Mrs.GREEN APPLEの名曲ベスト10
Mrs. GREEN APPLEは2023年夏の時点で、日本のカジュアルな音楽リスナーに最も聴かれているロックバンドである。7月5日にリリースされた約3年9ヶ月ぶりとなる5作目のスタジオアルバム「ANTENNA」はBillboard JAPANやオリコンの週間アルバムランキングで最高2位のヒットを記録(1位はK-POPのTOMORROW X TOGETHER「SWEET」であった)し、SpotifyやApple Musicのストリーミング回数ランキングには、新旧合わせて複数の楽曲が上位にランクインしている。
バンドは2013年に当時、高校2年生だった大森元基を中心として結成され、ライブ活動や自主制作での音源リリースを経て、2015年にメジャーデビューを果たした。ポップでキャッチーでありながら、バラエティーにとんだ音楽性やいまどきの若者たちに刺さりがちな歌詞、大森元基のソングライターやボーカリストとしての類い稀な才能などによってどんどん人気が高まっていくのだが、2020年の夏にベストアルバム「5」をリリースすると共に活動休止、いわゆる「フェーズ1」の完結を発表した。
大森元基のソロアーティストとしての活動やメンバーの脱退などを経て、2022年にはデジタルシングル「ニュー・マイ・ノーマル」をリリースし、「フェーズ2」としての活動がスタートした。
今回はそんなMrs.GREEN APPLEの数ある楽曲から、特に重要だと思われる10曲をピックアップし、リリース順に振り返っていきたい。
青と夏 (2018)
まずはリリース順にといいながら、いきなり最初が7作目のシングル「青と夏」である。これまでにも「StaRt」とか「愛情と矛先」とか「鯨の唱」とか「WanteD! WanteD!」とか「アウフヘーベン」とかとても良い曲はたくさんあるのだが、現時点においてこの素晴らしいバンドの魅力をたった10曲のみで伝えようとすると、この曲が最初になってしまうわけである。しかもこの曲はリリースから5年目にあたる2023年においてもよく聴かれていて、サマーアンセムの定番になりそうなポテンシャルを感じさせるのと同時に、Mrs.GREEN APPLEの名刺代わり的な1曲といってもそれほど異論はないのではないだろうか。
とにかく青春時代における夏の恋という、もしかすると人生におけるピークの1つなのではないかともいえる瞬間がハイクオリティーなロックソングとして瞬間冷却パックされたかのような超名曲である。それでいて、とにかくイケイケでクラスの1軍的な感じかというとけしてそんなことはなく、「私には関係ないと思って居た」タイプの若者に訪れたそれというところにまたグッときたりもする。
さらには「友達の嘘」や「転がされる愛」といった、けして一筋縄ではいかない感じや、大人になってしまうことに対する不安、「いつか忘れられてしまうんだろうか」というような寂しい気持ちなども掬いあげられた上で、たまらなくハイテンションでアンセミックなロックに仕上げているところが本当に素晴らしい。
点描の唄 (feat. 井上苑子) (2018)
「青と夏」が楽曲として純粋にあまりにも素晴らしすぎるため、すっかり言及するのを忘れてしまったのだが、ちなみに映画「青夏 きみの恋した30日」のために書き下ろされた主題歌であった。
そして、そのカップリング曲であるこの「点描の唱」もまた、同じ映画で挿入歌として使われていた。井上苑子をフィーチャーしたデュエット曲であり、夏の恋がしっとりと歌われていて感慨深い。
ちなみにMrs. GREEN APPLEというバンド名のMrs.の部分だが、もちろん英語で既婚女性に付ける敬称であり、カタカナでは「ミセス」と発音する。これがMrs. GREEN APPLEの愛称にもなっている。Mrs. GREEN APPLEにはかつて女性メンバーも所属していたのだが、現在は男性3人組である。このバンド名には中性的なイメージを打ち出していきたいという意図もあるようである。
それで、実際に大森元基のボーカルには中性的ともいえなくはない魅力があり、そこが今日的なトレンド感ともマッチしているような印象も受ける。女性ボーカリストである井上苑子とのデュエットソングであるこの曲においても、その良さは存分に発揮されているといえる。
「愛している」でも「大好きだ」でもなく、「好いている」というフレーズが本当にピッタリ繊細で上品な情緒が丁寧に描写されたとても素晴らしいラヴソングであり、最後に「夏よ、終わるな」と歌われる段階では、まったくその通りだと共感度がマックス値に達しているのであった。
2021年にはABEMAの恋愛リアリティ番組「今日、好きになりました。」のテーマソングにも使われ、また新たなリスナーを獲得することになった。
僕のこと (2019)
いわゆる人生の応援歌的な楽曲というのはJ-POP界においてもけして少なくはないのだが、この曲もそれらの1つに分類されるのではないかと思える。とはいえ、音楽的に途中からオーケストラルポップ的にすらなる壮大さももちろんとても良いのだが、大森元基の繊細でありながらエモーショナルなボーカル、さらには無根拠かつシンプルに人生をただただ応援するというよりは、すべては上手くいくとは限らないし、もしかすると努力に意味などなかったかのように思えるかもしれないのだが、それらにはすべて間違いなく価値があるというようなことが歌われていて、ただただ尊さを感じずにはいられない。
現時点ですでにMrs. GREEN APPLEのファンには大人気の楽曲ではあるわけだが、将来的により幅広い音楽リスナーや生活者から発見されて、超名曲としての評価が定着していくポテンシャルが大いに感じられる。2023年にはカロリーメイトの受験生応援CMソングとして、この曲のオーケストラ・バージョンもリリースされた。
