ケイト・ブッシュの名曲ベスト10

ケイト・ブッシュは1958年7月30日にロンドンで生まれ、10歳ぐらいの頃からピアノやヴァイオリンを習ったり、詩を書いたり聖歌隊で歌うなど、アーティスティックな活動を行っていたという。その後、兄などと共にバンドを結成し、パブで演奏したりデモテープをつくったりするのだが、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアに見いだされたのがきっかけで19歳でソロ・アーティストとしてデビューすることになった。デビュー・シングルがいきなり全英シングル・チャートで4週連続1位の大ヒットを記録し、大きな注目をあつめることになる。その後もユニークで素晴らしい作品を次々と発表し続け、ポップ・ミュージック史上偉大なアーティストの1人として認知され、2013年には大英国勲章も叙勲することになった。そして、2022年にはあるきっかけによって空前のリバイバルが起こることになるのだが、それについては後ほどまた取り上げていきたい。

という訳で、これから新たにケイト・ブッシュの音楽をちゃんと聴いてみようかと思うような人たちも増えていそうなタイミングなのだが、今回は特にこれは名曲なのではないかと思える10曲を挙げていきたい。

1. Running Up That Hill (1985)

ケイト・ブッシュの5作目のアルバム「愛のかたち(原題:Hounds Of Love)」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで最高3位、全米シングル・チャートでは最高30位で初のトップ40入りを果たした曲である。当時からヒットしていたのみならず、「NME」の年間ベスト・シングルでジーザス&メリー・チェイン「ネヴァー・アンダースタンド」「ジャスト・ライク・ハニー」に次ぐ3位に選ばれるなど(4位はザ・スミス「ハウ・スーン・イズ・ナウ」であった)、高い評価も受けていた。2012年にはロンドン・オリンピックの閉会式で使用されたことによって、全英シングル・チャートで最高6位を記録しているが、さらに2022年にはNetflixの人気シリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」で効果的に仕様されたことによって、全英シングル・チャートでケイト・ブッシュにとっては1978年の「嵐が丘」以来となる1位、全米シングル・チャートでは最高3位と、リリース時を上回るヒットを記録することになった。フェアライトCMIやリン・ドラムといった当時、最先端の電子楽器を使用した80年代的なサウンドと、ケイト・ブッシュのエモーショナルな歌唱が絶妙なマッチングを実現している。邦題は「神秘の丘」である。

2. Wuthering Heights (1978)

ケイト・ブッシュの記念すべきデビュー・シングルで、いきなり全英シングル・チャートで4週連続1位を記録した。エミリー・ブロンテの小説「嵐が丘」がドラマ化されたものをBBCテレビで見た当時は18歳のケイト・ブッシュが、それにインスパイアされてつくった曲だといわれている。デビュー・アルバム「天使と小悪魔(原題:The Kick Inside)」にも収録された。女性アーティストが自作の曲で全英シングル・チャートの1位を記録したのは、この曲が初めてだったという。日本ではバラエティ番組「恋のから騒ぎ」のオープニングテーマとしても知られる。1986年にベスト・アルバム「ケイト・ブッシュ・ストーリー(原題:The Whole Story)」が発売された際には、ボーカルを録りなおした「嵐が丘’86」が収録された。

3. The Man With The Child In His Eyes (1978)

デビュー・アルバム「天使と小悪魔」から4枚目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高6位を記録した。邦題は「少年の瞳を持った男」である。ケイト・ブッシュが13歳の頃につくり、16歳の時にレコーディングされたといわれている。曲の題材とされている人物について、ケイト・ブッシュ自身から明かされたことはなく、長らくデヴィッド・ギルモアのことなのではないかとも思われていたのだが、現在ではケイト・ブッシュの最初の恋人であったスティーヴ・ブラックネルのこととする説が有力である。

