邦楽ロック&ポップス名曲1001: 1985, Part.1

卒業/尾崎豊(1985)

尾崎豊の4作目のシングルで、オリコン週間シングルランキング最高20位を記録した。

アルバム「十七歳の地図」、シングル「15の夜」でデビューしたのは1983年12月1日だが、すぐに売れたわけではなく、少しずつ支持を広げ知名度を上げていった。特に1984年8月4日に日比谷野外音楽堂で行ったアトミック・カフェ・ミュージック・フェスティバル’84に出演した際に、7メートル以上ある照明から飛び降り、大けがをした件はメディアでも大きく取り上げられていた。

音楽批評的にはシンガーソングライターとしての才能は認めつつも、音楽的にはそれほど面白味がないというような論調が多かった印象があるが、当時の若者たちはより本質的なところを理解し、支持していたように思える。

6分40秒にも及ぶこの楽曲は、12インチシングルでリリースされた。「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」の歌詞は友人の実際のエピソードに基づいたものだが、かつての反抗を懐かしく歌っただけの楽曲ではなく、「あと何度自分自身 卒業すれば 本当の自分にたどりつけるだろう」と、その自問自答や葛藤はこれからもおそらくずっと続くのだというようなことがテーマになっている。

ピアノの演奏をバックに穏やかな感じではじまるのだが、次第に激しさを増していき、最後は絶唱になっていく展開もとても良い。

個人的には高校を卒業するタイミングでこのシングルが出て、すぐに買って聴いていたのだが、後にリリースされた収録アルバム「回帰線」を録音したカセットテープを持って上京し、レコードは実家に置いていった。それを当時、小学生だった妹が聴いていたようである。

1989年にシングルCDでリリースされた際には、オリコン週間シングルランキングで最高8位を記録している。

Romanticが止まらない/C-C-B(1985)

C-C-Bの3作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高2位、年間シングルランキングではチェッカーズ「ジュリアに傷心」、中森明菜「ミ・アモーレ(Meu amore・・・」、小林明子「恋におちて Fall in love-」に次ぐ4位、「ザ・ベストテン」などでは1位を記録した。

Coconut Boysとしてデビューするもののそれほど売れていなかったバンドがC-C-Bに改名し、起死回生を期してリリースしたシングルであり、作詞・作曲は松本隆・筒美京平の黄金コンビである。

出演者の中山美穂がブレイクするきっかけとなったテレビドラマ「毎度おさわがせします」の主題歌で、当初はチェッカーズにオファーする予定だったのだが実現せず、一世風靡セピアからはドラマの内容がイメージに合わないと断られ、C-C-Bが歌うことになったようである。

リードボーカルにドラマーの笠浩二を起用する案は筒美京平によるものであり、そのハイトーンなボーカルがかなり気に入っていたということである。テクノ歌謡的でもあるサウンドとポップでキャッチーなメロディーが受け、無名バンドの楽曲でありながらかなりの人気となり、メンバーそれぞれが髪を様々な色に染めるなどしたビジュアル的なイメージもテレビ映えした。

個人的には大学受験のために宿泊していた品川プリンスホテルで「毎度おさわがせします」を見ていて、とても良い場面で流れるこの曲に、これは売れるのではないかとなんとなく感じていたことなどが思い出される。

Young Bloods/佐野元春(1985)

佐野元春の15作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高7位を記録した。佐野元春のシングルとしては、これが初のトップ10ヒットである。

この前の年にリリースされたアルバム「VISITORS」は渡米時に現地のミュージシャンたちとレコーディングした作品で、当時はまだそれほどメジャーではなかったラップを大胆に導入した音楽性が衝撃をあたえ、ファンの間でも賛否両論があったりもしたのだが、後に日本のポップミュージック史における重要作としての評価が定着したような気がする。

国際青年年のテーマソングであったこのシングルではよりメロディアスな従来の路線に戻ったようなところもあり、「VISITORS」で不安になったファンの中には安堵した人たちも多かったような気がする。「VISITORS」を支持していたタイプの層からしてみると、あまりにもザ・スタイル・カウンシル「シャウト・トゥ・ザ・トップ」に似ているのではないか、などと思われていたような気もするのだが、とはいえポップソングとしての強度には間違いがない。

新年早朝の代々木公園で行ったゲリラライブ的な演奏風景を撮影したミュージックビデオもとても良く、Apple Musicで視聴することができる。ダンスリミックスバージョンを収録した12インチシングルもリリースされ、オリコン週間シングルランキングで最高13位と結構売れている。

卒業/斉藤由貴(1985)

斉藤由貴のデビューシングルでオリコン週間シングル、「ザ・ベストテン」での最高位はいずれも6位だが、それ以上に卒業ソング、80年代アイドルポップス、昭和歌謡の名曲として定番化しているような気がする。

明星食品から発売されていた青春という名のラーメンというカップラーメンのCMソングでもあった。作詞は松本隆で、作曲が筒美京平という黄金コンビによる楽曲である。「卒業式で泣かないと冷たい人と言われそう でももっと哀しい瞬間に涙はとっておきたいの」「卒業しても友だちね それは嘘ではないけれど でも過ぎる季節に流されて 逢えないことも知っている」と、感傷的な気分でありながらも絶妙に冷めているところがとても良い。

「制服の胸のボタンを下級生たちにねだられ」というかつての卒業式の定番的なシチュエーションも現在ではすっかり風化してしまったとはいえ、この楽曲の良さは色褪せていないような気がする。

