洋楽ロック&ポップス名曲1001:1981, Part.1

Phil Collins, ‘In the Air Tonight’

フィル・コリンズのソロデビューシングルで、全英シングルチャートで最高2位、全米シングルチャートで最高19位を記録した。邦題は「夜の囁き」である。

ジェネシスの楽曲として当初は書いたのだが、バンドの楽曲にしてはシンプルすぎるのではないかなどの理由からソロアーティストとしてレコーディングすることになったようだ。

この楽曲にはフィル・コリンズの妻との離婚を原因とする怒りの感情が反映しているということなのだが、音楽的には3分40秒あたりからの激しいドラムプレイが印象的である。

人気テレビシリーズ「特捜刑事マイアミ・バイス」の第1話で使われたことによって、さらに人気が高まっていった。また、エミネムの2000年のヒット曲「スタン」の歌詞がこの曲に言及している。

Yoko Ono, ‘Walking on Thin Ice’

ヨーコ・オノが1981年にリリースしたシングルで、全米シングルチャートで最高58位、全英シングルチャートで最高35位を記録した。

ディスコニューウェイヴ的なサウンドにのせて生と死がいかに予測不可能なものであるかについて歌うヨーコ・オノのバックで夫のジョン・レノンはリードギターを弾いている。

この曲のレコーディングを終えて自宅に戻ったときに、ジョン・レノンはファンを名乗る男によって射殺されることになる。

2003年にはペット・ショップ・ボーイズやフェリックス・ダ・ハウスキャットらによるリミックスを収録したマキシシングル、2013年にはデイヴ・オーデ、エムジェ、ラルフィ・ロザリオによるリミックスバージョンによって全米ダンスクラブプレイチャートの1位に輝いている。

Kim Carnes, ‘Bette Davis Eyes’

ジャッキー・デシャノンが1975年にリリースしたアルバム「ニュー・アレンジメント」に収録されていた楽曲のキム・カーンズによるカバーバージョンで、全米シングルチャートで通算9週1位、全英シングルチャートで最高10位を記録した。

キム・カーンズはフォークグループ出身で、ケニー・ロジャースとのカントリーポップ的なデュエットソング「荒野に消えた愛」をヒットさせたりもしていたのだが、ハスキーなボーカルが特徴であり、ニューウェイブ的なこの楽曲にもハマっていた。

タイトルと歌詞に名前が入っているベティ・デイヴィスはハリウッドの演技派女優で、ニューイングランド訛りと魅力的な瞳で有名であった。この曲がヒットしていたときには孫娘が自分のことを歌ったヒット曲を聴いて祖母である自分のことをクールだと思ってくれたということで、キム・カーンズとソングライターに感謝の手紙を書いている。

グラミー賞では最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞の主要2部門を受賞し、80年代のアメリカではオリヴィア・ニュートン・ジョン「フィジカル」、ダイアナ・ロス&ライオネル・リッチー「エンドレス・ラヴ」に次いで、3番目に売れたシングルとなっている。

Grace Jones, ‘Pull Up to the Bumper’

グレイス・ジョーンズのアルバム「ナイトクラビング」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高53位を記録したが、1986年に再発された際には最高位を12位に更新している。全米ダンスクラブプレイチャートでは7週連続2位を記録した。

ジャマイカ出身のグレイス・ジョーンズはファッションモデルとして活躍し、アンディ・ウォーホルとの親交で知られたり、日本では三宅一生のファッションショーに出演したりもしていたのだが、音楽アーティストとしてもレゲエとニューウェイヴをミックスしたような音楽性で高く評価されていた。

この曲は歌詞に性的なほのめかしが含まれていることなどから、ラジオでのエアプレイが制限されたりもしていたのだが、イギー・ポップのカバーをタイトルにしたアルバム「ナイトクラビング」は「NME」で年間ベストアルバムに選ばれるなど好評であった。

The Psychedelic Furrs, ‘Pretty in Pink’

サイケデリック・ファーズのアルバム「トーク・トーク・トーク」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高43位を記録するが、1986年公開の映画「プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角」のサウンドトラックに収録された再録バージョンが全英シングルチャートで最高18位を記録した。全米シングルチャートでは最高41位と惜しくもトップ40入を逃している。

歌詞には何人もの男性と寝ていると思われるキャロラインという女性が登場するが、彼女はサイケデリック・ファーズのデビューアルバムに収録されていた「インディア」で歌われているのと同じ人かもしれない。つまり、インスタントな性愛にまつわる虚しさやほろ苦さのフィーリングも含まれているように感じられるのだが、よりポップでキャッチーな再録バージョンではその絶妙に微妙なニュアンスがあえてかき消されているかもしれない。

「プリティ・イン・ピンク/恋人たちとの街角」と同じくジョン・ヒューズが脚本を書いた映画「ブレックファスト・クラブ」の主題歌として大ヒットしたのがシンプル・マインズ「ドント・ユー?」だが、ソングライターの1人であるキース・フォーシーが「プリティ・イン・ピンク」の再録バージョンにかかわってもいる。

The Specials, ‘Ghost Town’

スペシャルズが1981年6月にリリースしたシングルで、全英シングルチャートで1位に輝いた。

当時のイギリスの不況を反映したダークで不穏なムードが歌詞やサウンドにあらわれているが、実際にはメンバーのジェリー・ダマーズがバンドの崩壊に触発されて書いたものである。

この曲はイギリスで大ヒットしたのみならず、「NME」「メロディー・メイカー」「ザ・サウンド」という当時のイギリスの3大音楽誌すべてにおいて、年間ベストシングルに選ばれた。

この後でザ・スペシャルズからはテリー・ホール、ネヴィル・ステイプル、リンヴァル・ゴールディングが脱退し、ファン・ボーイ・スリーを結成することになる。

The Go-Go’s, ‘Our Lips Are Sealed’

ゴーゴーズのデビュー・アルバム「ビューティ・アンド・ザ・ビート」から先行シングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高20位を記録した。邦題は「泡いっぱいの恋」である。

メンバーのジェーン・ウィードリンと、ザ・スペシャルズ〜ファン・ボーイ・スリーのテリー・ホールによる共作曲である。ゴーゴーズはザ・スペシャルズのツアーでサポート・アクトを務めたことがあり、そこから交流がはじまったという。

1983年にはファン・ボーイ・スリーによるバージョンもリリースされ、全英シングルチャートでは最高10位とゴーゴーズのバージョン以上のヒットを記録している。

ゴーゴーズはこの次のシングル「ウィ・ガット・ザ・ビート」が全米シングルチャートで最高2位、「ビューティ・アンド・ザ・ビート」が全米アルバムチャートで1位とメジャーに大ブレイクし、話題のガールズバンドとして大注目される。解散後はベリンダ・カーライルがソロアーティストとして売れたりもしていた。