ビヨンセ、6年ぶりのアルバム「ルネサンス」をリリース
ビヨンセの最新アルバム「ルネサンス」が、2022年7月30日にリリースされた。前作「レモネード」以来、6年ぶりということなのだが、それほど久しぶりという感じもしない。「レモネード」以降にジェイ・Zとの夫婦ユニット、ザ・カーターズ名義でのアルバムやライヴ・アルバム、「ライオン・キング」のサウンドトラック、さらにはミーガン・ジー・スタリオンのヒット曲「サヴェージ(リミックス)」への参加などもあったからかもしれない。妹のソランジュもこの間に2作のとても良いアルバムをリリースしていた。
それにしても、いかにもビッグ・アーティストによるビッグ・リリースという感じでひじょうに盛り上がりはしてしまうのだが、内容は期待を大きく上回るものだということができる。16曲収録で約1時間2分と、最近のアルバムとしては長い方なのだが、バラエティーにとんでいるうえにクオリティーがひじょうに高いため、冗長に感じるこちょはない。BLM運動の活発化や新型コロナウィルスの感染拡大などがこの間の大きなトピックではあり、ポップ・ミュージックもこれらの現象とまったく無関係ではいられない。新しいスターが次々と世に出てきたりもしたわけだが、ビヨンセがニュー・アルバムをリリースすることのフレッシュさはまったく色褪せていない。というか、むしろ昨今のムードにハマるようなタイプの音楽をビヨンセはそもそもやっていたわけで、そういった意味ではベストなタイミングのように思えなくもない。
夏の真っ盛りにリリースされたのもとても良いことで、基本的に開放的なトーンのこのアルバムはアウトドアで聴くのにふさわしいともいえるし、コロナ以降(とはいえない状況にはまたなってきているが)の気分にも合っているように思える。先行シングルの「ブレイク・マイ・ソウル」がハウス・ミュージック的だったことにより、アルバムも基本的にはダンス・ミュージック的なものになっているのではないか、というような気もしたのだが、結果的に確かにそういった側面もあるが、それだけではない、というようなものであった。
ネオ・ソウル的なアプローチの曲もあれば、アグレッシヴなビートが激しい曲もある。曲と曲との間がひじょうに短く、ノンストップ・ミックス的とまではいかないが、それに近いようなノリも感じられる。ソウル、R&B、ディスコ、ヒップホップ、ハウス、アフロビートといった音楽ジャンルの様々なパターンが、独自の感覚で組み合わされている。アルバムの最後の方ではジョルジオ・モロダー的というか、ドナ・サマー「アイ・フィール・ラヴ」そのものが引用されていたりもする。「サマー・ルネサンス」という曲名における「サマー」は夏という意味ばかりではなく、ドナ・サマーのこともあらわしているように思える。
メインストリームど真ん中のポップスとしての強度がバッキバキでありながらも、随所に実験性が感じられもして、格の違いを見せられたりもする。ディスティニー・チャイルドで数々のヒットを記録し、ソロ・アーティストとして「クレージー・イン・ラヴ」を大ヒットさせたのが2003年ということで、それからすでに19年が経過しているわけである。つまり、大ベテランだということができるのだが、その間ずっと第一線で活躍し続けていて、さらに時代のトレンドを取り入れたりもしながら、音楽的なクオリティーは高め続けているというとてもすごいことをやっているわけである。
ライト・セッド・フレッド「アイム・トゥー・セクシー」や、フージーズ「フー・ジー・ラ」でもサンプリングされていたティーナ・マリー「ウー・ラ・ラ・ラ」のフレーズが出てきたりもして楽しい。プロデューサーとしていろいろな人たちがかかわっていることが、このアルバムのバラエティーにとんだ感じにつながってもいると思うのだが、スクリレックスとA.G.クックは宇多田ヒカル「BADモード」にもかかわっていた。
性的マイノリティや、その他の個性的でユニークな人たちの存在に寄り添う姿勢というのははっきりと提示されていて、それがマイルドに進行するファシズムにたいするカウンターにもなっている。そして、このアルバムは3部作のうちの1作目ということであり、この先さらにリリースが続くようである。