【1985年の千石・巣鴨・水道橋】DISC510 後藤楽器店

DISC510こと後藤楽器店は、かつて東京都豊島区巣鴨2-1-2に実在していたレコード店である。インターネットで調べてみたところによると、店舗を閉鎖したのは2016年11月だったようである。巣鴨駅前商店街で60年以上の歴史を持ち、演歌歌手が店頭イベントを頻繁に行っていたことなども分かる。確かにある時期から、この店は前を通っただけでも、演歌に力を入れているというか、もしかすると演歌のソフトのみを専門に扱っているのではないかと思わせるような雰囲気があったのだが、私が千石に住み、よく利用していた1985年から翌年にかけてぐらいの時期には、ごく普通の街のレコード屋さんという感じであった。

インターネットで画像検索してみると、演歌歌手が店頭でキャンペーンのようなことを行っている写真をいくつも見つけることができ、多くの人々でにぎわっている。その店頭というのも、それほど広くはなかったと記憶しているのだが。巣鴨といえば地蔵通り商店街であり、おばあちゃんの原宿などとも呼ばれている、ということは千石にあった大橋荘の大家さんに聞いてはじめて知った。毎月、「4」の付く日には、特に大勢の人たちが訪れるということであった。とげぬき地蔵というのがあり、これに水をかけてタオルで拭いたりすると、自分のその箇所が良くなるというような話があったような気がする。2011年に母と妹が観光で上京した時にもここには行ったのだが、その頃にはDISC510はまだ営業していたということになる。

巣鴨や千石は個人的にひじょうに思い入れの強い地域でもあることから、約1年間しか住んでいなかったにもかかわらず、引越した後にも懐かしむために何度か訪れたりもしていた。DISC510の前もよく通っていたのだが、演歌専門店のような雰囲気になって以降はおそらく入ったことがないような気がする。覚えているのは2000年代になってからそれほど経っていない頃に店に入って、「青春歌年鑑」という懐かしの歌謡ヒットを収録したコンピレーションCDを買おうかどうか迷って、結局は買わなかったことぐらいである。演歌のキャンペーンのようなことが行われていた写真をよく見ると、隣に上島珈琲店が見える。これを2022年4月時点のGoogleマップに当てはめてみると、かつてDISC510だった場所がメルカリのリペアショップになっていることが確認できる。靴とバッグの修正店、ミスターミニットとメルカリのコラボレーションによる店舗のようだが、この少し前には普通のミスターミニットだったような気もする。そのさらに隣には、泰平飯店という中華料理店がある。外観はかなり変わっているような気がするのだが、当時もDISC510の隣には中華料理店があったような気がするのだ。調べてみると、泰平飯店は「巣鴨で最も老舗のレストラン」だということなので、当時ここにあったのもやはり同じ店だったのだろう。

千石の大橋荘に住んでいた頃、レコードが買いたくなると巣鴨駅から山手線で池袋まで行って、パルコのオンステージヤマノや西武百貨店のディスクポートなどをよく利用していて、それよりももっとガッツリと見たい気分の時には、恵比寿で営団地下鉄日比谷線に乗り換え、六本木WAVEまで行っていた。秋のとある土曜の夜に、やはり六本木WAVEまで行くと、店頭でフリージャズのミュージシャンのような人たちがエントランスライブなどというものをやっていて、やはり東京はすごいところだなと実感させられた。この日は、シャーデー「プロミス」とロバート・パーマー「リップタイド」を買ったはずである。

逆にもって手軽に邦楽の人気作や洋楽でもサクッと国内盤で買いたい時には、よくDISC510に行っていた。当時の巣鴨でレコードが買える店といえば、もう1つ西友の2階のレコード店があった。おそらく新星堂のチェーン店だったのではないかというような気がなんとなくしているのだが、いまとなっては記憶が定かではない。とんねるず「成増」のジャケットが目立つところにディスプレイされていたのは、なんとなく覚えている。ここにもよく行っていたのだが、あまりレコードを買った記憶がない。この2階では確か小さな扇風機を買ったのと、地階の食品売り場では日曜日などによく買物をしていた。1階のチケットセゾンでは、映画「星くず兄弟の伝説」の前売券や、爆風スランプのライブのチケットなどを買っていたはずである。

