邦楽ポップ・ソングス・オール・タイム・ベスト500:490-481
490. ごめんね/加納エミリ(2019)
「NEO・エレポップ・ガール」というキャッチコピーが付いていた加納エミリのデビュー・シングルであり、作詞・作曲・編曲のみならず、振付に至るまでセルフで行われている。OMD「エノラ・ゲイの悲劇」、ニュー・オーダー「ビザール・ラヴ・トライアングル」あたりに影響を受けていることは明らかではあるのだが、まったくの新感覚で解釈されているようなところがとても良い。クールでプラスティックなようでありながら適度にウェットでもあるボーカルで歌われる皮肉の効いた歌詞や、いわゆる「ごめんね」ポーズをはじめとするユニークな振付もアートの領域に達しているといえる。
489. 制服/松田聖子(1982)
松田聖子のシングル「赤いスイートピー」のB面に収録されていた曲で、A面ではないにもかかわらずひじょうに人気がある。作曲の呉田軽穂はユーミンこと松任谷由実のペンネームで、女優のグレタ・ガルボに由来している。作詞が松本隆、作曲が松任谷由実(呉田軽穂)、編曲が松任谷正隆で歌手が松田聖子と、全員の名前が「松」ではじまる。このチームはこの後、いくつもの名曲を日本のポップ・ミュージック史に残していくわけだが、A面も含めこのシングルが最初であった。
卒業をテーマにした楽曲が日本のポップ・ソングにはひじょうに多く、それだけ人々にとって大きなイベントになっていることがよく分かるわけだが、80年代のアイドル歌謡でいうと斉藤由貴「卒業」、柏原芳恵「春なのに」とこの曲あたりが即座に思い浮かんだりはする。「失うときはじめてまぶしかった時を知るの」というフレーズをはじめ、もちろん感傷的ではあるのだが、東京での住所のメモをもらいながら、「ただのクラスメイト」のままでいることを選ぶ冷静さがリアルでとても良い。
488. 夏をあきらめて/サザンオールスターズ(1982)
サザンオールスターズのアルバム「NUDE MAN」に収録され、当初からこれは名曲なのではないかと話題になっていたような気がする。夏をあきらめるという言い方は一般的にはほとんどしないわけだが、ニュアンスは確実に伝わるところに桑田佳祐の非凡さをまた改めて感じた。
アルバム発売の翌々月には早くも研ナオコによるカバー・バージョンがシングルとしてリリースされ、オリコン週間シングルランキングで最高5位のヒットを記録した。歌詞に出てくる「熱めのお茶」「意味シンなシャワー」は後にスチャダラパー「サマージャム’95」(1995年)でも引用され、「Pacific Hotel」は上原謙と加山雄三の親子が経営していたパシフィックホテル茅ヶ崎がモデルで、サザンオールスターズ「HOTEL PACIFIC」(2000年)のテーマにもなった(ブレッド&バターも1981年にこのホテルをテーマにした「HOTEL PACIFIC ホテルパシフィック」を呉田軽穂こと松任谷由実の作詞でリリースしていた)。
487. Saturday Night to Sunday Morning/Shiggy Jr.(2013)
「ポップでポップなバンド」をキャッチコピーにしていたこともあるShiggy Jr.のデビューEP「Shiggy Jr. is not a child.」の1曲目に収録されていた曲である。いけもここと池田智子の天才的にキュートでキャッチーなボーカルがとにかく最高なのだが、この曲は特に切なげな感じとのバランスが絶妙でとても良い。後にメジャーデビューして、ミュージックビデオもよりカラフルでポップになっていくのだが、この曲のビデオにはローファイな手づくり感も感じられ、そこがまた良い味になってもいる。
486. 恋のマジックポーション/すかんち(1991)
すかんちはボーカル、ギターのローリー寺西(バンド解散後にROLLYに改名)をはじめ、メンバーのキャラクターが立っていたこともあり、色モノ的に見られがちでもあったのだが、70年代の洋楽ロックと歌謡曲的な要素を組み合わせたような音楽性には定評があった。
