Official髭男dismの名曲ベスト10

Official髭男dismは2012年に島根県で結成された4人組バンドで、大学を卒業した後は会社員をやりながら音楽活動を続けるメンバーがいたりもしたのだが、着実に人気を獲得していき、活動拠点を東京に移した後、2018年にはメジャーデビューを果たした。2019年のシングル「Pretender」の大ヒットで一般大衆的にも大ブレイクを果たした後も、音楽的なクオリティーの高さが一般の音楽リスナーや業界人たちからも高く評価されがちで、インディーズ時代に目標として掲げていた「国民的ポップバンド」の地位を確立しているように思える。

今回はこれまでにリリースされた楽曲から、これは特に重要なのではないかと思える10曲を選出し、リリース日順に取り上げていきたい。ベスト10というタイトルにはなっているのだが、10曲が選ばれているだけで特に順位はついていない。

ノーダウト (2018)

Official髭男dismのメジャーデビューシングルで、アルバム「エスカパレード」と同時発売された。アルバムの方はインディーズから発売されている。

フジテレビ系の月9ドラマ「コンフィデンスマンJP」の主題歌に使われ、洗練された音楽性が評判となる。信用詐欺師をテーマにしたドラマの主題歌ということもあり、毒気のある歌詞も特徴的である。イントロが特にカッコいいといわれがちである。

115万キロのフィルム (2018)

アルバム「エスカパレード」の1曲目に収録された曲で、シングルではリリースされていないがとても人気が高い楽曲である。

これからも長く続いていくであろう恋人との関係を映画にたとえた内容になっていて、タイトルとなっている「115万キロのフィルム」があると、約80年分の映画が上映できるという。

2020年には映画「思い、思われ、ふり、ふられ」の主題歌にも起用された。

Pretender (2019)

映画「コンフィデンスマンJP ロマンス編」の主題歌としてリリースされ、オリコン週間ストリーミングランキングで1位に輝くなど、大ヒットを記録した。バンドの存在が一般大衆的にも広く知られ、「ヒゲダン」の愛称も定着していった。

「君の運命のヒトは僕じゃない」というフレーズがあらわしているように、悲しい恋の終わりがテーマになっているのだが、「たったひとつ確かなことがあるとするのなら『君は綺麗だ』」というところをはじめ、歌詞もメロディーもアレンジも驚異的なクオリティーである。メジャーなヒット曲の歌詞に「世界線」という単語が入っていることも新鮮に感じられた。

この年に初出場を果たした「NHK紅白歌合戦」でも、この曲が演奏されている。台北で撮影されたミュージックビデオもとても良い。

宿命 (2019)

夏の高校野球応援ソングに起用され、オリコン週間デジタルシングルランキングで1位に輝くなど、「Pretenders」に続いて大ヒットを記録した。

ゴージャスなイントロや聴きやすいのだがエモーショナルなボーカルなど、一般大衆的なヒットも記録しながら、音楽批評的にも高く評価されがちであった。

「『大丈夫』や『頑張れ』って歌詞に苛立ってしまった そんな夜もあった」というフレーズなどがあることによって、奥深さが増しているようにも感じられる。

イエスタデイ (2019)

「Pretender」「宿命」という大ヒット曲も収録したアルバム「Traveler」は2019年の秋にリリースされ、オリコン週間アルバムランキングで1位に輝くなど、順当に大ヒットを記録した。この曲はアルバムに先がけて配信された、アニメ映画「HELLO WORLD」の主題歌である。

「Pretender」「宿命」ほど壮大ではなく、より等身大的な印象も受けるのだが、これがまたイントロの流麗な感じからボーカルや歌詞の繊細でありながらポップに突き抜けているところなど、サザンオールスターズやMr.Childrenなどに続く国民的ポップバンドとして、日本のポップミュージック史に名を刻みそうなポテンシャルを感じさせるにはじゅうぶんである。

I Love… (2020)

テレビドラマ「恋はつづくよどこまでも」の主題歌である。とにかくタイアップも付きまくりなのだが、音楽的に聴き心地の良さに加え適度なトレンド感、それでいて実はかなり刺さりまくったりもする歌詞、というようなところがこのバンドの魅力ではあるのだが、この「I Love…」という曲などは実に絶妙であり、もしも自分がいま大学生で好きな人がいるのだとすれば、間違いなくカラオケで上手く歌うために練習するであろう曲ランキング第1位だということができる。

