The 10 essential LE SSERAFIM songs (LE SSERAFIMの10曲)

LE SSERAFIM(ルセラフィム)は韓国のSOURCE MUSICに所属する5人組ガールズグループで、(G)I-DLE(アイドゥル)、ITZY(イッチ)、aespa(エスパ)、IVE(アイヴ)、NewJeans(ニュージーンズ)らと共に、K-POP第4世代にあたる。

メンバーは韓国人のキム・チェウォン、ホン・ウンチェ、韓国系アメリカ人のホ・ユンジン、日本人のサクラ、カズハで、結成時にはキム・ガラムも所属していたのだが、1stミニアルバム「FEARLESS」をリリースした後に脱退している。

グループ名は「I’M FEARLESS」つまり「私は大胆不敵だ」のアナグラムで、グループのコンセプトもセルフエンパワメント的な力強いものになっている。ファンダムの名称はピオナ(FEARNOT)である。

22024年2月の時点で3作のミニアルバム、1作のフルアルバム、何作かの配信限定シングルをリリースしているのだが、今回はその中から特に重要なのではないかと思われる楽曲を10曲ピックアップし、なんとなく時系列で並べてみることによって、これまでの足跡をインスタントにたどれるような感じにもしていきたいと思う。

‘FEARLESS’ (2022)

記念すべきデビューミニアルバムのタイトルトラックであり、グループ名の由来でもある「FEARLESS」という状態がテーマになっている。

「Bam ba ba ba bam」というキャッチーなコーラスの繰り返しが印象的であり、過去の傷さえも自分らしさと捉えて果敢に前に進んでいこうというようなことが歌われている。「アクセルを踏んで highway」というフレーズに感じられる勢い、「欲を隠しなさい、そんなあなたの言葉は変」という明確なメッセージもはっきりと提示され、「Mmmm」「huh」といったハミングや相槌的なパートでさえ、この楽曲をより優れたポップソングにする上で効果的に機能している。

いうなれば鳴りもの入りでデビューした新しいグループのお披露目的な楽曲としては、それほど派手なところはないのかもしれないが、あえて本質的なところを押しだしてきたようにも思われ、それはじんわりと効いてきて、やがて日常の生活にも作用していることに気づかされる。

‘Blue Flame’ (2022)

デビューミニアルバム「FEARLESS」に収録された楽曲で、ショーケースライブでも披露されていた。グループのコンセプトは明確であり、それに見合う楽曲も提示されたのだが、これはよりシティポップならぬシティソウル的というのか、都会的な小洒落感に彩られ、アイドルポップ的なキューティーさも絶妙に注入されたタイプのとても良い曲である。

日本の「楽曲派」アイドルポップスファンにもウケそうなディスコファンク的な楽曲が心地よく、メンバーがとても楽しそうにパフォーマンスしがちなところもとても良い。

‘ANTIFRAGILE’ (2022)

2作目のミニアルバム「ANTIFRAGILE」のタイトルトラックである。「FEARLESS」のミュージックビデオのエンディングで「DO YOU THINK IM FRAGILE?」というセンテンスが表示されていて、実はこれが自作についての匂わせであったと気づかされる。

「FRAGILE」とは壊れやすいとか脆弱であるとかそういった意味の単語なのだが、この楽曲ではそれに対しての「ANTI」であるということが歌われているわけである。「Anti ti ti fragile」というフレーズが早くもキャッチーすぎてとにかく最高すぎるのはもちろん、「私の陰であれこれうるさい 私も初めて聞く私のrival」などとSNS時代におけるリアルな深刻なノイズに対しての態度に言及されているところがいかにも現在的だということができる。

