洋楽ロック&ポップス名曲1001:1994, Part.1

Beastie Boys, ‘Sabotage’

ビースティ・ボーイズの4作目のアルバム「イル・コミュニケーション」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高19位を記録した。

この頃になると初期のサンプリングを多用した作風から、楽器の演奏を用いた音楽制作スタイルにシフトしてきていたのだが、この楽曲もまずはMCAが思いついた魅力的なベースラインがはじめにあり、それにマイクDのドラムスとアドロックのギターとを加えたインストゥルメンタル曲ができあがった。

アルバムのレコーディングスタジオにはバスケットボールやスケートボードで遊べる設備も整っていて、なかなか生産的には進んでいなかったことにプロデューサーのマリオ・カルダードは苦言を呈していたのだが、それがグループの創造性を阻害する行為だとして、この曲の歌詞が生まれた。

ロックバンド的な演奏にターンテーブルのスクラッチなどヒップホップ的な要素も入っているところが、サウンド的にはユニークである。また、スパイク・ジョーンズが監督をしたミュージックビデオは70年代刑事ドラマのパロディーのようでもあり、これも評判がかなりよかった。

Green Day, “Basket Case”

グリーン・デイのメジャー移籍後最初のアルバム「ドゥーキー」からシングルカットされ、全米エアプレイチャートで最高26位、全英シングルチャートで最高7位を記録し、バンドの知名度を大きく上げるきっかけになった楽曲である。

ポップパンクなどと呼ばれる文字通りポップでキャッチーなパンクロックなのだが、歌われている内容はリードボーカルのビリー・ジョー・アームストロングが実際に経験したパニック障害についてであった。

メンタルヘルスの問題を特にこのようなタイプの楽曲で取り上げるのは、当時としてはかなり画期的であり、後の世代にあたえた影響もひじょうに大きい。

精神病院を舞台にしたミュージックビデオは当時のMTVなどでよくオンエアされていたが、ジャック・ニコルソンが主演した映画「カッコーの巣の上で」へのオマージュになっている。

Pavement, “Cut Your Hair”

ペイヴメントの2作目のアルバム「クルーキッド・レイン」からリードシングルとしてリリースされ、全米モダンロックトラックスチャートで最高10位、全英シングルチャートで最高52位を記録した。

カリフォルニア州出身のオルタナティブロックバンドで、ローファイと呼ばれがちなサウンドやペーソスのあるボーカルなどでカルト的な人気を獲得した。

楽曲としてのクオリティに定評があるのは同じアルバム収録曲でも「ゴールド・サウンズ」などであることには間違いがないのだが、ノベルティーソング的ともいえるほどキャッチーに振り切ったこの楽曲にこそポップミュージックとしての一瞬のキラメキが感じられる。

ミュージックビジネスにおけるイメージ戦略の重要性について皮肉っぽく歌った楽曲であり、ニルヴァーナ以降のオルタナティブロックのメインストリーム化が急速に進行していた頃の気分を反映しているようにも聴こえる。

Primal Scream, “Rocks”

プライマル・スクリームのアルバム「ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高7位を記録した。

1970年代のローリング・ストーンズなどクラシックロックからの影響が感じられるタイプの楽曲で、プロデューサーにアトランティック・レコードで数々のロック名盤にたずさわったトム・ダウドを起用していることからもその意図は明白であった。

とはいえ、こういったタイプの音楽は当時のトレンドとはほとんど無関係であり、しかもダンスミュージックなどの要素を取り入れた前作アルバム「スクリーマデリカ」を絶賛していたリスナーや批評家にとってはやや退屈にも感じられた。

しかし、時が流れ当時を扱ったNetflixのドラマシリーズなどでこの曲が使われているのを聴くと、これもまたあの頃を象徴するヒットソングだったのだということを実感させられる。そして、この曲のコンセプトがそうであるように、純粋にピュアなロックンロールミュージックとしてご機嫌なのである。

Blur, “Girls & Boys”