4枚目のシングルとしてリリースされたこの曲は大人気バラエティ番組「ダウンタウンのごっつええ感じ」のテーマソングとして使われ、オリコン週間シングルランキングで最高23位のスマッシュヒットを記録した。ちなみに個性的で意味がよく分からないバンド名についてなのだが、リハーサルで利用したスタジオの受付用紙に「ち◯かすトリオ」と書かれたことに由来するとのこと。
485. ブルーベリー・ナイツ/マカロニえんぴつ(2019)
マカロニえんぴつはいまどきの若い衆にとても人気があるロックバンドで、特に「なんでもないよ、」という曲がカラオケなどでも歌われがちである、ということを身近にたまたまいた若い衆から聞いた。2021年の日本レコード大賞では、最優秀新人賞を受賞している。
ボーカル、ギター、ほとんどの楽曲を作詞・作曲しているメンバーは、はっとりという名前だが本名とは関係がなく、ユニコーンが1989年にリリースしたアルバム「服部」に由来している。音楽的にも奥田民生的なポップ感覚が感じられたりもするのだが、オリジナリティーには確かなものがある。
ミニアルバム「LiKE」に収録されたこの曲は、よりロック的でありながら、終わりかけているカップルの絶妙で微妙に心苦しげな心境がヴィヴィッドに描かれていてとても良い。
484. ナイスポーズ/RYUTist(2020)
新潟を拠点に活動するアイドルグループ、RYUTistの一部では大絶賛されがちなアルバム「ファルセット」からの先行シングルで、学生生活の日常にありがちないつか忘れ去られてしまうかもしれないが確実に輝いている一瞬を切り取り、ポップ・ソングというフォーマットにおいて、瞬間冷却パックしたかのような素晴らしい楽曲である。
メンバーのナチュラルなボーカルも曲の内容にひじょうに合っていて、大の大人でも無縁になって久しいそのレモンスカッシュ感覚とでもいうべきものに没入することができ、静かな感動と満足感さえ覚える。作詞・作曲はシンガー・ソングライターの柴田聡子である。
グループ名は新潟市を意味する柳都(りゅうと)とアーティストを組み合わせたものである。新潟市の古町にあるかき忠さんというお店の千両箱弁当がまた食べたいと強く感じる今日この頃である。
483. 無修正ロマンティック〜延長戦〜/大森靖子(2016)
大森靖子のアルバム「TOKYO BLACK HOLE」 に収録された、カーネーションの直枝政広とのデュエット曲である。大森靖子のことはラジオ番組「モーニング娘。道重さゆみの今夜もうさちゃんピース」がきっかけで、道重さゆみの激しめなファンとして初めて知ったのだが、アルバム「絶対少女」をダウンロード購入してリピート再生しまくった後に、類稀な才能を持つシンガー・ソングライターであることも分かった。
いろいろ良い曲はたくさんあるのだが、特に代表曲とされているわけでもないこの曲が、なぜだか他とはまったく別のレベルでずっと好きすぎてたまらないわけである。どこがどう好きなのかという話になると、あまりにも個人的になりすぎてしまうので、「鮮やかな生き様を無修正で頼むよ」「暇だから恋をしたいだけ」「愛以外いらない もう愛以外いらない」「こんな人生を注文したわけじゃない」あたりのフレーズを抽出しておきたい。
カーネーションのアルバム「Multimodal Sentiment」には、「続・無修正ロマンティック〜泥試合〜」が収録されている。
482. いじわる/岡村靖幸(1988)
岡村靖幸のアルバム「DATE」に収録されていた曲で、シングルカットはされていないが、ベスト・アルバム「早熟」には収録されていた。「DATE」のオリコン週間アルバムランキングでの最高位が42位で翌年の「靖幸」が4位なので、この間に知名度や人気をかなり上げたのだと思われる。
密室的なエロファンクともいえるこの楽曲は当時の岡村靖幸の真骨頂ともいえ、ピュアネスと変態性とポップ感覚とが黄金比ともいえるレベルで高度に絶妙なバランスを保っている。
481. 朝になれ/加納エミリ(2020)
エレポップ的な音楽性から一転し、80年代のソウル・ミュージックからの影響も感じられる加納エミリのシングルで、個人的にはコロナ禍がわりとしんどめだった頃にカーディ・B feat. ミーガン・ジー・スタリオン「WAP」とこの曲をよく聴いていた記憶がある。停滞した状態が明けるのを待っているのだが、それほど性急でもないというような気分にうまくハマっていたような気もする。