M-1グランプリの歴史【後編】(2015-2020)
日本の年末の風物詩となった印象もあるテレビ朝日系のお笑い番組「M-1グランプリ」の歴史を振り返るシリーズの、今回は後編となる。2001年にスタートした「M-1グランプリ」は2010年の第10回大会で一旦終了するのだが、それから4年間のブランクを経て、2015年に復活を果たす。
その前に、「M-1グランプリ」が一旦終了した翌年にあたる2011年からフジテレビ系の「THE MANZAI」について触れておく必要がある。
「THE MANZAI」とは元々は1980年に放送を開始したお笑い番組で、フジテレビ系「花王名人劇場」、日本テレビ系「お笑いスター誕生」などと共に、1980年代初めの漫才ブームを盛り上げる上で、ひじょうに大きな役割を果たしたといえる。特に「THE MANZAI」は新感覚の演出によって、漫才を当時の若者のフィーリングにフィットさせたことに成功したといえる。
1980年代に放送されていた「THE MANZAI」はいわゆる賞レース的な番組ではなく、当時の人気漫才コンビが次々とネタを披露していく進行となっていた。出演した主なコンビとして、横山やすし・西川きよし、中田カウス・ボタン、星セント・ルイス、ツービート、ツービート、B&B、ザ・ぼんち、オール阪神・巨人、西川のりお・上方よしお、島田紳助・松本竜介、春やすこ・けいこ、大平サブロー・シロー、おぼん・こぼんまどがいる。
この「THE MANZAI」が「M-1グランプリ」のような賞レース番組として復活することが、2011年の春に発表された。「M-1グランプリ」が終了してから、わずか数ヶ月後のことである。この企画についてはフジテレビから吉本興業に持ちかけられたということである。「M-1グランプリ」との大きな違いは出場資格に結成年数による制限がないこと、また、プロのみしか出場できないことなどがあった。結成10年を超え、「M-1グランプリ」では出場資格を失っていたコンビも、「THE MANZAI」では決勝戦に進出するようなこともあった。
2009年の「M-1グランプリ」で楽屋の風景が映された時、笑い飯の哲夫はマイケル・ジャクソンのダンスを真似して、「テンダラーの浜本さ~ん」と呼びかけていた。1994年に大阪で結成されたテンダラーは、その時点ですでに「M-1グランプリ」への出場資格を失っていた。コンビ名の表記は当初、$10だったのだが、2009年6月にカタカナ表記のテンダラーに変更していた。
テンダラーは2011年の「THE MANZAI」に出場すると決勝進出を果たし、決勝戦ではブロック3位となり、最終決戦には進めなかったものの、最高顧問のビートたけしに気に入られたこともあり、全国的に大きく知名度を上げた。
「THE MANZAI」の審査委員長は当初、「M-1グランプリ」と同様に島田紳助が務めることになっていたのだが、2011年8月に島田紳助が不祥事の責任を取るかたちで芸能界から引退することによって、番組の企画そのものが白紙になるのではないかとも懸念されていた。しかし、ビートたけしが審査委員長ではなく最高顧問として就任することが決まり、大会は実施された。
「THE MANZAI」は2011年から2014年までの計4回にわたって行われ、パンクブーブー、ハマカーン、ウーマンラッシュアワー、博多華丸・大吉が優勝した。
2015年に「M-1グランプリ」の復活が発表され、当初は「THE MANZAI」は夏に開催される予定もあったようだが、結局は賞レースとしてのかたちをやめて、年末に純粋な演芸番組として放送されることになった。
第11回(2015年12月6日)
「M-1グランプリ」の復活は当時のファンたちを歓喜させたわけだが、この年から大量の予選動画がインターネットで配信されたり、敗者復活戦がテレビで生放送されるようになった。そして、敗者復活戦の審査には一般投票が導入されるようになった。また、大会への参加資格は結成10年以内から15年以内に延長された。放送日については、以前の「M-1グランプリ」がクリスマス前後から年末にかけてだったのに対し、12月のわりと早い時期に変わってもいた。
