エルヴィス・プレスリー「サスピシャス・マインド」【CLASSIC SONGS】
1969年11月1日付の全米シングル・チャートでは、エルヴィス・プレスリー「サスピシャス・マインド」がテンプテーションズ「悲しいへだたり」にかわって1位に輝いていた。エルヴィス・プレスリーにとって、1962年の「グッド・ラーク・チャーム」以来約7年ぶり、通算18曲目の全米NO.1ヒットとなった。
疑い深い心では一緒に生きていくことはできないし、夢を築けやしない、というようなことが歌われているのだが、どうやら相手に浮気を疑われているようである。この曲は作者であるマーク・ジェイムズが自ら歌い、1968年にリリースされたがヒットには至らなかった。マーク・ジェイムズは結婚をしていたが、故郷にいる初恋の相手のことがまだ忘れられずにいた。それを妻にも気づかれていたようで、そういった実生活の状況がこの曲には反映しているように思える。
要は苦みばしった大人のラヴソングだということもできるのだが、かなり苦し紛れでもあることは否めない。エルヴィス・プレスリーの地元、メンフィスでのレコーディングは1955年以来である。当時、世間を熱狂させた直情的なエネルギーの爆発は若さそのものという感じで、即ちそれこそがロックンロールでもあったわけだが、時代は変わり年も取り、いかんともしがたかったり不承不承やりすごさなければいけないことなども増えてくる。そのようなありふれたブルーズをドラマティックに歌い上げていることがリアリティーとして切実に訴えかけてくる。
カントリーやソウルといった音楽の要素が入り混じり、オリジナリティー溢れる音楽になっているところは黎明期のロックンロールと同じなのだが、それがより成熟した精神性によって実現されている。エンディング近くでバックトラックがフェイドアウトしかけてまた戻ってくる仕掛けはいつの間にか勝手に入れられていたらしく、エルヴィス・プレスリーはそれに対して激怒していたということなのだが、これはこれでユニークな効果をもたらしているように思える。
音楽的にはエリヴィス・プレスリーのカムバックを印象づけた1968年のテレビ番組「68カムバック・スペシャル」と、アルバム「エルヴィス・イン・メンフィス」の延長線上にある。抜け出すことのない罠にかかってしまったが、それを愛しすぎてしまったことのせいにする。いろいろと間違えている可能性は考えられるのだが、この力強くも確信に満ちたロマンティシズムの暴発は圧倒的である。この曲はエルヴィス・プレスリーにとって、最後の全米NO.1ヒットとなった。