PSY「江南スタイル」【Classic Song】 

2012年10月6日付の全英シングル・チャートでは、PSY「江南スタイル」が韓国のアーティストとしては初となる1位に輝いていた。全米シングル・チャートではカーリー・レイ・ジェプセン「コール・ミー・メイビー」に阻まれ1位は逃したものの、最高2位の大ヒットを記録した。アジアのアーティストが2位以内にランクインするのは、1963年に全米NO.1ヒットとなった坂本九「上を向いて歩こう」以来だったということである。当時、韓国のポップミュージック、つまりK-POPは日本も含めアジアではすでに人気があったのだが、アメリカやイギリスを含む欧米圏においてはまだまだであり、それだけにこの曲のヒットにはインパクトがあった。

PSYは2001年に韓国国内でデビューアルバムをリリースしていて、それなりに知名度はあったと思われるのだが、国際的には「江南スタイル」がヒットするまでほとんど無名の存在であった。ヒップホップユニット、Untitleの元メンバーだったというユ・ゴニョンとの共作であった「江南スタイル」はノリが良く中毒性が高いビートとラップ、そしてユニークなミュージックビデオが大いに受けて、世界的な大ヒットになった。タイトルや歌詞に入っている「江南」とはソウル特別市江南区のことであり、韓国のビバリーヒルズといわれるぐらいに高級感があり、セレブリティや富裕層が住む街として知られているということである。

「江南スタイル」はそのような地域にふさわしい裕福で贅沢な人たちのスタイル、あるいはそれに憧れて真似をする人たちを皮肉っているような曲らしいのだが、そこまでが世界中のリスナーにまでしっかりと伝わっていたかは定かではない。そもそもこの曲をつくった時にも海外のリスナーのことは想定していなく、思いがけない大ヒットだったということで、PSY自身もひじょうに戸惑ってしまったり、その後の活動に苦しんだりもしたようである。

ミュージックビデオにはいろいろとギャグ的なセンスが溢れてもいて、乗馬をイメージしたダンス以外にも見どころはいろいろある。この乗馬をイメージしたダンスなのだが、テレビ番組のオーディションでなんとか爪痕を残そうとインパクトがある動きをいろいろと考え、他にも候補があった様々な動物をイメージしたダンスの中から選ばれたものだという。また、裕福な人たちが住んでいる江南にはやはり乗馬のイメージもあるらしく、それを皮肉ったものではないかともいわれたりもしている。

この曲のビデオはとにかくYouTubeなどで視聴されまくり、再生回数がすごいことになっていることなどが話題にもなっていた。様々な有名人や一般人たちがこのビデオをパロディー化したことも、知名度をさらに上げるきっかけになった。SNSの発達や浸透などによって、一般人が気軽に動画をアップロードすることが当たり前になりつつあった時代の気分にも偶然にハマっていたような気がする。

当時、「江南スタイル」を支持していた人たちの大半はいわゆる批評的なスタンスの音楽リスナーではなく、普通の一般大衆だったのではないかというような気がする。それで、あまりシリアスに取り上げられなかったような印象もあるのだが、その後のK-POPの世界的な広がりを考えると、ひじょうに重要だったのではないかという気がしないでもない。とはいえ、この曲がすでに日本でもかなり人気があったいわゆるK-POPを代表するような楽曲だったかというと、けしてそういうわけでもなく、やはり大衆音楽としてのポテンシャルがかなり高かったのだろうといわざるをえない。

そして、欧米圏で広まったきっかけとしては、アメリカのラッパー、Tペインにはじまり、ブリトニー・スピアーズ、ケイティ・ペリー、ロビー・ウィリアムスといった有名スターたちがこの曲を取り上げ、さらにはジャスティン・ビーバーを発掘したスクーター・ブラウンとマネージメント契約を締結し、様々なテレビ番組に出演したことがひじょうに大きい。だからといってすべてがこれだけの大ヒットになるとは限らないわけで、そこはこの曲そのものの実力だったのだろう。