4. Cloudbusting (1985)

アルバム「愛のかたち」から2枚目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高20位を記録した。レーベルは「神秘の丘」よりもこの曲を先行シングルにしたかったようである。心理学者、ヴィルヘルム・ライヒの息子、ピーター・ライヒが父との思い出などを綴った書籍「ブック・オブ・ドリームス」を読んで感銘を受けたケイト・ブッシュがそれをテーマにした曲としてつくったようだ。クラウドバスターは、ヴィルヘルム・ライヒが気候を人為的に操ることを目的に開発したマシンのようである。ミュージック・ビデオはジュリアン・ドイルという人物によって監督されているが、実はテリー・ギリアムとケイト・ブッシュだといわれている。

5. Hounds Of Love (1985)

アルバム「愛のかたち」のタイトル曲で、3枚目のシングルとしてカットもされている。全英シングル・チャートでの最高位は18位であった。恋におちることにたいする恐怖心を猟犬の群れに追いかけられている状態にたとえている。ミュージック・ビデオはケイト・ブッシュ自身によって監督され、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画「三十九夜」にインスパイアされている。2004年にイギリスのインディー・ロック・バンド、ザ・フューチャーヘッズによってカバーされ、全英シングル・チャートで最高8位とオリジナルを上回るヒットを記録している。

6. The Woman’s Work (1988)

ジョン・ヒューズ監督の映画「結婚の条件」のサウンドトラックに収録された後、アルバム「センシュアル・ワールド」から2枚目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高25位を記録した。映画では夫が妻の出産を不安そうに待つシーンで流れるのだが、この曲はあえてそのシーンを想定してつくられたものだという。その後もいくつかのテレビドラマで使われるなどして、ダウンロード回数が増えたりしているうちに、ケイト・ブッシュの代表曲の1つとして認知されるようにもなった。

7. Suspended In Gaffa (1982)

ケイト・ブッシュの4作目のアルバム「ドリーミング」に収録され、ヨーロッパのいくつかの国やオーストラリアなどではシングル・カットされたのだが、イギリスやアメリカではされていない。タイトルに入っている「Gaffa」というのは、撮影現場などで用いられる布製の粘着テープのことをあらわしている。一度は神の姿を確かに見たはずなのだが、それから二度と見ることができない、というようなことが歌われている。ミュージック・ビデオでは納屋のようなところで個性的なダンスを踊るケイト・ブッシュが見られてとても良い。

8. Wow (1978)

ケイト・ブッシュの2作目のアルバム「ライオンハート」から2枚目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高14位を記録した。ピンク・フロイドのような曲をつくろうとしたら、この曲ができたということである。歌詞はショービズ業界をテーマにしていて、個性的でありながら超キャッチーなサビがひじょうに印象的である。ミュージック・ビデオはケイト・ブッシュがワセリンのことを歌いながらヒップを叩くシーンが問題視され、BBCでは放送禁止だったという。

9. Babooshka (1980)

ケイト・ブッシュの3作目のアルバム「魔物語(原題:Never For Ever)」からの先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高5位のヒットを記録した。夫がどれだけ自分にたいして忠誠なのかを試してみたいと思った妻はある策略を思いつき、実行に移すのだが、その際に用いたペンネームがタイトルにもなっている「Babooshka」である。歌詞の内容を再現したミュージック・ビデオはケイト・ブッシュが1人2役を演じていて、なかなか見ごたえがある。

10. The Sensual World (1989)

「愛のかたち」が高い評価を得たのみならず、全英アルバム・チャートでも1位に輝いた翌年、ピーター・ガブリエルのアルバム「SO」に収録された「ドント・ギヴ・アップ」にデュエットで参加し、これも全英シングル・チャートで最高9位を記録した。さらにベスト・アルバム「ケイト・ブッシュ・ストーリー」も全英アルバム・チャートで1位とかなり好調であった。

ベスト・アルバムのリリースというのはキャリアにおける1つの区切りとしても見られがちだが、その後にリリースされたのが1989年の「センシュアル・ワールド」であり、英アルバム・チャートでは最高2位のヒットを記録した。この曲はアルバムのタイトル曲にして先行シングルで、全英シングル・チャートでは最高12位を記録した。当初は歌詞をジェイムス・ジョイスの小説「ユリシーズ」からの引用にするつもりだったのだが、許諾がおりなかったため断念された。その後、許諾がおりたので、2011年のアルバム「ディレクターズ・カット」に「フラワー・オブ・マウンテン」というタイトルで収録された。