ラナ・デル・レイの名曲ベスト10【The 10 Best Lana Del Rey Songs】
ラナ・デル・レイは1985年6月21日にニューヨーク市で生まれたシンガー・ソングライターであり、2011年にウェブカメラで撮影した映像などを使い、自主制作してYouTubeに上げたミュージック・ビデオがきっかけで注目されるようになった。
自分自身をギャングスタ・ナンシー・シナトラと形容し、悲しみが根底にありどこか懐かしくも感じられる音楽性が特徴である。2021年までに8作のアルバムを発表していて、2作目の「ボーン・トゥ・ダイ」以降はすべての作品が全米アルバム・チャートで最高8位以内、全英アルバム・チャートでは2位以内を記録し続け、2023年には最新アルバム「ディドゥ・ユー・ノウ・ザット・ゼアズ・トンネル・アンダー・オーシャン・ブルーバード」がリリースされる。
オルタナティヴでありながらオーセンティックでもあり、特に2019年のアルバム「ノーマン・ファッキング・ロックウェル!」などはひじょうに評価が高い。今回はそんなラナ・デル・レイの数ある楽曲の中から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲を選んでカウントダウンしていきたい。
10. Summertime Sadness (2012)
ラナ・デル・レイの2作目のアルバム「ボーン・トゥ・ダイ」からのシングルカットで、翌年にはフランスの音楽プロデューサー/DJ、セドリック・ベルヴェが全米シングル・チャートで最高6位、全英シングル・チャートで最高4位を記録し、自身最大のヒット曲となっている。
タイトルが表しているように夏の悲しみ、夏なのに悲しいというか、夏だから余計に悲しいという感じがテーマになっている。アルバム・タイトルが「ボーン・トゥ・ダイ」だが、ラナ・デル・レイには人はいつか死ぬのだという感覚がかなり幼い頃から強くあったようで、それが作風にも大きく影響している。この曲においてもただの別れというのみならず、死への予感が含まれてもいる。
9. Born to Die (2011)
アルバム「ボーン・トゥ・ダイ」のタイトルトラックにして先行シングルとしてもリリースされ、全英シングル・チャートで最高9位を記録した。
トリップホップ的なビートにのせて、やはり死生観の気配がただよう映画的でドラマティックな楽曲となっている。
この曲のミュージック・ビデオのコンセプトはラナ・デル・レイ自身によって考えられているのだが、恋人との激しくも不安定な関係性や交通事故による死、さらには虎まで登場するなかなかすごいものである。
8. Brooklyn Baby (2014)
アルバム「ウルトラヴァイオレンス」の収録曲で、シングルカットはされていない。ラナ・デル・レイが当時付き合っていて、後に婚約をするが破棄することになるスコットランドのバンド、キャシディのギタリスト、バリー・ジェームス=オニールとの共作曲である。
ニューヨーク市ブルックリン区あたりのいかに自分がヒップでクールかを競い合うかのようなシーンの風潮を揶揄しているかのような軽さもあって、そこが何だかとても良い。
この曲はブルックリン出身のルー・リードの存在を念頭に書かれ、実際に共演する予定も立てられていたのだが、約束のその日にルー・リードは亡くなったのだった。
7. White Dress (2021)
アルバム「ケムトレイルズ・オーヴァー・ザ・カントリー・クラブ」からシングルカットされ、全英シングル・チャートで最高51位を記録した。
ラナ・デル・レイがまだ有名ではなく、白いドレスを着て夜勤のウェイトレスとして働いていた頃を懐かしむ曲である。
白はイノセンスの象徴であり、歌詞ではドレスの色としてだけではなく、ホワイト・ストライプスを夢中で聴いていたことや、彼らの勢いが白熱いたことも回想されている。同じ頃にひじょうに人気があったキングス・オブ・レオンの名前も出てくる。
ただ昔を懐かしむだけではなく、あのシンプルな時代の方がしあわせだったのかもしれない、と未練を残したまま終わっているところもらしさがあってとても良い。
6. Love (2017)
アルバム「ラスト・フォー・ライフ」からの先行シングルとしてリリースされ、全米シングル・チャートで最高44位、全英シングル・チャートで最高41位を記録した。
ラナ・デル・レイはこの作品をファンのためということを意識してつくったと語っているのだが、それもあり初期に比べ、よりユニバーサルな感じになっているように思える。
タイトルも「Love」とシンプルに実に思い切っているのだが(元々は「Young and In Love」というタイトルだったということだが)、若くて恋をしていればそれに勝る価値などはない、というようなある面における真実と純度の高いノスタルジーが素晴らしいポップソングとして結実しているようでもある。
