洋楽ロック&ポップス名曲1001:1991, Part.2

Saint Etienne, ‘Nothing Can Stop Us’

セイント・エティエンヌの3作目のシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高54位、全米ダンスクラブソングチャートでは1位を記録した。

ボブ・スタンリーとピート・ウィッグスによって結成されたセイント・エティエンヌは当初、ボーカリストを固定していなかったのだが、この楽曲で初めて参加したサラ・クラックネルがパーマネントなメンバーとして定着することになった。

ダスティ・スプリングフィールド「アイ・キャント・ウェイト・アンティル・アイ・シー・マイ・ベイビーズ・フェイス」からのサンプリングを効果的に用いたこの楽曲には、60年代のポップ感覚を90年代のテクノロジーでアップデートしたようなところもあり、キュートなボーカルもマッチしていた。

この曲も収録したデビューアルバム「フォックスベース・アルファ」はお洒落なジャケットアートワークも含め、日本では「渋谷系」的な音楽リスナーたちからもひじょうに人気があった。

Primal Scream, ‘Higher Than the Sun’

プライマル・スクリームのアルバム「スクリーマデリカ」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高40位を記録した。

アンビエントハウスユニットのジ・オーブとコラボレートした楽曲で、薬物によるトリップが知覚の扉を開くというような、エクスタシーという名のスマートドラッグ讃歌のような内容になっている。

当時、ボビー・ギレスピーはこの楽曲がそれほどヒットしないであろうことは分かっていたのだが、1つのステイトメントとしてシングルでリリースしたという。

インディーポップ時代のリスナーの中には確かに戸惑いを覚える人たちも少なくはなかったが、一方で「NME」で年間ベストシングルに選ばれるなど、その革新性が高く評価されてもいた。

Geto Boys, ‘Mind Playing Tricks on Me’

ゲトー・ボーイズのアルバム「ウィ・キャント・ビー・ストップド」からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高24位を記録した。

アイザック・ヘイズのインストゥルメンタル曲「ハング・アップ・オン・マイ・ベイビー」をサンプリングしたこの楽曲は、パラノイアや鬱状態といった精神的な暗黒面を追求した点において、当時のギャングスタラップとしてはエポックメイキングだったのだが、内容はほとんどがリーダーであるスカーフェイスの実体験に基づくものであった。

メンバーのブッシュウィック・ビルが当時、17歳のガールフレンドと口論の末、目を撃たれて負傷したのだが、そのときの写真がアルバムジャケットに使われたことも話題になり、リアルにヤバめなイメージを強化することになった。

Pearl Jam, ‘Alive’

パール・ジャムのデビューシングルで、全米シングルチャートにはランクインしなかったが、アルバムロックトラックスチャートで最高16位、モダンロックトラックスチャートで最高18位、全英シングルチャートでは最高16位を記録した。

バンドのボーカリストが決まる以前にインストゥルメンタル曲としてギタリストのストーン・ゴッサードによって書かれ、後にボーカリストとして加入するエディ・ヴェダーが歌詞を付けた。

ずっと父親だと思っていた人物が実は継父であり、実の父親は死んでいることを知った少年をテーマにした歌詞は、エディ・ヴェダーの実体験に基づいている。

この曲を収録したデビューアルバム「ten」は全米アルバムチャートで最高2位のヒットを記録し、同じくシアトル出身のニルヴァーナと共にグランジロックブームを盛り上げ、オルタナティブロックのメインストリーム化において大きな役割を果たすことになった。

Right Said Fred, ‘I’m Too Sexy’

ライト・セッド・フレッドのデビューシングルで全英シングルチャートで最高2位、全米シングルチャートでは1位の大ヒットを記録した。

当初はよりロック的な楽曲として制作されていたようなのだが、ダンスポップとして生まれ変わることによって、ノベルティソング的でもあるキャンピーな魅力がその真価を発揮した。

とはいえ、ギターリフはジミ・ヘンドリックス「サード・ストーン・フロム・ザ・サン」から引用されてもいて、遺産相続人から法的措置を取ると脅されたりもしていた。

イギリスではヘヴンリー・レコーズに所属するマニック・ストリート・プリーチャーズ、セイント・エティエンヌ、フラワード・アップがそれぞれ別々のライト・セッド・フレッドの楽曲をカバーしたEPをリリースしたり、シングル「ディープリー・ディッピー」が全英シングルチャートで1位に輝いたりもしていたのだが、アメリカではワンヒットワンダー(一発屋)扱いが定着しているようである。

Metallica, ‘Enter Sandman’

メタリカのアルバム「メタリカ」(通称「ブラック・アルバム」)からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高16位、全英シングルチャートで最高5位を記録した。

ジェームス・ヘットフィールドによる歌詞はサンドマンが登場するファンタジックでホラー要素も強いものだったのだが、乳幼児突然死を扱っているなどやり過ぎなところもあったことから、よりマイルドに書き直されている。

イントロのギターリフはカーク・ハメットがサウンドガーデン「ラウダー・ザン・ラヴ」にインスパイアされてつくったものだが、ハードロックやヘヴィメタルの範疇に留まらぬエバーグリーンなロイッククラシックを象徴するフレーズとして広く知られるようになっていった。

Pavement, ‘Summer Babe’

ペイヴメントのデビューシングルで、ボーカルが若干異なるバージョンが、後にアルバム「スランティッド・アンド・エンチャンテッド」に収録された。

アメリカ出身のバンドによるオルタナティヴロックではあるのだが、グランジロックとはまた違っていて、ローファイなどと呼ばれたりもする独特な感じが高く評価された。

デビュー当初はザ・フォールからの影響なども指摘されていたのだが、後にブリットポップから脱却しようとしていた頃のブラーにも影響をあたえる。

Naughty by Nature, ‘O.P.P.’

ノーティ・バイ・ネイチャーのアルバム「ノーティ・バイ・ネイチャー」からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高6位、全英シングルチャートで最高35位を記録した。

ジャクソン5の大ヒット曲「ABC」を大胆にサンプリングしたこの楽曲は、いわゆる浮気をテーマにしていて、タイトルの「O」はother、「P」はPeople’s、もう1つの「P」はおそらく仔猫が転じて女性器をも意味する単語の略だと思われる。そして、「Down with O.P.P.」はちょっとした流行語にもなった。

何はともあれ、この深刻ぶりながらもカジュアルなテーマがポップソングの題材となり、しかもそれがヒットしたというのはなかなか良い話なのではないかというような気もして、ポップミュージックというものが一般大衆の潜在的な欲望を顕在化する機能を持っている真実を可視化しているという点において、ひじょうに興味深いともいえる。

Pearl Jam, ‘Jeremy’

パール・ジャムのアルバム「ten」からシングルカットされ、全米モダンロックトラックスチャートとアルバムトラックスチャートで最高5位、全英シングルチャートで最高15位を記録した。

エディ・ヴェダーによる歌詞は自分をいじめた生徒たちに復讐するために学校で自殺した少年をテーマにしていて、1991年にテキサス州の高校で実際に起こった事件に基づいている。

この歌詞の内容を反映したミュージックビデオはMTVビデオミュージックアワードで4部門を受賞して、今日ではYouTubeにもアップロードされているのだが、年齢制限が設けられている。