邦楽ロック&ポップス名曲1001: 2023

名前は片想い/Indigo la End(2023)

Indigo la Endの通算20作目となるシングルで、大衆的なポップソングとしての強度が格段に上がったのではないかと感じさせた楽曲である。

ポップでキャッチーだが、同時にかなり変態的でもある。「曖昧な関係の名前は片想い」というわけで、もちろん切なくて苦しいのだが、「どんな溜め息も見逃さないと社会の空気が言い出した 正しさの矛 たまに痛いよ」にはいろいろと考えさせられるところもある。

念のためだがゲスの極み乙女の川谷絵音がやっているまた別のバンド、というか結成はこっちの方が先である。他にジェニーハイ、ichikoro、礼賛などもある。

美しい鰭/スピッツ(2023)

スピッツの通算46作目のシングルで、Billboard JAPAN Hot 100で最高20位、年間チャートでは10位を記録した。

メジャーデビューから30年を超えるベテランバンドの楽曲でありながら、YOASOBIやMrs.GREEN APPLEといったいまどきの大人気アーティストたちと並んでストリーミングチャートの上位に長期間ランクインしていたのが印象的であった。

もちろんアニメ映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影」の主題歌であったことが大きな要因なのだが、バンド路しての本質はブレずにより大衆ポップスとしての強度がナチュラルに上がっているようなところがとても良い。

アイドル/YOASOBI(2023)

YOASOBIの19作目のシングルで、Billboard JAPAN Hot 100は21週連続1位の歴代新記録を樹立し、年間1位にも輝いた。

テレビアニメ「【推しの子】」のオープニングテーマ曲で歌詞の内容もアニメ第1話に沿っているのだが、純粋にポップソングとしての新境地を切り拓いたといえる驚異的な楽曲である。

ゴスペル風のコーラスやアイドルポップス的なリズム、アイドルグループのメンバー間における嫉妬などをテーマにしたラップパート、アイドルファンのかけ声にはアニソンダンスパフォーマンスグループのREAL AKIBA BOYZを起用するなど情報量がものすごく、変幻自在に使い分けられるIkuraのボーカルパフォーマンスも素晴らしい。

「第74回NHK紅白歌合戦」においては日韓の人気アイドルたちを従えて、圧倒のパフォーマンスを見せつけた。

ケセラセラ/Mrs. GREEN APPLE(2023)

Mrs.GREEN APPLEの7作目の配信限定シングルでBillboard JAPAN Hot 100で最高4位、「第65回日本レコード大賞」では大賞を受賞した楽曲である。前年のSEKAI NO OWARI「Habit」に続いて、「日本レコード大賞」では2年連続でロックバンドが大賞を受賞することとなった。

すでにひじょうに人気があったわけだが、一時的な活動休止や事務所独立、メンバーの脱退などを経て3人体制になっての「フェーズ2」が開幕して以降、そのポピュラリティはより増していった。

「ケセラセラ」というタイトルは「なるようになる」と解釈されがちだが、この楽曲においては「人生は自分しだいでどうにでもしていける」というような本来の意味合いに基づいているように思える。

それで、現代の応援歌のようにもなっているのだが、「MTV VMAJ 2023」でVideo of the Yearを受賞したミュージックビデオにも様々な年代や職業の人たちが登場していて、若いリスナーに向けてのみならず、より大衆的なポップバンドを志向しているようにも感じられる。

ファジーネーブル/Conton Candy(2023)

Conton Candyの6作目のシングルでBillboard JAPAN Hreartseekers Songsで初登場1位、Billboard JAPAN Hot 100では最高17位を記録した。

TikTokで盛り上がってバイラルヒット化する楽曲にはベッドルームポップ的なものが多いような印象がなんとなくあるのだが、この曲は女性ロックバンドによるインディー・ポップである。

タイトルの「ファジーネーブル」はカクテルの名前で、おそらく叶うことのない片想いをテーマにした切ない楽曲である。ミュージックビデオなどを見ると、メンバーがとても楽しそうに演奏しているところもかなり良い。

青のすみか/キタニタツヤ(2023)

キタニタツヤの3作目のEP「青のすみか」からリードトラックとしてリリースされ、Billboard JAPAN Hot 100で最高2位を記録、この曲で「第74回NHK紅白歌合戦」にも初出場を果たした。

テレビアニメ「呪術廻戦 懐玉・玉折」のオープニングテーマ曲で、夏の爽快感と切なさとをいずれも表現したようなロックテイストの楽曲となっている。学校のチャイムを思わせるメロディーが引用されているところなどもとても良い。

唄/Ado(2023)

Adoの18作目の配信限定シングルで、Billboard JAPAN Hot 100で4週連続1位を記録した。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのハロウィンイベント「ハロウィーン・ホラー・ナイト」とのコラボレーション楽曲ということだが、それ以上にエキゾティックでトライバルなムードも感じられる強烈なトラックがひじょうに印象的なのに加え、Adoのパワフルなボーカルもノリノリでとても良い。

「第74回NHK紅白歌合戦」にもこの曲で出演し、東本願寺のステージからシルエットのみでパフォーマンスを披露した。姿かたちを現していないのだがけして匿名的ではなく、むしろ強烈に個性的でありながら、メインストリームでこれだけブレイクしているというのがいろいろ新しくも感じられる。