ロマンチシズム (2019)
これもまた夏の恋をテーマにしたアップテンポな楽曲なのだが、「青と夏」などに比べると、より幅広い層をターゲットにしているような印象がある。「白熊のように涼しげで居たいの」というフレーズがまずは天才的だと思えるのだが、「愛に愛し 恋に恋する 僕らはそうさ人間さ」に至っては、もう最高という以外にない。
「偶然?必然?ロマンスは突然」の後にさり気なく歌われる「Popsは新鮮」がポップミュージックファンとしてはやはりたまらなくうれしく、このバンドに対する好感度が爆上がりしたことは言うまでもない。
インフェルノ (2019)
テレビアニメ「炎炎ノ消防隊」のテーマソングとしてリリースされたデジタルシングル曲である。大森元基がそもそも原作コミックの愛読者だったらしい。
それはそうとして、あまりにも多才すぎて様々なタイプの楽曲でとても良い曲が多いMrs. GREEN APPLEだが、この曲においてはロックバンドがやるタイプのテレビアニメ主題歌としての魅力に満ち溢れていてとても良い。夏フェス的な環境で盛り上がれるとするならば、最高に違いないであろうことが容易に想像できたりもする。
ダンスホール (2022)
とても人気があったにもかかわらず2020年にベストアルバム「5」をリリースした後に活動休止、「フェーズ1」の完結を発表、その後、メンバーの脱退もあり、3人組のバンドとして「フェーズ2」がスタートした。
デジタルシングル「ニュー・マイ・ノーマル」に続いてミニアルバム「Unity」がリリースされるのだが、この「ダンスホール」はその先行配信トラックである。
ディスコポップ的なキャッチーさが特徴で、ミュージックビデオにもその感じが濃厚に反映されている。確かにとてもノリノリでダンサブルな楽曲ではあるのだが、「今日もまた怒られる 気持ちの穴がポンっと増える」というフレーズなどに象徴されるように、基本的には上手くいっていない人たちの日常に寄り添っているところがこのバンドの特色であり、支持されている要因であるようにも思える。
ブルーアンビエンス (feat. asmi) (2022)
ミニアルバム「Unity」に収録された、asmiとのコラボレーション楽曲である。Mrs. GREEN APPLEなりのシティ・ポップ感というかアーバンな気分がマイルドに感じられ、個人的にかなり好みというか、単にasmiが好きなだけではないかという噂もあるのだが、とにかくこの曲のライブ映像を見ていると、特に間奏のところなど疾走感が感じられる上に楽しそうで泣きそうになることもある。
「愛されたい」「恋がしたい」というような原初的な欲求が軽やかに歌われながらも、「『好き』と『気になる』の違いは何?」「あなたじゃなきゃダメなように この恋が届きますように」といったわりと本質的なフレーズの後で、「馬鹿にしないでよ」以降の背伸びしがちな展開がたまらなく、悶絶を禁じえない。
Soranji (2022)
ここからは最新アルバム「ANTENNA」にも収録されているのだが、まずこの曲は映画「ラーゲリより愛を込めて」の主題歌にも起用された壮大なバラードである。
「生きる」という人として実に本質的この上ないテーマに向き合った素晴らしい楽曲なのだが、歌詞の深さやボーカルの繊細さが常軌を逸していて、ストリングスを効果的に用いたアレンジとも完璧にマッチしているのだが、それでいてけして重くなりすぎることもない絶妙なポップ感覚もあるところが本当にすごい。
ケセラセラ (2023)
Mrs. GREEN APPLEはいまどきの若者たちに絶大な人気のバンドなわけだが、この音楽的才能は本当に素晴らしく、もっと大人の音楽リスナーにもアピールして然るべきと個人的には強く思ったりはしているのだが、この曲のミュージックビデオにはいろいろな大人の人たちも登場していて、もしかするとバンド側にはそういった狙いもあるのかな、と感じたりもする。
はいえ、Mrs. GREEN APPLEの楽曲では大人になることについて歌われているケースが少なくはなく、やはりメインのターゲットはもちろん若者たちなわけである。そして、「ケセラセラ」つまり「なるようになるさ」という、何となく気楽な感覚のようでありながら、いまのしんどい状況をなんとか乗り切っていこう的なことが歌われているところにいまどきの時代の気分を感じたりもするこの曲では、「ベイビー 大人になんかなるもんじゃないけど」とはっきりと歌われている。
そして、Mrs. GREEN APPLEの音楽というのは一見、たまらなくポップでキャッチーであるように感じられて、実は救いとして機能してもいるがゆえの大人気なのではないか、と感じたりもする。
Magic (2023)
最新アルバム「ANTENNA」からの先行トラックにして、コカ・コーラのCMソングでもあった。
ケルト音楽的なフレーズが印象的で、音楽的にまたしても新境地に挑んでいるのだが、80年代の洋楽ポップスというかドリーム・アカデミーとかティアーズ・フォー・フィアーズ的な快感もあってとても良い。
夏らしいポジティヴィティーも存分に感じられるのだが、歌いだしのフレーズは「Ah, 苦い苦いの 私由来の無駄なダメージ」だったりして最高である。そして、大森元基の「ダメージ」というワードの歌い方のクセがとても好ましく、ポップだと感じることができる。
それで様々な憂鬱や疑念というようなものを踏まえながらも、超キャッチーなコーラスが「いいよ もっともっと良いように いいよ もっと自由で良いよ」などと、どこまでも肯定感に溢れている。けして明るいとはまったく言うことができない現在、このような楽曲がヒットするのはまあまあ良いことのような気はする。