5. Ride (2012)
アルバム「ボーン・トゥ・ダイ」でブレイクした後に発表されたEP「パラダイス」から先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高32位を記録した。
夢見るようにこれもまたひじょうにノスタルジックなバラードであり、リック・ルービンによってプロデュースされている。
10分以上にも及ぶミュージック・ビデオにおいて、ラナ・デル・レイは様々な男性と恋に落ち、それは実像を100パーセント反映しているということである。
それこそが自然であり、本質であることが表明されてもいる。
4. Blue Jeans (2011)
アルバム「ボーン・トゥ・ダイ」からシングルカットされ、全英シングル・チャートで最高32位を記録したが、それ以前に自主制作のミュージック・ビデオがYouTubeにアップされたりもしていた。
ギャングスタ・ナンシー・シナトラを自称していたのも納得のノスタルジックでダークなバラードに、ヒップホップ的なリズムも加わっている。
ブルージーンズをはいたジェームス・ディーンによく似た恋人が歌詞には登場するのだが、他のラナ・デル・レイの多くの曲と同様に、これもまた自身の実体験がベースになっている。
3. Venice Bitch (2018)
ラナ・デル・レイが2019年にリリースしたアルバム「ノーマン・ファッキング・ロックウェル!」は全体的に本当に素晴らしく、名曲ベスト10を選ぶなら、そのうち7〜8曲ぐらいを占めてもまったくおかしくはないわけだが、今回のこれの場合はかなり最小限に絞ったということができる。
アルバムから2曲目のシングルとしてリリースされ、シングル・チャートには特にランクインされていないのだが、評価や人気はひじょうに高いような気がする。アルバムタイトルに名前が入っているノーマン・ロックウェルとはアメリカの有名なイラストレーターであり、アメリカのごく日常的な市民生活をライトなタッチで描写した作風が特徴である。
ラナ・デル・レイはそもそもこの曲をシングルにと提案し、実際にそうなったのだが、ノスタルジックである上に、途中からややエクスペリメンタルになるのかと思いきやそうはなりきらない約9分37秒となっている。そして、タイトルが「ベニス・ビッチ」である。ラナ・デル・レイにとってのアメリカが凝縮されているような楽曲であり、実に聴きごたえがある。
2. The Greatest (2019)
アルバム「ノーマン・ファッキング・ロックウェル!」の収録曲で、プロモーション用のシングルは制作されたが、全米や全英のシングル・チャートにはランクインしていない(ニュージーランドのチャートや全米オルタナティヴ・デジタル・セールス・チャートにはランクインしたようだが)。
しかし、これは「The greatest」というタイトルに相応しい楽曲だといえる。ラナ・デル・レイの楽曲には失われた過去を懐かしむものが少なくはないのだが、これはその最たるものであり、曲調やアレンジもそれに合わせてドラマティックになっている。
そして、ビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソンやデヴィッド・ボウイ「火星の生活」のみならず、カニエ・ウェストの文化的な凋落までもがトピックとして扱われている。
アルバム「ノーマン・ファッキング・ロックウェル」はトータルとして本当に素晴らしいのだが、ダイジェストというかサンプル的に聴くとするならば、ここに挙げた2曲なのではないかというような気もする。
1. Video Games (2011)
ラナ・デル・レイがウェブカメラで撮影した映像とその他の素材をミックスしてつくったミュージック・ビデオをYouTubeに上げて、それがきっかけで世に知られるようになった記念すべき曲である。
恋人はけして自分に対して細やかに気を遣ってくれることはなく、缶ビールをあけてヴィデオ・ゲームをやっているのだが、そんな日々を懐かしむという内容である。
ラナ・デル・レイの実体験がベースになっていて、登場人物にモデルもいる。歌詞では特定されていないヴィデオ・ゲームは「ワールド オブ ウォークラフト」というやつらしい。
当時から新曲にしていつかの時代の隠れた名曲のような雰囲気があったのだが、いまや正真正銘の名曲として評価が定着したように思える。
とかくノスタルジーに耽溺してばかりいることは良くなく、未来に向かっていかなければいけないとはよく言われがちであり、確かにそうでもあるわけなのだが、美しさを味わうということについては、けしてそうとは限らないのではないかと、ラナ・デル・レイの素晴らしい作品を聴くと、感じたりもするのだ。