ビリー・アイリッシュのベストソング10選(The 10 essential Billie Eilish songs)

ビリー・アイリッシュはアメリカのシンガーソングライターで、13歳の頃から兄のフィニアスと曲づくりをはじめ、SoundCloudにアップロードした楽曲が話題となったことがきっかけでレーベルと契約した後は2019年にリリースしたデビューアルバム「ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、 ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?」はアメリカやイギリスのチャートで1位、シングルカットされた「bad guy」は全米シングルチャートで21世紀生まれのアーティストとしては初となる1位を記録し、グラミー賞では主要4部門をすべて受賞したことで話題となった。

その後も映画のサウンドトラックに楽曲を提供したりリリースしたアルバムがいずれもヒットした上に高評価も得るという状況が続き、21世紀を代表する音楽アーティストの1人として認識されている。今回はそんなビリー・アイリッシュの楽曲の中からこれは特に重要なのではないかと思える10曲を選び、簡単な説明なども加えていきたい。

‘ocean eyes’ (‘dont smile at me’, 2015)

ビリー・アイリッシュの兄、フィニアスは自身のバンドの楽曲としてこの曲を書いたのだが、妹のボーカルの方が合っているような気がしたのと、ダンスの振り付けのための楽曲を必要としていたので提供した。

ビリー・アイリッシュがまだ13歳だった2005年11月にSoundCloudにアップロードすると、たちまちインターネット上で話題になり、メジャーレーベルとの契約にもつながっていく。

憧れと脆弱さを感じさせるドリーミーなポップバラードで、類い稀なる才能の片鱗を早くも感じさせるボーカルがとても良いのだが、ダークサイドはまだその全貌をあらわしていない。

‘when the party’s over’ (‘WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?’, 2018)

恋の終わりをなんとなく感じている、というシチュエーションをテーマにした楽曲である。それほど決定的ではなくなんとなくなのだが、それが逆にじんわりと効いてきてしんどいというような感じをヴィヴィッドに表現した素晴らしいポップソングである。

そして、それを成立させているのはなんといってもビリー・アイリッシュの素晴らしいボーカルパフォーマンスである。伴奏は最小限に抑えられ、ボーカルは何重にも重ねられたり、合唱曲の手法のようなものが用いられたりもしている。

かなり実験的なアプローチが取られている楽曲のように感じられるのだが、全米シングルチャートで最高21位、全英シングルチャートで最高29位とそこそこヒットしているところもとても良い。

‘bury a friend’ (‘WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?’, 2019)

ビリー・アイリッシュのダークサイドがいよいよ分かりやすくあらわれてきた楽曲で、「眠りについたとき私たちはどこに行くの?」というような歌詞がタイトルにもなっているように、デビューアルバム「ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、 ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?」の方向性を決定づけた楽曲でもある。

ベッドの下にいる怪物をテーマにすることによって、人々が日常で抱きがちなマイルドな不安や恐怖感のようなものをポップソング化しているということもできる。歯科用ドリルの音などが効果音として用いられることによって不吉なムードがさらに高まり、ホラーな世界観を映像化したミュージックビデオもとても良い。

全英シングルチャートで最高6位、全米シングルチャートで最高14位を記録している。

‘bad guy’ (‘WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?’, 2019)

ビリー・アイリッシュのデビューアルバム「ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、 ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?」がリリースされるとアメリカやイギリスのアルバムチャートで1位を記録したのだが、シングルカットされた「バッド・外」もまた全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高2位(1位はルイス・キャパルディ「サムワン・ユー・ラヴド」であった)を記録した。

全米シングルチャートではこの曲が21世紀になってから生まれたアーティストが記録した、最小のNO.1ヒットとなった。また、リル・ナズ・X「オール・ダウン・ロード」の19週にわたる1位を終わらせたことでも話題になった。さらにはグラミー賞で主要4部門をすべて受賞するなど、ビリー・アイリッシュは一気に超メジャー化していくわけだが、その大きなきっかけとなったのがこの楽曲だともいえる。

ダークでありながらキャッチーであり、ワルであることを自慢するタイプの人物を皮肉っているように、自分自身こそが本当はもっとワルだというようなことが歌われている。ミュージックビデオも痛快きわまりなくて最高である。

曲は途中からスローなインストゥルメンタルになるなど、なかなか実験的なところもあるのだが、これが全米NO.1ヒットというところもかなり良い。

‘everything i wanted’ (Single, 2019)

ゴールデンゲートブリッジから身を投げたのだが誰も気に留めていなかったという、ビリー・アイリッシュが見た悪夢にインスパイアされた楽曲で、全米シングルチャートで最高8位、全英シングルチャートで最高3位のヒットを記録し、グラミー賞では最優秀レコード賞を受賞した。

