洋楽ロック&ポップス名曲1001:2014

St. Vincent, ‘Digital Witness’

セイント・ヴィンセントはポリフォニック・スプリーやスフィアン・スティーヴンスのツアーメンバーとして活動した後にソロデビューを果たし、そのオリジナリティ溢れる音楽性が批評家から高く評価されるようになるが、デヴィッド・バーンとのコラボレーションアルバムとなる「ラヴ・ディス・ジャイアント」を経てリリースした通算4作目のアルバム「セイント・ヴィンセント」は全米アルバムチャートで最高12位、第57回グラミー賞では最優秀オルタナティヴミュージックアルバム賞を受賞した。

アルバムからのリードシングルとしてリリースされたこの楽曲は、ミニマルでファンキーなサウンドにのせて、現代社会のソーシャルネットワーキングサービス依存症的な状況について風刺的に歌っているところが特徴であり、そこにはトーキング・ヘッズ的な批評性が感じられたりもする。

不安神経症的で不健全な中毒性に感覚が麻痺していくような感じをヴィヴィッドに表現することによって、社会的な病理のようなものを浮き彫りにしているようでもあるのだが、そのなれの果てがどのようなものであるかについては、この楽曲のミュージックビデオがより掘り下げているようにも感じられる。

Future Islands, ‘Seasons (Waiting on You) ’

アメリカはメリーランド州ボルチモア出身のシンセポップバンド、フューチャー・アイランズが4作目のアルバム「シングルス」からのリードシングルとしてリリースした楽曲で、ピッチフォークメディアやNMEなど様々なメディアにおいて、この年の年間ベストソングに選ばれている。

アメリカの人気深夜トークバラエティ番組「レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターメン」に出演したときのエモーショナルなパフォーマンス映像が評判となり、再生されまくることによって話題となった。

季節の移り変わりと愛のゆくえを重ね合わせた内容の楽曲を、クールなシンセサウンドにのせてやたらと熱く歌いまくっているのが特徴であり、そこに心を動かされたリスナーも少なくはなかったようだ。

Alvvays, ‘Archie, Marry Me’

カナダのインディーポップバンド、オールウェイスのデビューアルバム「オールウェイス」からのリードシングルである。バンド名のスペルがなぜAlwaysではなくAlvvaysなのかというと、Alwaysというバンドがすでに存在していたかららしい。

インディーポップクラシックと呼んでも差しつかえがないレベルでこういったタイプの音楽としては驚異的なクオリティのこの楽曲がテーマにしているのは、結婚といういにしえからの風習に対しての疑問であり、経済的な問題にまで言及しているところが現在的であるようにも感じられる。

ミュージックビデオはリリース当時においてもあえてレトロに感じられる粗い映像となっているのだが、エバーグリーンな輝きを持ったこの楽曲には実にふさわしいということができる。

FKA twigs, ‘Two Weeks’

FKAツイッグスのデビューアルバム「LP1」からリードシングルとしてデジタルリリースされた楽曲である。ユニークなシンセサウンドとマイルドに官能的でもあるファルセットボイスが特徴であり、批評家などから絶賛されがちであった。

どこか幻想的でもあるサウンドスケープにおいて、「私は彼女よりも上手にあなたとファックできる」というようなそのものズバリの言葉によって、すでに恋人がいる相手のことを熱烈に誘惑している。

クールでエクスペリメンタルなムードとプリミティブでエモーショナルな欲望とが高いレベルでミックスされたような、とてもユニークな楽曲である。

Perfume Genius, ‘Queen’

シアトルを拠点として活動するアーティスト、マイク・ハドレアスによるソロプロジェクトがパフューム・ジーニアスで、この楽曲は3作目のアルバム「トゥー・ブライト」からのリードシングルである。

マイク・ハドレアスが現実的に経験したいわゆるゲイパニックに対する抵抗であり、ゲイに対して投げかけられがちな侮蔑的な言葉の数々をむしろ誇るべきものとして表現することによって、最高のゲイアンセムを成立させているということができる。

Taylor Swift, ‘Blank Space’

テイラー・スウィフトの5作目のアルバム「1989」から2作目のシングルとしてリリースされた楽曲である。ポップでキャッチーな「シェイク・イット・オフ」に続いて、この楽曲も全米シングルチャートで1位に輝いた。

マスメディアによってつくりあげられたテイラー・スウィフトの恋多き女性のイメージを逆手に取って、「かつての恋人たちの長いリストがある、彼らは私のことを狂っているというだろう」などと歌った後で、「そのリストには空白のスペースがあって、ベイビー、そこにあなたの名前を書くわ」というような最高のパンチラインを繰り出してもいる。その直前にペンを1回鳴らす音が効果的に用いられているところなどもとても良い。

コンテンポラリーでヒップホップ的でもあるサウンドにのせて、「ダーリン、私は白昼夢のような格好をした悪夢よ」などとさり気なく歌っていたりもする、ブラックジョークのようでありながらカジュアルなサイコパス性をも感じさせる素晴らしい楽曲である。

Mark Ronson, ’Uptown Funk (feat. Bruno Mars) ’

イギリスの売れっ子音楽プロデューサー、マーク・ロンソンがブルーノ・マーズをフィーチャーしてリリースしたシングルで、全米シングルチャートで歴代2位タイとなる14週連続1位を記録するなど、各国でヒットしまくり、第58回グラミー賞では最優秀レコード賞を受賞した。

ディスコクラシックス的な楽しさを現代的にアップデートしたようなファンキーな楽曲で、理屈抜きでカジュアルにノリまくることができる。トリニダード・ジェームズ「オール・ゴールド・エヴリシング」、ギャップ・バンド「ウープス・アップ・サイド・ユア・ハンド」が引用されているとされたため、ロイヤリティは多くのソングライターたちによって分配されることになった。