7位を記録した。

すでに国民的人気バンドとしての地位を揺るぎないものとしていた当時のサザンオールスターズではあったわけだが、この期におよんで過去の栄光の再生産的な活動を繰り広げるのではなく、新しいチャレンジをし続けているところがやはりすごいなと思わされた楽曲である。

なんとなくスピリチャルなムードも感じられるところと、ラップ的なところもある桑田佳祐のボーカル、「ヤーレン ソーラン」「エンヤコーラ!」といった祝祭感覚など、当時における最新型のポップミュージックとして実に聴きごたえがある。

誰より好きなのに/古内東子(1996)

古内東子の7作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高35位を記録した。

YTV・NTV系ドラマ「俺たちに気をつけろ」の主題歌だったようである。「やさしくされると切なくなる  冷たくされると泣きたくなる」という、いわゆる脈なしだと分かり切ってはいるのだが、止められないこの想い的な感情を、ジャパニーズAOR的な良い感じのサウンドにのせて歌っているところがとても良い。

イージュー★ライダー/奥田民生(1996)

奥田民生のソロアーティストとしては6作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高4位を記録した。

タイトルは業界用語で30を意味する「イージュー」と映画「イージー・ライダー」をかけあわせたものであり、発売当時に31歳であった奥田民生の年相応なリアリティーを反映しているように思われる。

適度にリラックスした感じで「僕らは自由を 僕らの青春を」などと歌いあげるのだが、「大げさに言うのならば きっとそういう事なんだろう」というエクスキューズ的な説明が加えられるところに真実味を感じたりもする。

情熱/UA(1996)

UAの4作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高18位を記録した。

音楽をこよなく愛する熱心なファンたちが集うクラブにおいても、たとえばたまたま缶ビールを買うために訪れたコンビニエンスストアやビデオを借りにきたTSUTAYAの店内放送でたまたま聴いただけだった人たちにとっても、新しくてとても良い感じに聴こえた楽曲である。

そして、この後、日本のポップミュージックのメインストリームは次第にソウルミュージックやR&Bなどから影響を受けたタイプのものが主流になっていくのだが、そういった歴史を振り返る上でもエポックメイキング的な楽曲だったように思える。

当時、小泉今日子がラジオ番組で「きっと涙は 音もなく」という歌いだしのところを少し口ずさんだ後でかけていたような記憶もあるのだが、それほど定かではない。

しかし、なんだかこれは邦楽ロック&ポップス史においてわりと重要な楽曲になるのではないか、というような予感は当時住んでいた幡ヶ谷のマンションの一室でしていたのだが、その少し後、泥酔状態で深夜に訪れた下北沢のコンビニエンスストアでたまたま耳にして、とてつもなく良い曲だと感じたその日から1ミリたりとも色褪せず、ずっと大好きなままである。

青いイナズマ/SMAP(1996)

SMAPの22作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで1位に輝いた。

元々は林田健司がシングルとしてリリースしていた楽曲であり、それをSMAPがカバーしたということになる。森且行がオートレース選手としての夢を追うためにグループを脱退し、5人体制となってから最初のシングルで、フジテレビ系の冠番組「SMAPxSMAP」のテーマソングであった。

この少し前から、実はSMAPの音楽はかなりカッコいいということが、音楽ファンの間でも話題になり、アルバム「SMAP 007~Gold Singer~」などはHMVなどでもそれまでのジャニーズ事務所所属アイドルのCDとは異なり、より音楽ファン向けの陳列がされていたような記憶がある。

たとえば男性の熱心な音楽ファンがジャニーズ事務所所属アイドルの音楽をまともに聴くというようなことは、それまでは実に稀なことであり、そういった意味でも画期的だったということができる。

この曲では楽曲の良さももちろんなのだが、木村拓哉の「Get you」こと「ゲッチュ」がフックとしてかなり効いてもいた。