DISC510は当時はいろいろな街にありふれていた、いわゆる街のレコード屋さんだったのだが、いまとなっては説明することがひじょうに難しい。書店もすでにそうなっているのだろう。音楽はラジオやテレビで聴いて、特に気に入るとレコードを買ったりもするのだが、シングルが600円か700円ぐらいで、アルバムが2,500円から2,800円ぐらいだっただろうか。CDが出はじめた頃はアナログレコードよりも少し高くて、3,200円とか3,500円ぐらいのものが多かったような気もするのだが、いまや記憶が定かではない。CDが普及してからもCDシングルというのがまだ出ていなかった時代が何年かあって、アルバムはCDで買うのだがシングルはアナログでということが少なくはなかった。私がDISC510をよく利用していた1985年頃にもCDはすでに発売されていて、普及しかけてもいたと思うのだが、DISC510でどれぐらいの規模で扱われていたのかについてはまったく覚えていない。CDプレイヤーはまだ持っていなかったので、アナログレコードかミュージックテープばかりを買っていた。

大橋荘は壁が薄いため、隣の部屋の音声がひじょうに聞こえやすい。おそらくそのためだとは思うのだが、夜間の友人の連れ込みやステレオの持ち込みは禁止されていた。ラジカセは良いのだが、ステレオはダメという決まりであった。音楽鑑賞を趣味としている者にとって、ステレオが聴けないというのはかなりの痛手だったのだが、浪人生である1年だけのことであり、大学に入学したらおしゃれなワンルームマンションに引越すのだと意気込んでいたので、これも良い経験だという程度に考えていた。レコードプレイヤーを実家から持ってきていて、それをラジカセに繋いで聴いていたのだが、接続がどうもうまくいっていなく、まともな音質で聴くことが難しい。それで、友人の部屋に持ち込んでカセットテープにダビングさせてもらっていたのだが、それならば初めからカセットテープで良いだろうということになり、ミュージックテープを買う頻度が増えていったりもした。池袋のビックカメラで生まれてはじめてのウォークマンを買ったということも、その理由の一つではあったのだが。当時はレコード店でミュージックテープが売られていた以外に、ディスカウントショップや駅前の露店などで、輸入されたミュージックカセットが安価で売られていることもあった。ビルボードの最新アルバムチャート上位に入っているようなタイトルが、1,000円ぐらいで売られていたはずである。ホイットニー・ヒューストンのデビュー・アルバムを、渋谷駅前の露店で売られていた輸入ミュージックテープで買った記憶がある。

街のレコード店は目的があって買いにいくこともあれば、なんとなく見にいくような場所でもあって、とにかくレコードがたくさん置かれているのがとても良かった。店員も若い男性であり、常連客らしい女子大生ぐらいの人と気軽に話していて、Toshitaro「Am9にジェイ-鋭角ボーイでいてくれよ-」をレコメンドしたりしていた。当時、DISC510で買ったレコードやカセットとして覚えているのは、芳本美代子「白いバスケット・シューズ」、山下達郎「風の回廊(コリドー)」「Big Wave」、大滝詠一「B-EACH TIME L-ONG」、小山卓治「Passing」、杉真理「SYMPHONY #10」、DANGER「DANGERⅡ」、松本伊代「センチメンタル ダンス クラブ」、仲井戸麗市「THE 仲井戸麗市 BOOK」、ZELDA「空色帽子の日」、米米クラブ「シャリシャリズム」、松尾清憲「Help! Help! Help!」、尾崎豊「壊れた扉から」、爆風スランプ「しあわせ」、RCサクセション「ハートのエース」、大江千里「乳房」、佐野元春「クリスマス・タイム・イン・ブルー」、パブリック・イメージ・リミテッド「アルバム」、ブルース・スプリングスティーン「明日なき暴走」「グローリィ・デイズ」などである。佐野元春のカセットブック「ELECTRIC GARDEN」は書店流通だったので、巣鴨駅前の成文堂書店で買った。

また、旭川の実家にいた頃にはミュージックショップ国原や西武百貨店のディスクポートといったレコード店で買っていた「オリコン・ウィークリー」だが、東京では巣鴨駅のキオスクなどでも売られていて、これは便利だと軽く感動したことが思い出される。