卒業-GRADUATION-/菊池桃子(1985)

菊池桃子の4作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで自身初となる1位、「ザ・ベストテン」では最高2位を記録した。

この年には菊池桃子の他に斉藤由貴、尾崎豊、倉沢淳美が「卒業」というタイトルのそれぞれ別々の楽曲がシングルとしてリリースされたことが話題になった。個人的にも高校を卒業する年だったので、よく覚えている。その中でも最もヒットしたのが、この菊池桃子による「卒業」であった。

作詞は秋元康で、作曲・編曲が林哲司、イントロが流れた瞬間に当時の気分が甦ってくるようなところもあって、「緑の木々のすき間から春の陽射しこぼれて 少し眩しい並木道 手を翳して歩いた」という歌いだしの歌詞がまたこれに合っている。

個人的に菊池桃子はアイドルとしてかなり好きで、この前の年の夏休み、シングル「SUMMER EYES」のキャンペーンを札幌のデパートで行った時にもミニライブ&握手会的なイベントに参加し、レコードもすべて買っていたのだが、この楽曲のポップソングとしての強度は別格である。

歌詞に「星の王子さま」などの作者、サン=テグジュペリの名前が入っているところなど、いかにも秋元康らしいともいえるが、感じ入らずにはいられなかった。

個人的には大学受験のために宿泊していたホテルの部屋で翌日は試験もなかったので友人たちとはしゃぎ疲れた後、灯りを消して寝ようとしていたのだが、なんとなくもうじき卒業してしまうのだと感傷的な気分にもなっていたところに、文化放送の「ミスDJリクエストパレード」でこの曲が流れ、その時の気分と共に深く記憶されていたりもする。

ふたりの夏物語/杉山清貴&オメガトライブ(1985)

杉山清貴&オメガトライブの5作目のシングルでオリコン週間シングルランキングで最高5位、「ザ・ベストテン」では1位、年間チャートでは安全地帯「悲しみにさよなら」に次ぐ2位を記録した。

日本航空のCMソングに使われ大ヒットしたこの楽曲は超タイトなスケジュールの中、作詞・作曲からレコーディングまでが約3日間で行われたものだという。そんな事情などはまったく知らない当時の一般大衆は、この曲に夏のはじまりの高揚する気分と根拠のない期待感のようなものを感じたりもしていた。

「流星にみちびかれ 出会いは夜のマリーナ」というようなシチュエーションが当時のリスナーたちのうち、どれぐらいの日常に関係があったのかは定かではないのだが、なんとなく手が届きそうなシティポップ感とでもいうような大衆性が人気の要因だったような気もする。

ミ・アモーレ/中森明菜(1985)

中森明菜の11作目のシングルでオリコン週間シングルランキングで1位、年間シングルランキングで2位、「ザ・ベストテン」などで1位を記録し、「第27回日本レコード大賞」」で大賞、「第14回FNS歌謡祭」でグランプリを獲得したりもした。

作曲・編曲にラテン音楽界のトップアーティスト、松岡直也を起用した楽曲で、中森明菜の情熱的なボーカルとのマッチングが見事としか言いようがない。歌詞とタイトルを変え、長尺化した12インチシングル「赤い鳥逃げた」もオリコン週間シングルランキングで1位に輝いた。

この年の6月には松田聖子が神田正輝との結婚を機に、歌手活動を一時的に休止するのだが、これもあって中森明菜のトップスターとしての存在感はさらに増していったような気がする。

あの娘とスキャンダル/チェッカーズ(1985)

チェッカーズの6作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングや「ザ・ベストテン」などで当然のように1位に輝いた。

主演映画「CHECKERS IN TAN TAN たぬき」の主題歌でもあり、駆け落ち的なシチュエーションがテーマになっている。当時のチェッカーズといえばやることなすことすべてが大当たりで、しかもファッションやポップアート的にもわりとクールだとみなされてもいたところが、当時の日本の男性アイドル像としてはかなり特別だったような気がする。オールディーズ的なムードが感じられる軽快なロックンロールを邦楽ポップス化した楽曲も親しみやすくてとても良い。

この年の4月からフジテレビ系のバラエティー番組「夕やけニャンニャン」が放送を開始し、出演者たちがおニャン子クラブとして後にブレイクする。オープニングテーマ曲としてはデビューシングル「セーラー服を脱がさないで」の印象が強いのだが、番組開始当時はこのチェッカーズ「あの娘とスキャンダル」が使われていて、猫のキャラクターが登場するアニメーションのようなものが流れていたような気がする。

夏にはチェッカーズがジェットストリームという清涼飲料水のテレビCMに出演していて、藤井郁哉が「せっかく夏だし」などと言っていたことが思い出される。

タッチ/岩崎良美(1985)

岩崎良美の20作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高12位を記録した。

あだち充原作のテレビアニメ番組「タッチ」の主題歌としてあまりにも有名で、いわゆるアニソンの名曲として知られている他に、高校野球の応援歌としても使われがちである。

作詞は当時ヒット曲を量産していた康珍化、作曲・編曲はチェッカーズの一連のヒット曲などで知られる芹澤廣明による、ロックンロール的な歌謡ポップスである。

個人的に岩崎宏美のシティポップ/AOR的な楽曲に特に好きなものがいくつかあるため、「タッチ」が代表曲とされがちなことについては思うところがないわけでもないのだが、もちろんこの曲もとても良い。