司会は2010年までと変わらず今田耕司と上戸彩が務めたが、審査員は歴代の優勝コンビから、それぞれ1人ずつが選ばれていた。中川家から中川礼二、ますだおかだから増田英彦、フットボールアワーから岩尾望、ブラックマヨネーズから吉田敬、チュートリアルから徳井義実、サンドウィッチマンから富澤たけし、NON STYLEから石田明、パンクブーブーからは佐藤哲夫、笑い飯から哲夫の計9名である。2004年に優勝したアンタッチャブルからは、何らかの事情により選ばれていなかった。パンクブーブーの佐藤哲夫と笑い飯の哲夫が同じ名前で並んでいるのだが、佐藤哲夫はかつて哲夫の芸名で活動していたこともあるのだが、笑い飯の哲夫がいたために、佐藤哲夫に戻したという経緯があるようである。
それはそうとして、この年の決勝には5年前の第10回大会から続けて選ばれたコンビが、ジャルジャル、銀シャリ、ハライチと3組もいた。これ以外ではタイムマシーン3号が2005年以来の返り咲きとなった。前回はアップフロントエージェンシーの所属だったが、この時には太田プロダクションに移籍していた。そして、初進出のコンビが、スーパーマラドーナ、和牛、馬鹿よ貴方は、メイプル超合金、そして、敗者復活戦から勝ち上がったトレンディエンジェルと5組もいた。このうち、メイプル超合金を除く4組は「THE MANZAI」で決勝進出を経験していた。
2010年に一旦終了するまでの「M-1グランプリ」で3年連続で決勝進出を果たしていたナイツが準決勝で敗退したことが話題にもなっていたが、敗者復活戦では吉幾三「俺ら東京さ行くだ」を土屋伸之に塙宜之が終始つっこみ続けるという奇抜なネタでインパクトを残した。いわゆる「旧M-1」で3度にわたる決勝進出を果たすものの思うような結果を残すことができなかったPOISON GIRL BANDは読売ジャイアンツに入りたいという内容のネタでひじょうに面白かったのだが、残念ながら決勝進出はならなかった。トレンディエンジェルは準決勝でひじょうにウケいたといわれていたのだが、決勝メンバーには選ばれていなく、タイプ的に「M-1グランプリ」に合っていないと判断されたにかとも思われたのだが、敗者復活戦で勝ち上がり、そのまま優勝してしまったのだった。
ジャルジャルはお互いの言い回しに対してつっこむタイプのシステム的な漫才がひじょうにウケて、ファーストラウンドは1位で通過するのだが、最終決戦では同じパターンのネタで失速していた。銀シャリは安定のクオリティーで最終決戦に進出し、結果的に準優勝となった。ジャルジャルはこの時点ですでに東京の吉本に移籍してはいたのだが、元々は大阪の出身である。銀シャリ、スーパーマラドーナ、和牛と共に、baseよしもと~5upよしもと出身のコンビによる活躍がひじょうに目立っていた。
トップバッターで登場したメイプル超合金が強いインパクトを残していたような気がする。メイプル超合金が結成される少し前、千歳烏山の夏祭りでサンミュージックの芸人たちが出演する回があり、カズレーザーが若手のコーナーを仕切っていた。鳥居みゆきが元相方のラブ森永とコンビでネタを披露していたのだが、セミを怖がって絶叫していたのが印象的である。千歳烏山の夏祭りでは、ジャルジャル、ものいい、井上マーというなかなか味のある回を見たこともあった。
第12回(2016年12月4日)
司会は引き続き、今田耕司と上戸彩である。歴代チャンピオンによる審査員は前回限りであり、この年には上沼恵美子、松本人志、オール巨人といったかつての審査員が復活している。歴代チャンピオンでは中川家の中川礼二だけが前回に続いて選ばれ、2014年の「THE MANZAI」で優勝した博多華丸・大吉から博多大吉が初登場となった。わずか5名の審査員による審査であり、1名あたりの全体に及ぼす影響がひじょうに大きかったといえる。
決勝進出したコンビでは、銀シャリ、ハライチが2010年から3大会連続、スーパーマラドーナ、敗者復活戦から勝ち上がった和牛が2年連続、スリムクラブが2010年以来の返り咲き、さらば青春の光、カミナリ、アキナ、相席スタートの4組が初登場となった。
全体的に安定してクオリティーが高かったのではないかと、言われがちな印象もある年である。最終決戦に進出したのは、銀シャリ、和牛、スーパーマラドーナという、いずれも大阪の吉本に所属するコンビであった。そして、銀シャリが順当に優勝し、12代目のチャンピオンとなったのであった。準優勝となった和牛のネタのクオリティーも高く評価された。そして、最終決戦でのスーパーマラドーナがすごかったと、松本人志が評したりもしていた。
敗者復活戦で和牛に次いで2位だったのが、やはり大阪吉本に所属する若手コンビで、イキの合った兄弟漫才に定評があるミキであった。
