パルプの名曲ベスト10【Artist’s Best Songs】

パルプは1963年9月19日生まれのジャーヴィス・コッカーが15歳の頃に結成したアルバカス・パルプを前身とし、メンバーチェンジや事実上の活動休止などを経て、90年代に入ると「NME」などのインディーロック系メディアから注目されるようになる。メジャーレーベルと契約後は楽曲の良さとジャーヴィス・コッカーのショーマンシップが大いに受けて、オアシス、ブラー、スウェードらと共に、ブリットポップの中心的バンドの1つとしてメインストリームでも成功をおさめる。しかし、その空虚さに気がつくのも早かったようである。今回はそんなパルプの楽曲からこれは特に名曲なのではないかと思える10曲を選び、カウントダウンしていきたい。

10. My Legendary Girlfriend (1991)

1978年に結成されたポストパンクバンド、パルプは1991年に12インチシングルでリリースされたこの曲によって、一部のインディーロックファンにやや注目されるようになった。「NME」のシングル・オブ・ザ・ウィークに選ばれたものの、メインストリームはまだまだ遠く、いつか到達するともほとんど期待されてはいなかったような気もする。制作中の仮のタイトルは「バリー・ホワイト・ビート」だったらしく、当時のアシッド・ハウスブーム的なムードもマイルドに取り入れられてもいて、いろいろ爆発寸前のポテンシャルはビシビシ感じられる約6分52秒である。

9. Razzmatazz (1993)

パルプはメジャーのアイランドに移籍した後にメインストリーム的にも大ブレイクを果たすのだが、インディーズのガット・レコードから最後にリリースしたのがこのシングルである。全英シングル・チャートにランクインはしていないのだが、インディーロック系のメディアではすでにかなり注目されていた。キャッチーなメロディーとジャーヴィズ・コッカーの世間一般的にはまだ無名ではあるものの、ポップスター然としたパフォーマンスなどが特徴であった。この曲は別れた恋人が輝きを失い、落ちぶれていく様をかなり独特なタッチで描いていたりして、パルプらしさがひじょうに良く出ている。

8. Help the Aged (1997)

90年代半ばにまさかの大メジャーブレイクを果たしたパルプではあるのだが、注目の新曲としてリリースされたこの曲においては、お年寄りを大切にしよう的なメッセージが含まれているという意外性が特徴的であった。絶賛ブレイク中の旬のアーティストとはいえすでに30代半ばに差しかかろうとしていたジャーヴィス・コッカー自身の老いをもテーマにしているともいわれているのだが、ギタリストのラッセル・シニアはこの曲があまりにも嫌いすぎてシングルとしてリリースすることに猛反対した末に、バンドを脱退したりもしている。全英シングル・チャートでは最高8位のヒットを記録した。

7. Do You Remember the First Time? (1994)

アイランドに移籍後、第2弾となるシングルで、全英シングル・チャートでは最高33位と初のトップ40入りを果たしている。ジャーヴィス・コッカー自身のいわゆる初体験というかヴァージニティーの喪失をもテーマにしていて、邦題も「初体験はどんな感じ?」と直訳なうえにひじょうに分かりやすい。この曲も収録したアルバム「His ‘n’ Hers」の邦題は「彼のモノ♥彼女のモノ」で全英アルバム・チャートで最高9位を記録、マーキュリー賞にもノミネートされた。

6. Mis-Shapes (1995)

「コモン・ピープル」のアルバムから先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高2位の大ヒットを記録した。ブリットポップブームにも乗って、バンドの勢いが上向いているタイミングで、グラストンベリーフェスティバルでヘッドライナーだったザ・ストーン・ローゼズがメンバーのケガにより出演できなくなる。代役に抜擢されたパルプは圧倒的なパフォーマンスを見せつけ、この願ってもないチャンスを最大限に生かしたといえる。これだけメジャーにブレイクしたのだが、この曲のテーマもいわゆるはぐれ者でありアウトサイダーである。それはジャーヴィス・コッカーの実体験にも基づいていて、この辺りが売れまくってもインディーロックファンから支持され続けた要因だったように思える。

5. Disco 2000 (1995)

パルプが1995年の秋にリリースし、全英アルバム・チャートの1位に輝いたアルバム「コモン・ピープル」からシングルカットされ、全英シングル・チャートで最高7位を記録した。インディーポップとディスコソングがミックスされたようなとても良い曲で、ローラ・ブラニガン「グロリア」などを思い起こさせたりもする。この頃、2000年はまだ少し先の近未来だったことが思い出される。アウトサイダー的でありながら一般大衆的なパーティーソングも歌える、ジャーヴィス・コッカーというソングライターでありパフォーマンスするアーティストとしてのすごみのようなものを実感させられた。