高知県生まれ大阪育ちで3歳からバレエを習い、ヨーロッパにバレエ留学をも果たすのだが、将来に対して疑問をいだいていた頃に見たBLACKPINKのミュージックビデオやそれがきっかけで見にいったライブがきっかけでK-POP界に飛び込んだカズハが歌う「忘れないで 私が置いてきた toe shoes この一言に尽きる」、または熊本県出身で小学3年からミュージカルスクールに通い、地元で子役として活動した後にHKT48のオーディションに合格し、13歳でアイドルとしてデビュー、日本で最も有名なアイドルグループ、AKB48のシングル「君はメロディー」で単独センターまで務めるが、日韓共同アイドルグループI*ZONEのメンバーに抜擢され、活動を終了した後に自身最後のアイドルグループとの覚悟を決めてLE SSERAFIMの最年長メンバーとして活動しているサクラの「馬鹿にしないで 私が歩んできたキャリア」など、メンバーの生きざまを反映した歌詞もとても良い。

アップテンポでヘビーでもあるラテン的なリズムにのせて、傷を負えば負うだけ強くなるというようなことが歌われ、パフォーマンスにおいては力こぶをつくるような振り付けも印象的である。

‘Impurities’ (2022)

2ndミニアルバム「ANTIFRAGILE」に収録された楽曲だが、タイトルトラックとは打って変わってソフィスティケイトされたR&Bテイストが特徴となっている。

タイトルの「Impurities」とは不純物を意味し、たとえば女性アイドルといえば純粋さが求められたりすることもあるが、それに対する逆説のようにも感じられ、それは「ANTIFRAGILE」にも通じているように思える。

「落ちた一滴 drip 透明な私の中に混ざり入る」「欲を出す もっとlike a witch」「傷にまみれた堅固な不透明さ So natural 美しい」と歌われるように、たとえば過去に負った傷やそれによって損なわれた純粋さですら自分らしさであり、それは誇るべきものであるというようなメッセージが込められているようである。

‘No Celestial’ (2022)

2ndミニアルバム「ANTIFRAGILE」に収録されたポップパンク的な楽曲で、ギターロックサウンドが特徴となっている。

LE SSERAFIMのグループ名は「I’M FEARLESS」のアナグラムであるのと同時に、ヘブライ語で熾天使たちを意味してもいる。そして、この曲では「天使のような完璧さはさようなら」「偽りの翼 私の手で引き裂くわ」などと歌われ、「地に足をつける」という意味もある「down to earth」というフレーズが強調される。

つまり既成概念を押し付け、完璧さを求める社会に対してのレジスタンスであり、ポップパンク的なサウンドやシャウト気味にはじけるところもあるボーカルなどにも必然性が感じられたりする。

‘UNFORGIVEN’ (2023)

1stフルアルバム「UNFORGIVEN」のタイトルトラックで、元シックのギタリストで80年代にはマドンナやデヴィッド・ボウイなどのプロデューサーとしても活躍、2013年にはダフト・パンクの大ヒット曲「Get Lucky」への参加も話題になったナイル・ロジャースをフィーチャーしている。

「UNFORGIVEN」は「許されない」を意味する英語であり、クリント・イーストウッドが監督・主演した1992年の西部劇映画「許されざる者」の原題でもあるのだが、この楽曲ではやはり西部劇映画の傑作として知られる「続・夕陽のガンマン」のサウンドトラックからエンリオ・モリコーネによる挿入歌がサンプリングされている。

「UNFORGIVEN、私はその道を歩く」「君のgameで私は問題児、such a freak、厄介者」「私が大嫌いなのは古い踏襲」と、そのメッセージが明確に歌われている。そして、「unforgiven girls」だったり「unforgiven boys」であるファン(ピオナ)に対しては「私とあの向こうへ一緒に行こう」「私と線を越えて一緒に行こう」などと訴えかけている。

また、この楽曲の日本語バージョンには人気アーティストのAdoが参加してもいる。

‘Eve, Psyche & the Bluebeard’s wife’ (2023)

1stアルバム「FORGIVEN」に収録された楽曲で「I’m a mess mess mess mess mess mess mess」「Get it like boom boom boom」といった繰り返しを多用したフレーズやヘビーなサウンドなど、実に中毒性が高い。それまでLE SSERAFIMどころかK-POPそのものにそれほど興味がなかった音楽ファンがたまたま聴いたこの曲がきっかけでどっぷりとその世界にハマってしまったという例もいくつか存在する。

