LE SSERAFIM ‘EASY’ review
LE SSERAFIM(ルセラフィム)の3作目のミニアルバム「EASY」がリリースされた。1stフルアルバム「UNFORGIVEN」以降、最初のアルバムということでLE SSERAFIMにとっての新章がスタートした印象もあるのだが、この間に英語詞によるシングル「Perfect Night」があった。
それまでの楽曲に比べるとややライトでインパクトに欠けるような印象も当初は感じたのだが、聴き続けるほどによくなってきたし、実際に長くヒットし続けている。「EASY」はたとえばタイトルトラックを聴く限り、その延長線上にあるようにも感じられる。
グループ名からして「I’M FEARLESS」つまり「私は大胆不敵だ」のアナグラムであるLE SSERAFIMは、その力強いイメージとそれを補完するに余りある優れた楽曲やパフォーマンスが特徴であり、そう考えると「EASY」というタイトルが象徴するタイプの音楽性というのは大きなシフトチェンジのようでもある。
ところがこのミニアルバムのトレーラーとして先行公開され、1曲目に収録された「Good Bones」はわりと激しめな楽曲である。音楽的にはロックであり、韓国人のキム・チェウォン、ホン・ウンチェ、韓国系アメリカ人のホ・ユンジン、日本人のサクラ、カズハというメンバーそれぞれの母国語、韓国語、英語、日本語による台詞が入っている。
たとえば日本語では「私がまたチャンスを掴んで気分が悪い?」「運が良い人たちは悪口を言われてもいいの?」といった具合である。これらはデビューから程なくして人気グループとなったLE SSERAFIMのメンバー達に対するネットでの誹謗中傷や偏見や嫉妬などにも向けられたものだと思われる。
「結局私たちはみんな死ぬわけだし 人生の半分は苦しみだろう」「残りの半分は私たちにかかっている」、そして、次の「私はこの事実に少し早く気付いた」という日本語の台詞はグループの最年長メンバーでもあるサクラによって語られる。
日本のリスナーにはおなじみ、元HKT48の宮脇咲良である。鹿児島県出身で小学3年生から地元のミュージカルスクールに通い、子役として活動した後にHKT48の1期生オーディションに合格、13歳からアイドルとしてのキャリアをスタートしている。グループ内での人気も次第に高まり、一時期はAKB48との兼任でシングル「君はメロディー」では単独センターを務めたり、「AKB48 53rdシングル世界選抜総選挙」では3位にランクインしていた。
韓国のオーディション番組「PRODUCE 48」では最終結果で2位となり、日韓合同アイドルグループ、IZ*ONEのメンバーに抜擢された。この後、AKB48グループでの活動は休止するのだが、IZ*ONEの活動終了後に再開し、間もなく卒業することになった。そしてその翌年に韓国のSOURCE MUSICとの契約と新たに結成されたグループ、LE SSERAFIMのメンバーとして活動することが発表された。
おそらく様々な光と闇を見てきたであろうことは想像に難くなく、本人も自身が所属する最後のグループになるだろうという覚悟で活動しているというLE SSERAFIMの楽曲での台詞であるだけに、そこには重みが感じられたりもする。
トレーラー映像ではそんなサクラの目の前に壁が立ち塞がるのだが、目から発するビームでそれを打ち砕く。そして、「EASY」とクールに言い放つのだが、鼻血が流れている。
つまり、「世の中は誰にでも公平に醜い」という現実に対するレジスタンス的な態度としての「EASY, CRAZY, HOT I can make it」があるのだという、「Good Bones」はミニアルバムのトレーラーでありマニフェスト的な役割をも果たしているようにも思え、それゆえに激しめなロックサウンドを引用するのが必然だったのかもしれない。
そして、2曲目はタイトルトラックでもある「EASY」である。たとえばこれまでの2作のミニアルバム「FEARLESS」「ANTIFRAGILE」、フルアルバム「UNFORGIVEN」のタイトルトラックと比較して、いかにもライトな印象は否めない。とはいえ、わざわざ「EASY」というタイトルを付けているぐらいなのだから、それは意図的なものなのだろう。
それは、「簡単じゃないなら 簡単にeasy」という歌詞にもあらわれている。トラップ的なビートを取り入れたサウンドには絶妙なトレンド感もあり、これまでのLE SSERAFIMの音楽性を期待するとそれほどガツンと来ないようにも感じられるかもしれないのだが、これこそがあえての新しい見せ方なのだろう。そして、先入観を取り払ってみたならば、クールでスタイリッシュなミュージックビデオも含めて純粋にカッコよく美しい。
正直しんどい現実を平気で生きていく上において、「EASY」は本気のサバイバル法の1つだともいえ、それを具現化したものがこの音楽でありパフォーマンスだということで、そういった意味で表面的な音楽性は変化しているようにも思えるのだが、LE SSERAFIMというグループの存在意義というのは実に一貫しているように思える。
この次に収録された「Swan Song」においては「たくさんの日々 たくさんの夜 たくさんの涙」「いくら続けても大変な泳ぎ」などについて告白し、「この歌を歌うとまたあれこれ言うのだろうけど 黙って私がやり遂げるのを見ていてよ」とマイルドな悪態をついたりもするのだが、けして自己憐憫的な恨み節に堕すことはなく、とても美しいポップミュージックとして昇華されている。
この楽曲についてはステージパフォーマンスもまた素晴らしく、自らを生きるために泳ぐブラックスワンに例えた振り付けが切なくも印象的であると同時に、オーディエンスからしてみると尊さや深い感謝をも感じさせてくれる。そして、高知県生まれ大阪育ちでヨーロッパにバレエ留学経験もあるカズハのバレエを取り入れた振り付けは1つの見どころでもある。
ちなみにスワンのことを日本語では白鳥というぐらいで基本的には白い鳥なわけだが、ある時期にオーストラリアで黒いスワンが発見されたことにより、それまでの常識が大きく覆された。このことから、予想だにしない衝撃的な事象が人々に大きな影響をあたえることを、ブラックスワン理論と呼んだりもするようだ。
「Smarter」はより躍動的なビートにのせて、自分らしくありたいし勝者になりたいというようなことについて歌われるアップリフティングな楽曲である。そして、このミニアルバムの最後に収録された「We got so much」はシンセポップ的な優しいサウンドが特徴で、ファンたちとの関係性について歌われている。「世の中は誰にでも公平に醜い」という現実をベースにしたこのミニアルバムにおいて、それでも信じるに値する愛こそが救いではある、という大団円が実に素晴らしく、また1曲目から再生し直してしまう。
「EASY」と題されたこのミニアルバムは5曲入りで約14分間なので、すぐに聴き終えてしまえるわけであり、タイトルの通りに表面的にはわりと聴きやすくはある。とはいえ、それはリスナーが日常を平気で生きる上においてのわずかばかりの楽しみであったり、時には救いにもなったりするようなタイプのポップミュージックの送り手としてのあり方について、熟考された結果として選ばれたアプローチのようにも感じられるのである。
そういった意味で引き続きとても重要で必要とされているグループの最新作として、とてもありがたいアルバムだといわざるをえない。