第13回(2017年12月3日)
「M-1グランプリ」決勝戦のネタ順は、それまで事前に決められていたのだが、この回から笑神籤(えみくじ)なるものが導入され、直前まで分からないようになった。芸人たちにはひじょうにプレッシャーがかかるシステムだとは思うのだが、番組としては予想が難しい要素が増えて、より楽しめるようになったような気もする。
審査員には前年の上沼恵美子、松本人志、博多大吉、中川礼二、オール巨人に加え、春風亭小朝、渡辺正行が加わり、計7名による審査となった。
前回から連続しての決勝進出は4年連続の和牛、2年連続のカミナリ、敗者復活戦を勝ち上がったスーパーマラドーナの3組である。ジャルジャルが2015年以来の返り咲きで3回目、決勝初進出は、とろサーモン、かまいたち、マヂカルラブリー、ミキ、ゆにばーす、さや香の計6組であった。
とろサーモンはそれまでの「M-1グランプリ」において、かなりの確率で準決勝まで進出し、敗者復活戦でも2位を経験するなど、決勝進出にあと一歩で届かずという状況が続いてもいたのだが、この年にラストイヤーにしてついに決勝進出となっていた。
スーパーマラドーナは準決勝でもひじょうにウケていて、決勝に選ばれなかったことを疑問視する声もひじょうに多かった印象があるのだが、敗者復活戦での得票数は圧倒的であった。吉本に所属する知名度もあり有力なコンビが1組は準決勝で敗退しているため、敗者復活戦では勝ち上がる傾向があり、これによってかつての「M-1グランプリ」であったように、アンタッチャブルやサンドウィッチマンのような吉本に所属していなく、知名度もそれほど高くはないコンビが純粋に面白さで勝ち上がる可能性がひじょうに低くなっているのではないか、という意見も見かけることがある。
最終決戦は和牛、ミキ、とろサーモンで争われることになり、ファーストラウンドで4位のかまいたちとわずか5点差の3位で進出したとろサーモンが見事に優勝することになった。
ジャルジャルは「ピンポンパンクイズ」というひじょうに独創的なネタをファーストラウンドで披露し、松本人志などはひじょうに高い得点をつけた上に、一番面白かったとも評したのだが、審査員の間で得点が割れ、結局のところ6位になった。この結果を見て本気で悔しがり、涙ぐむ福徳秀介の姿が、そのイメージとのギャップも含め衝撃をあたえた。
決勝初進出のマヂカルラブリーはそのブレずにオリジナリティーに溢れるネタを披露するのだが、審査員の上沼恵美子にハマらず、今田耕司からコメントを振られると「ごめん、聞かないで」、さらには「好感度上げようと思ったら審査員もね、良い点はあげれんの、押したらいいわけですから。でも、あの、本気で挑んでるんで、みんな。本気で私も挑んでます」と発言、これに対して野田クリスタルが「本気で挑んでるから。本気でやってるから」と魂の叫び、するとこれに対して「本気でやってるちゅってんねん、こっちも」とわりと本気のトーンで怒られるという展開になった。「一生懸命頑張ってる、頑張ってるのは分かるけど、好みじゃない」「よう決勝残ったなと思って」と続けられ、松本人志は大笑いしている。今田耕司が必死でフォローしたりもする中、野田クリスタルは「いやーもう本当にね、お前ら、俺が本気を出したらな」などと言いながらシャツを脱ぎ、上半身裸になると絶叫しながらポーズを決める。相方の村上が「もうダメです、ありがとうございました」と苦笑いするだけであった。
第14回(2018年12月2日)
司会は引き続き今田耕司と上戸彩、審査員は前回に続いて上沼恵美子、松本人志、中川礼二、オール巨人、富澤たけしが2015年以来で、立川志らく、ナイツの塙宜之が初登場した。
決勝進出を果たしたコンビは、4年連続でスーパーマラドーナ、和牛、2年連続4度目のジャルジャル、2年連続2度目がかまいたち、ゆにばーす、敗者復活戦から勝ち上がったミキ、初進出はギャロップ、見取り図、トム・ブラウン、霜降り明星の4組であった。
このうち、スーパーマラドーナ、ジャルジャル、ギャロップがラストイヤーであった。前年にラストイヤーのとろサーモンが優勝したこともあり、この辺りに注目があつまってもいた。そして、もう1組、ラストイヤーで準決勝でも大いにウケていたのだが決勝進出を逃したコンビにプラス・マイナスがいた。敗者復活戦から勝ち上がることが期待されてもいたのだが、ミキに敗れ惜しくも2位に終わった。
