テイラー・スウィフト「Midnights(ミッドナイツ)」【ALBUM REVIEW】

テイラー・スウィフト、10作目のアルバム「ミッドナイツ」が2022年10月21日にリリースされた。2006年にカントリー・ミュージックの新星としてデビューするとすぐにブレイクし、その後、よりポップな音楽性にシフトすると人気はさらに高まっていった。そして、世界が新型コロナウィルス禍の真っ只中にあった2020年7月24日、インディー・フォーク的ともいえるアルバム「フォークロア」を突然に発表し、オルタナティヴな音楽ファンやメディアからも大絶賛される。ポップミュージックのアーティストとしてすでに絶大な人気を誇ってはいたのだが、その支持層をさらに広げたかたちとなった。さらに同じ年の12月26日には「フォークロア」とよく似たタイプのアルバム「エヴァーモア」を早くもリリースし、いずれも全米アルバム・チャートで1位を記録している。「フォークロア」はグラミー賞で最優秀アルバム賞を受賞し、テイラー・スウィフトは史上初めてこの賞を3回受賞した女性アーティストとなった。

その後はテイラー・スウィフトの初期のアルバムをリリースしていたビッグ・マシン・レコードの買収にともない、いろいろ揉めたりもしたことなどから、これらすべてを新しくレコーディングし直し、リリースしはじめた。「フィアレス」「レッド」の「テイラーズ・ヴァージョン」はすでにリリースされ、これ以降のアルバムも続くことになっている。よって、テイラー・スウィフトのまったく新しいアルバムがリリースされるのはもう少し先なのではないかと、油断されがちであった。そして、2022年8月28日に開催されたMTVビデオ・ミュージック・アワードにおいて、このアルバムのリリースは発表された。「フォークロア」がサプライズ的なリリースだったのに対し、今回の「ミッドナイツ」については周到なプロモーションが行われていたように思える。

アルバムのジャケットアートワークは70年代あたりのソウル・ミュージックのLPレコードを思わせなくもないが、他にも何パターンかのものが発売されている。アルバムのリリースに先がけて、「ミッドナイト・メイヘム・ウィズ・ミー」と題されたシリーズがTikTokで公開されたりもした。そこで、ラナ・デル・レイとのコラボレーションが収録されていることも明らかにされた。インディー・フォーク的な「フォークロア」「エヴァーモア」に続いて、テイラー・スウィフトは果たしてどのような音楽を発表するのかが注目されたのだが、それはコンテンポラリーなポップ・ミュージックへの回帰であった。しかし、ただ以前の音楽性に戻ったというわけではなく、そこにはトレンドの変化に対応したアップデート感も感じられる。

「私の人生に散らばる13の眠れない夜の物語」というコンセプトを持つこのアルバムは、ポップでキャッチーなシンセポップではあるのだが、歌われている内容は実に告白的である。アルバムのリリース直後にミュージックビデオが公開もされた「アンチ・ヒーロー」にはマイルドな自己嫌悪や反省の気分が感じられ、「I’m the problem, It’s me」というインパクトのあるフレーズを含んでいる。また、アルバムの1曲目に収録された「ラヴェンダー・ヘイズ」は恋人との関係性をあれこれと詮索されることに対しての感情の吐露を含んでいると思われるが、「The 1950s shit they want from me」というフレーズに煮えたぎる怒りの気分があらわれているように感じられる。

きわめて控えめで繊細なアレンジに包まれた、コンテンポラリーで品の良いサウンドが特徴的ではあるが、理不尽に対する呪詛にも近いかもしれない思念のようなものがしっかり息づいているところが、現在においてヴィヴィッドに有効なポップスという感じもしてとても良い。こういった芯の強さのようなものが、どのようなタイプの音楽をやっていようとも、アーティストとしての一貫性を実は強く感じさせる要因かもしれない。

「ミッドナイツ」は音楽性において「フォークロア」とかなり異なって入るのだが、プロデュースには引き続きジャック・アントノフがメインでかかわっている。そして、ラナ・デル・レイとのコラボレート曲「スノウ・オン・ザ・ビーチ」は収録曲の中では最も「フォークロア」の音楽性に近いともいえる。ラナ・デル・レイの独特なボーカルとテイラー・スウィフトの声が重なり合うことによって、他にはない感覚が実現している。「ヴィジランテ・シット」はミニマルでインダストリアル的ともいえる刺激的なポップソングで、ビリー・アイリッシュ以降を感じさせもするのだが、テイラー・スウィフトが「シット」という強めなワードをタイトルに入れたこと以上に、その内容がかつてカニエ・ウェストと結婚していたキム・ダーカシアンに関係しているのではないかと憶測を呼んだりもしている。

アルバムの最後に収録された「マスターマインド」では、子供の頃は誰も自分と遊びたがらなかったから、彼らに愛されるために、そしてそれが努力のように見えるように、犯罪者のように策を練ってきた、というような深夜ならではの告白をもしている。

「フォークロア」「エヴァーモア」のインディー・フォーク的な音楽性も素晴らしかったのだが、それを経てポップスのフィールドに帰って来たテイラー・スウィフトはさらに強度を増し、実に聴きごたえのあるアルバムを完成させたといえる。