タイトルは「イブ、プシケ、そして青髭の妻」という意味で、それぞれ好奇心のあまりタブーを破った神話や童話に登場する女性たちのことである。「笑って笑ってもっと お人形さんになりなさい 伏せて伏せて感情なんて全部 嫌だ嫌だ 私はお人形さんじゃない」と、そのメッセージは一貫していて、終盤の「Girl wanna have fun (girl)」というフレーズにもつながってくる。

ダンスパフォーマンスもひじょうに印象的であり、一般人や他のK-POPグループメンバーなども巻き込んだダンスチャレンジがTikTokなどで盛り上がってもいた。

‘Perfect Night’ (2023)

英語詞の配信限定シングルで、ミュージックビデオはアクションゲーム「オーバーウォッチ2」のコラボレーションでもあった。

心地よい打ち込みサウンドを基調としたR&B的な楽曲はそれまでのLE SSERAFIMのイメージからするとライトウェイトにも感じられたのだが、これが聴けば聴くほどどんどん良くなるいわゆるスルメ曲的な魅力を発揮してもいて、高い支持を得たのであった。

気心の知れた友人たちと過ごす楽しい夜、つまりいわゆる良い感じを純粋に表現したポップソングだが、それでもそこにはシスターフッド的なメッセージ性が感じられたりもする。

‘EASY’ (2024)

3rdミニアルバム「EASY」のタイトルトラックである。英語詞の配信限定シングル「Perfect Night」的な路線もとても良かったのだがおそらく一時的なものだろうとも思っていたところ、これが出て実は布石だったかもしれないとなったりもした。

とはいえ、タイトルが「EASY」であるように聴き心地は良いのだが、トラップ的なビートを取り入れたヒップホップサウンドで実はかなり緻密なのではないかというような気も聴けば聴くほどしてきたりもする。そして、ゆるめだがキレキレのダンスパフォーマンスもクールで尊すぎる。

「怪我するとしても道を歩く kiss me 簡単じゃないなら私が簡単に easy」などと歌われ、音楽性やアプローチの方法はやや変わったかもしれないのだが、ミニアルバムのトレーラー的楽曲「Good Bones」で「世の中は誰にでも公平に醜い」と表現されているような現実を自分らしくサバイブしていこうというメッセージは一貫していて、その見せ方におけるこの時点での最新型ではないかというような気もしている。

‘Swan Song’ (2024)

3rdミニアルバム「EASY」に収録された楽曲で、リリースを記念したショーケース的なイベントでもライブパフォーマンスが披露された。

スワンは日本語では白鳥であるように一般的には白い鳥として知られているのだが、オーストラリアで黒いスワンが発見されたことによって、それまでの常識が覆されたのだという。このことから、確率論などを越えた驚くべき事象が人々に大きな影響をあたえることをブラックスワン現象というらしい。

この曲でLE SSERAFIMは自分たちをブラックスワンにたとえているのだが、それはバレエ「白鳥の湖」における悪役、オディールにもかかっていると思われ、「UNFORGIVEN」における「I’m a villain」つまり「私は悪役」というフレーズにもつながってくるような気がする。

しかし、この曲におけるLE SSERAFIMは多くの代表曲のように強気ではあまりなく、「たくさんの日々 たくさんの夜 たくさんの涙」や「いくら続けても大変な泳ぎ」について歌ったりもする。そして、「この歌を歌うとまたあれこれ言うのだろうけど 黙って私がやり遂げるのを見ていてよ」と軽く悪態をついたりもする。

しかし、そこに自己憐憫的な嘆き節のテイストはなく、とても美しいポップソングとして昇華されているところがとても良い。ステージパフォーマンスにおいては、カズハのバレエを取り入れた振り付けも1つの見どころとなっている。