番組のはじめの方で審査員が紹介された後、今田耕司は上沼恵美子に敗者復活戦にはマヂカルラブリーも参加しているというようなことを言うのだが、もちろんこの前年の大会に起こった出来事をふまえてである。しかし、上沼恵美子はどうやらピンときていないようで、「ミキに来てほしい」と言っていた。
敗者復活戦の会場が映ると、やはりマヂカルラブリーの野田クリスタルが上半身裸になるとカメラに指をさし、「エミちゃん、待っててね~」などと叫ぶのだが、やはりよく分かっていないようであった。
ジャルジャルは前年の「ピンポンパンゲーム」の進化型とでもいうべき「国名分けっこ」という独特のグルーヴ感を持つネタを披露して、今回は高得点を獲得し、最終決戦に進出した。スーパーマラドーナはややダークなテイストのネタで、それほど得点が伸びなかった。ギャロップは審査コメントの最後の方で上沼恵美子から必要以上に酷評されるなどしていた。
吉本以外の事務所から唯一決勝進出したのがケイダッシュステージのトム・ブラウンであり、ひじょうに特殊なネタではあるのだが、「M-1グランプリ」という大会の許容範囲を拡張する役割を果たしたようにも感じられる。
和牛は完成度の高い緻密でありながら進化も感じさせるネタで順当に最終決戦に進出するが、初出場で勢いに乗る霜降り明星に敗れ、3年連続準優勝となった。
この大会の後、とろサーモンの久保田かずのぶが、「M-1グランプリ」に出演していた何名かの芸人と酒を飲んだりしている席からインスタライブを行い、審査員の上沼恵美子を批判するような発言をするのだが、これに同席していたスーパーマラドーナの武智も便乗する。これが後に問題化するのだが、実は同様の不満を感じてもいて、よくぞ言ってくれたと溜飲を下げていた人たちもけして少なくはなかったのではないかというような気もする。
歴代最年少のチャンピオンとなった霜降り明星の優勝は新時代の到来をも感じさせ、「お笑い第七世代」なる言葉がよく用いられるようにもなっていった。
第15回(2019年12月22日)
司会は今田耕司、上戸彩で、審査員は上沼恵美子、松本人志、中川礼二、富澤たけし、立川志らく、塙宜之、オール巨人と、いずれも前回からまったく変わっていない。
しかし、決勝進出者の顔ぶれは大きく変わった。前回に続いて決勝に進出したのは4年連続となるかまいたち、2年連続の見取り図、そして、敗者復活戦から勝ち上がった和牛が5年連続となった。かまいたちはこの年がラストイヤーだったが、前年を最後にしようと決めていたということだが、やはりこの年も出ることにしたということである。また、和牛はラストイヤーまではまだ少しあったのだが、この年を最後にするということであった。
初進出が ミルクボーイ、ぺこぱ、インディアンス、ニューヨーク、すゑひろがりず、からし蓮根、オズワルド と実に7組である。
この年から映画館で準決勝戦のライブビューイングが行われることになり、多くの人々に視聴が可能となった。それまで、準決勝戦を見ない状態で決勝進出者を知る人たちがほとんどであり、その結果についていろいろな想像をしたものであったが、ライブビューイングが行われることによって、それが視聴者によりオープンになったともいえる。
そして、審査が実はひじょうに順当であるということも、広く理解されるようになったような気がする。
上沼恵美子がからし蓮根の審査コメント中に、すでにネタを終え暫定ボックスにいる和牛に対して不満をまくしたてるというような場面があった。
すゑひろがりずは鼓を持って着物姿と昔の言葉で漫才をするという独特のスタイルを、みなみのしまというコンビ名で活動していた頃から貫いているが、たとえ準決勝でウケたとしても、決勝進出は難しいのではないかと思われていた。これがすんなりと決勝に選ばれ、しかも決勝戦でもなかなかウケて、その後に人気者になってしまうということもあった。
ミルクボーイは肯定と否定を繰り返すタイプの漫才をかなり以前からやっていて、ひじょうに面白くもなっていたのだが、果たしてこういうシステム漫才のようなものが「M-1グランプリ」で正当に評価されるのだろうかというような疑問もあった。3回戦でコーンフレークをテーマにしたネタが尋常ではないレベルでウケているのを見て、これは流れが来ているのではないかと思った後においてもである。
準決勝でも大いにウケていて、決勝進出が決まったのを知り、あのミルクボーイの漫才が全国ネットのゴールデンタイムに放送されるだけでもこれはかなりすごいことだと思えたのだが、これが大ハマりするばかりか、松本人志から「これぞ漫才」と言われたり、ついには優勝までしてしまったのであった。
