洋楽ロック&ポップス名曲1001:1987, Part.1
Prince, ‘Sign O the Times’
プリンスのアルバム「サイン・オブ・ザ・タイムス」からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高3位、全英シングルチャートで最高10位を記録した。
ドラッグ、暴力、エイズといった当時のアメリカにおけるシリアスな社会問題、また、スペースシャトル事故が起こり、チャレンジャー号が爆発したにもかかわらず、人々は宇宙旅行に憧れをいだき続けていることなどについて言及した歌詞が注目された。
タイトルはイエスの再臨を待ち望む読者に喜びに満ちたクリスチャン生活を送るよう勧めるセブンスデー・アドベンチスト発行の雑誌に由来する。
Salt-N-Pepa, ‘Push It’
ソルト・ン・ペパーのシングル「トランプ」のB面に収録された楽曲のリミックスバージョンで、全米シングルチャートで最高19位、全英シングルチャートでは最高41位だったが、ネルソン・マンデラの70歳を祝うコンサートでパフォーマンスした後に最高位を2位に大きく更新した。
ヒップホップとダンスミュージックがミックスされたポップでキャッチーな楽曲で、歌詞にはザ・キンクス「ユー・リアリー・ガット・ミー」を参照した部分もあるため、レイ・デイヴィスがソングライターの1人としてクレジットされている。
性愛的なほのめかしをも含んだこの楽曲は、グループが本来やりたかった音楽とはやや異なっているため、メンバー自身はあまり気に入っていなかったということだが、大衆はこれを支持したのだった。
U2, ‘With or Without You’
U2のアルバム「ヨシュア・トゥリー」からのリードシングルで、全英シングルチャートで最高4位、全米シングルチャートで1位を記録した。
家庭的な生活とアーティストとしての活動の間に立たされたボノの深い苦悩が反映した楽曲であり、インフィニットサステインギターという新しい装置を実験的に用いたエッジによるギターサウンドが慟哭にも似た説得力をあたえている。
プロデューサーはアルバム「焔(ほのお)」に続いてダニエル・ラノワとブライアン・イーノだが、ミックスにはU2の初期の作品を手がけた売れっ子のスティーヴ・リリーホワイトを起用することによって、コマーシャル的なポテンシャルを高めている。
Whitney Houston, ‘I Wanna Dance with Somebody (Who Loves Me)’
ホイットニー・ヒューストンのアルバム「ホイットニーⅡ〜すてきなSomebody」からのリードシングルで、アメリカやイギリスをはじめ様々な国のシングルチャートで1位を記録した。
全米シングルチャートではデビュー・アルバム「そよ風の贈りもの」からシングルカットされた「すべてをあなたに」「恋は手さぐり」「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」に続き4曲連続1位を記録し、さらにこの後も「やさしくエモーション」「恋のアドバイス」「ブロークン・ハート」と7曲連続で1位に輝いた。
デビューアルバムの段階で歌唱力の高さがかなり評価されていて、特にバラードの印象が強かったのだが、注目されたセカンドアルバムからのリードシングルとしては、アップテンポでキャッチーなこの曲がリリースされ、見事に大ヒットを記録したのであった。
当時は少し軽めな印象を受けたリスナーも少なくはなかったような気もするのだが、時を経て聴き直してみると、まさにこの時代のメジャーなポップソングの金字塔ともいうべき驚愕のクオリティであり、高く評価されるべきであることは明白である。
作詞・作曲は「恋は手さぐり」と同じくジョージ・メリルとシャノン・ルビコムで、ボーイ・ミーツ・ガールというユニット名で「スター・トゥ・フォール」をヒットさせたりもしていた。
The Cure, ‘Just Like Heaven’
ザ・キュアーのアルバム「キス・ミー、キス・ミー、キス・ミー」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高29位、全米シングルチャートで最高40位を記録した。
アルバムからは3曲目のシングルカットであり、特に一推しというわけでもなかったような気がするのと、ヒットチャートの順位も圧倒的に高いというわけでもなかったのだが、後にザ・キュアーの楽曲の中でも特に広く知られるようになっていった。
当時のロバート・スミスはプライベートでも恋愛が順調すぎたようで、そんな気分が楽曲にもヴィヴィッドに反映しているということができる。
とにかくポップでキャッチーなインディーポップソングであり、ロバート・スミスのユニークなボーカルもしっかりハマっている。
Pet Shop Boys, ‘It’s a Sin’
ペット・ショップ・ボーイズのアルバム「哀しみの天使」からのリードシングルで、全英シングルチャートで1位、全米シングルチャートで最高9位を記録した。邦題は「哀しみの天使」である。
ニール・テナントがカトリック系の高校に通っていた頃に感じていた、やることなすことすべてに罪悪感を持たなければいけないような感覚に対する不満や怒りがテーマになっていて、それをオーケストラヒットの多用などトゥーマッチなアレンジによってユーモラスに表現しているところが特徴である。
2021年に放送され高評価を得た1980年代のロンドンが舞台のテレビドラマ「IT’S A SIN 哀しみの天使たち」ではタイトルが引用され、主演したオリー・アレクサンダーのソロプロジェクト、イヤーズ・アンド・イヤーズによってカバーもされていた。