ブラーの3作目のアルバム「パークライフ」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高5位を記録した。これはこの時点においてブラーが記録した歴代最高位であり、トップ10にランクインするのは1991年の「ゼアズ・ノー・アザー・ウェイ」以来、約3年ぶり2曲目であった。

要はそれまでは停滞していたのと、もしかすると一発屋で終わるかもしれないとさえ思われていた。それが1993年のアルバム「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」の誇張しすぎた古き良きイギリス路線が高評価を得て復活の兆しを見せた。そして、次にリリースされたのがこのシングルであった。

ニューウェイブとディスコポップの融合とでもいうべき音楽性はブロンディ「ハート・オブ・グラス」などを思わせもしたのだが、一年前にはスーツとドクターマーチンのブーツでノスタルジックなロマンティシズムのようなものを体現していたのが、スポーティでフットワークも軽快にカジュアルセックス推奨的なポップソングを歌っているところにたまらない良さを感じたりもした。

Soundgarden, “Black Hole Sun”

シアトル出身のオルタナティブロックバンド、サウンドガーデンの4作目のアルバム「スーパーアンノウン」から3作目のシングルとしてカットされ、全英シングルチャートで最高12位を記録した。アメリカでは全米アルバムロックトラックスチャートで1位に輝いている。

当時のアメリカのオルタナティブロック界隈ではアルバムのセールスを伸ばすためにシングルカットをあえてしない、ということがよく行われていて、この楽曲みついてもおそらくはその一例なのだが、アルバム「スーパーアンノウン」は全米アルバムチャートで1位を記録している。

ニルヴァーナの規格外的な大ブレイクによって、アメリカではオルタナティブロックバンドのメインストリーム化が進行していったのだが、その多くはグランジロックと呼ばれる陰鬱なテーマをラウドでヘビーな演奏にのせて歌うようなものであった。

サウンドガーデンもまたそういったタイプのバンドにカテゴライズされがちではあったのだが、この楽曲はビートルズ的ともいえるポップでキャッチーなメロディーが際立っていて、より幅広いリスナーからの支持を獲得したのみならず、モダンクラシックとしての評価も定着している。

Nine Inch Nails, “Closer”

ナイン・インチ・ネイルズの2作目のアルバム「ダウンワード・スパイラル」から2作目のシングルとしてカットされ、全米シングルチャートで最高41位、全英シングルチャートでは最高25位を記録した。

イギー・ポップ「ナイトクラビング」からサンプリングしたドラムループをベースにしたミニマルでファンキーなサウンドにのせて、自己嫌悪や強迫観念について歌われているのだが、インダストリアルロクでありながらクラフトワークやプリンスにも通じるポップ感覚が感じられ、それゆえに「アニマルのようにあなたをファックしたい」というようなフレーズもまるで少し過激なラブソングのように聴こえたりもする。

Warren G featuring Nate Dogg, “Regulate”

ウォーレン・Gのアルバム「レギュレイト・・・Gファンク・エラ」からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高2位、全英シングルチャートで最高5位のヒットを記録した。映画「ビート・オブ・ダンク」のサウンドトラックにも使われていた。

ウォーレン・Gはドクター・ドレーの義理の弟にあたり、この楽曲でコラボレーションしているネイト・ドッグとはかつてスヌープ・ドッグと共に活動していたこともある。

ギャングスタラップではあるのだが、サンプリングされているのがAORの名曲として知られるマイケル・マクドナルド「アイ・キープ・フォーゲッティン」であることも話題になった。

The Notorious B.I.G. “Juicy”

ノトーリアス・B.I.G.のデビューアルバム「レディ・トゥ・ダイ」からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高27位を記録した。

エムトゥーメイの1983年のヒット曲「ジューシー・フルーツ」をサンプリングしたトラックにのせて、無一文から成り上がった自身のサクセスストーリーが語られている。

BBCミュージックが2019年に行った投票では、パブリック・エナミー「ファイト・ザ・パワー」を抑えてこの曲が1位に選ばれていた。