かまいたちもラストイヤーにして渾身のネタを最高のパフォーマンスで披露して準優勝となり、優勝こそ逃したものの、その後はバラエティーなどで大活躍するようになる。ファーストラウンドの最後にネタを披露して和牛の得点を抜いて最終決戦に進出したぺこぱも多様性の肯定や人を傷つけない笑いなどといった側面から評価されたりもして、知名度を大きく上げていった。
決勝初進出のニューヨークはトップバッターで会場を温めるが、松本人志の審査コメントでツッコミがあまり好みではないということが言われる。間髪入れずに屋敷裕政が「最悪や!」と叫んだ後の流れが面白く、大会では最下位に終わったものの、強い印象を残した。
オズワルドも初の決勝進出を果たすが、伊藤俊介の妹である女優の伊藤沙莉が公式での発表前にフライングでツイートしてしまうということもあった。
第16回(2020年12月20日)
この年も司会は今田耕司、上戸彩、審査員は上沼恵美子、松本人志、中川礼二、富澤たけし、立川志らく、塙宜之、オール巨人で、2018年からまったく同じである。
見取り図が3年連続、ニューヨーク、オズワルド、敗者復活戦から勝ち上がったインディアンスが2年連続、マヂカルラブリーが2017年、アキナが2016年以来の返り咲きでいずれも2回目、ウエストランド、錦鯉、東京ホテイソン、おいでやすこがが初進出である。
ピン芸人の大会である「R1ぐらんぷり」が「R1グランプリ」に改名すると同時に、出場資格を芸歴10年以内に制限することを発表した。4年連続で決勝進出していたおいでやす小田は出場資格を失ったわけだが、やはり「R1ぐらんぷり」で決勝進出したことがあり、「M-1グランプリ」においでやす小田とのコンビで出場していた、こがけんも同様であった。この件を伝える「ワイドナショー」においでやす小田が出演し、キレまくったところこれがなんとなくハマり、追い風になったようなところもある。
この年の「M-1グランプリ」でもライブビューイングは行われたのだが、おいでやす小田とこがけんによるコンビ、おいでやすこがの爆発力は圧倒的であった。そして、マヂカルラブリーの「つり革」のネタである。しゃべくり漫才のようなものを主に好むタイプのお笑いファンでさえ、ステージをのたうち回る野田クリスタルと絶妙なつっこみを入れる村上がつくり出す笑いの強度とを認めざるをえなかった。この年も準決勝の審査はひじょうに順当だと感じられた。
「M-1グランプリ」の注目度は上がり、準々決勝で好評だったものの敗退してしまったこの年がラストイヤーのDr.ハインリッヒでさえ、知名度がひじょうに高まったように思える。
ニューヨークのYouTubeチャンネルからエレパレこと「ザ・エレクトリカルパレーズ」という動画が注目をあつめたりもしていたが、決勝戦でニューヨークがネタ披露に向かう際に、野田クリスタルがエレパレのハンドサインで送り出したりもしていた。
おいでやすこががやはり大爆発し、ファーストラウンドでは1位に勝ち上がった。マヂカルラブリーは出番の直前で1本目に「フレンチ」のネタをやり、自信作である「つり革」のネタを最終決戦に温存することができた。マヂカルラブリーと上沼恵美子との因縁は「M-1グランプリ」のファンの間では有名だったのだが、当の上沼恵美子自身が忘れているようであった。野田クリスタルはネタ披露のための登場時から土下座をし、ネタのはじめの自己紹介では「笑わせたい人がいる男です」、ネタが終わった後には「早くあの人の声が聞きたいです」と、すべて上沼恵美子のことを言っていた。そして、上沼恵美子からは高得点を獲得した上で、「あんたらアホやろ」と最大の賛辞を受けることになる。
最終決戦はおいでやすおだ、マヂカルラブリー、見取り図によって争われ、接戦の末、マヂカルラブリーが優勝となった。
その後、マヂカルラブリーの優勝ネタを巡って、あれが漫才か漫才ではないかというような論争が起こったりもするのだが、プロの芸人のほとんどは漫才であると言っていて、しゃべくり漫才のようなものしか漫才として認めないというような人たちだけが、あれは漫才ではないと言っているという感じになっていった。
マヂカルラブリーの優勝によって、漫才の多様性がより広く伝わったようなところもあり、よりアンダーグラウンドな漫才がポップに受け入れられやすい土壌が形成されたようにも思える。