この悪夢について妹から聞いたときに、フィニアス・オコネルはそれが心配になり、私がここにいる限り、誰もあなたを傷つけることはできない、というような内容の楽曲を書いた。

この曲はビリー・アイリッシュとフィニアス・オコネルという兄妹の絆をテーマにしているが、ミュージックビデオもその内容に沿ったものになっている。

‘Your Power’ (‘Happier Than Ever’, 2021)

権力を搾取的に利用することによって他人を支配し、やがて破滅させる人物や、そういった構造を痛烈に批判した楽曲であり、フォークバラード的なアコースティックなサウンドとソフトなボーカルがテーマの深刻さをより際立たせてもいる。

おそらく音楽業界においてビリー・アイリッシュが現実的に体験した事柄がベースになっていると思うのだが、きわめて汎用的でもあり、それだけにメッセージソングとしての価値もひじょうに高い。

2作目のアルバム「ハピアー・ザン・エヴァー」に先がけてシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高10位、全英シングルチャートで最高5位を記録した。

ビリー・アイリッシュ自身が監督したミュージックビデオでは砂漠で80ポンドもあるアナコンダがゆっくりと身体に巻きついてくるという映像によって、権力の濫用に対しての異議申し立てという楽曲のテーマを視覚的に表現している。

‘Happier Than Ever’ (‘Happier Than Ever’, 2021)

ビリー・アイリッシュの2作目のアルバム「ハピアー・ザン・エヴァー」のタイトルトラックにしてハイライトとなる楽曲である。アルバムから6曲目となるシングルとしてもカットされ、全米シングルチャートで最高11位、全英シングルチャートで最高4位を記録した。

「あなたと離れているとき、私はいままで以上にしあわせだ」という歌詞が象徴しているように、この楽曲はビリー・アイリッシュがおそらく実際に経験したであろう有害な恋愛関係に対しての訣別の歌であり、アーティストとしての成長を確実に感じさせる楽曲である。

音楽的にはアコースティックなバラードではじまるのだが、途中からロック的になり、ビリー・アイリッシュは激しくシャウトすらしている。

‘What Was I Made For?’ (‘Barbie the Album’, 2023)

グレタ・ガーウィグ監督の映画「バービー」のサウンドトラックのためにビリー・アイリッシュが提供した楽曲で、全米シングルチャートで最高14位、全英シングル・チャートで1位を記録した。

全英シングル・チャートでビリー・アイリッシュが1位を記録するのはこの曲で2曲目だが、1曲めも映画に関係した楽曲で、2021年のスパイアクション映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の主題歌「ノー・タイム・トゥ・ダイ」であった。2曲ともアカデミー賞で最優秀楽曲賞を受賞している。

また、この楽曲はグラミー賞においてテイラー・スウィフト「アンチ・ヒーロー」、オリヴィア・ロドリゴ「ヴァンパイア」などを抑え、最優秀楽曲賞を受賞している。

「私は一体何のために生まれてきたのか」というようなタイトルのこの楽曲を、ビリー・アイリッシュは兄のフィニアス・オコネルとバービーのことだけをただ考えて書いたはずなのだが、後にビリー・アイリッシュ自身にも当てはまるような内容であることに気がついた。

‘LUNCH’ (‘HIT ME HARD AND SOFT’, 2024)

ビリー・アイリッシュの3作目のアルバム「ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト」から最初のシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで最高5位、全英シングル・チャートで最高2位(1位はサブリナ・カーペンター「エスプレッソ」)を記録した。

重厚なベースラインが特徴的なシンセポップサウンドにのせて、好みの女性のことをランチにたとえて歌っている。性的指向のナチュラルな表明であるのみならず、カジュアルな性欲のようなものにも言及している。

メインストリーム的にも人気があるアーティストの振るまいとしては、とても価値が高いことである。ミュージックビデオでのヒップホップ的なファッションセンスもとても良い。

‘BIRDS OF A FEATHER’ (‘HIT ME HARD AND SOFT’, 2014)

ビリー・アイリッシュのアルバム「ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト」の4曲目に収録された楽曲だが、リリース以前にNetflixの人気ドラマ「HEARTSTOPPER ハートストッパー」シーズン3の予告編でプレビューされていた。

タイトルは「同じ羽根の鳥は群れをなす」という意味の英語の慣用句に由来していて、最後まで一緒にいたいと思える人と恋におちることについて歌われている。

新境地といえるほどキャッチーで爽やかな楽曲だが、それでいて個性も失われていない。

アルバム収録曲の中でも特に人気が高く、リリースされてすぐにシングルチャートの上位にランクインしたが、後にシングルカットもされている。全米シングルチャート、全英シングルチャートのいずれにおいても最高2位を記録している。