このタイトルというのが「I Love…」の続きにくるはずの「You」がちゃんと言えないという実にもどかしいというか、そういうタイプの楽曲ではあるのだが、その感じが優れた音楽性とも相まってそれほど情けなくはないというか、むしろ誠実で好感が持てるレベルにまで高めているところがとにかくすごすぎる。

「僕が見つめる景色のその中に君が入ってから変わり果てた世界」という歌いだしや、「美しすぎて目が眩んでしまう 今も劣等感に縛られて生きている」というタイプの告白、そして、憧れるほど好きになる人というのは、自分がすごいと思うことに対して「ふつうの事だととぼけ」がちだということをポップソングの歌詞として表現したことにおいても、この曲は少なくとも個人的にかなり特別である。

Cry Baby (2021)

テレビアニメ「東京リベンジャーズ」のオープニングテーマ曲として書き下ろされた楽曲である。「胸ぐらを掴まれて 強烈なパンチを食らって」というようなバイオレンスな歌詞はそれほどこのバンドらしいとも感じられ、おそらくタイムリープの要素が入ったヤンキーものであるアニメに寄せたものではあるのだが、それでもマイルドに変態的にも感じられる転調が入っていて、ポップソングとしてユニークでハイクオリティーなものに仕上げている、こういうところにもたまらなさを感じてしまうのであった。

つまり、生真面目さとかチャレンジ精神とか、勇ましい感じのイントロを含め、国民的ポップバンドとしての志の高さが感じられるようでとても良い。

ミックスナッツ (2022)

テレビアニメ「SPYxFAMILY」のオープニングテーマ曲としてリリースされ、オリコン週間シングルランキングで1位に輝くなど大ヒットを記録した。

アップテンポでジャズ的なフィーリングも感じられるサウンドに乗せて、多様性を肯定するかのようなメッセージ性もマイルドに感じられなくもなく、さらには「ここに僕が居て あなたが居る この真実だけでもう胃がもたれてゆく」というとても良いフレーズが含まれてもいる。

Subtitle (2022)

テレビドラマ「silent」の主題歌としてリリースされ、オリコンデジタルシングルランキングで10週連続、ストリーミングランキングでは17週連続で1位に輝くなど、大ヒットを記録した。

恋愛というのはもちろん1人でするものではないわけであり、それゆえに良かれと思ってやっていたことというのが、実はまったく意図したように作用していないとかそういうことというのはよくあることである。

それにしてもそういった絶妙に微妙な感じというのをよくもまあこのわずか5分程度のポップソングの中に、数々のキラーフレーズ(「火傷しそうなほどのポジティブの冷たさと残酷さに気付いたんだよ きっと君に渡したいものはもっとひんやり熱いもの」「言葉はまるで雪の結晶 君にプレゼントしたくても 夢中になればなるほど 形は崩れ落ちて溶けていって 消えてしまうけど」「救いたい 救われたい このイコールが今 優しく剥がしていくんだよ 堅い理論武装 プライドの過剰包装を」その他、多数)と共に凝縮できたものである。

TATTOO (2023)

テレビドラマ「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」の主題歌としてリリースされた楽曲である。

ネオ・シティ・ポップともいえる聴き心地のよいサウンドとボーカルが印象的ではあるのだが、歌われている内容がとにかく本質的でありながらいくつものキラーフレーズを含んでいて感動的である。

「愛 ジョーク それとたまにキツめのネガティブ」「そっけないくらいで僕らは丁度良いんじゃない?」「情け容赦無い時代のバッドワードがひょうんな時に僕らの事を脅かす時には 絡まる充電のコードのように どれだけ拗れてももう意地でも繋ぎ合っていようよ」あたりが特に個人的にはかなり好みである。

「大丈夫」と「ハイボール」で韻を踏む感覚や、タイトルが「TATTOO」なのは「消えない」「消させやしない」タイプの何かについて歌っているからであり、「大丈夫 憧れは今日も憧れのまんま」で締めているところなどもとても良い。