4. This Is Hardcore (1998)

1995年の大ブレイクによって、国民的人気バンドとも呼べるレベルに盛り上がっていたパルプではあるのだが、ジャーヴィス・コッカーが1996年のブリット・アワーズ授賞式におけるマイケル・ジャクソンの救世主的なパフォーマンスに耐え切れず、思わず邪魔をして逮捕されたりもした。この行為はマイケル・ジャクソンのファンなどから激しく非難された一方で、インディーロック的なメディアやリスナーなどからはよくぞやってくれたと英雄視されたりもしていたのだった。やはりパルプに国民的ポップスターは似合わないというか、もったいなかったような気もする。そして、次にリリースされたアルバムがダウナーな「ディス・イズ・ハードコア」であった。このタイトル曲にして先行シングルは、明らかに暗くてヘヴィーではあるのだが、人気バンドの新曲ということでCDショップなどでも猛烈にプッシュされていた。この曲は全英シングル・チャートで最高12位、アルバムは「コモン・ピープル」に続いて2作連続1位に輝いた。

3. Sorted for E’z & Wizz (1995)

「Mis-Shapes」との両A面シングルとして発売され、全英シングル・チャートで最高2位を記録した。ポップでキャッチーな「Mis-Shapes」にミュージックビデオが制作され、テレビでもプッシュされていたと思われる。一方、シングルではこちらの方が先に表記されがちなこの曲だが、いわゆる夏フェスでのドラッグ体験のようなものをテーマにしているようでもあり、CDシングルのジャケットがドラッグの包み紙としても利用できる仕様となっていたことから、一部のメディアから非難されていたりもした。1995年に「NME」が発表した年間ベストシングルでは、ブラック・グレープ「Reverend Black Grape」、スーパーグラス「Alright」に次ぐ3位に選ばれていた。

2. Babies (1992)

発売当時は全英シングル・チャートにランクインしていないが、イギリスのインディーロック的なメディアや一部のファンがややざわつきはじめた楽曲である。個人的にも「NME」で読んだ数行のレヴューだけを頼りに西新宿のラフ・トレード・ショップで12インチシングルを買って、大当たりじゃないかとが心でガッツポーズをとった。インディーロックなのにチープなシンセサイザー音が入っているのがとても良く、同時期のデニム「ミドル・オブ・ザ・ロード」などに通じるものも感じた。ガールフレンドと一緒に彼女の姉が部屋に男を連れ込んでいろいろやっているところを盗み聞きしているのだが、そのうちそれだけでは満足できなくなって、結果的にガールフレンドの姉と寝てしまうというストーリーなのだが、まるでカッコいいラヴソングのように歌われている。世間一般的にはほとんど無名な当時のジャーヴィス・コッカーがまるでポップスターかのようにパフォーマンスしているシリーズの真骨頂ともいえる楽曲で、この数年後には本当にスターになってしまうことを考えると、このミュージックビデオもなかなか味わい深い。

1. Common People (1995)

そして、パルプの代表曲といえば、やはり「コモン・ピープル」であろう。パルプという1つのバンドにとっての代表曲であるばかりではなく、ブリットポップというサブジャンルというかムーヴメント、あるいは1990年のポップソングの名曲ランキングでも上位に選ばれることがひじょうに多い。曲がとてもポップでキャッチーなところがとても良いのはもちろんなのだが、ジャーヴィス・コッカーが学生時代に出会ったお金持ちの女性との関係をテーマにしているともいう、ユーモアとウィットにとんだ歌詞が高く評価されていると思われる。この曲を収録したアルバムのタイトルは邦題だと「コモン・ピープル」なのだが、オリジナルは「Different Class」であり、このアルバムのクオリティーが他とは別格であることをあらわしているのと同時に、イギリスの階級社会を思わせたりもする。金持ちの女性はあなたみたいな普通の人(コモン・ピープル)といろいろなことをしてみたかったのと言うが、そこに悪気はおそらくまったく無い。このようなテーマが扱われているところがいかにもイギリス的であるように思えるし、これが軽めなディスコソング的なサウンドにのせて歌われているところもとても良い。